北朝鮮では長期化する経済制裁に、3年半以上に渡った新型コロナウイルス対策の国境封鎖が重なったことで、社会には少なからず混乱が発生。1990年代の大飢饉「苦難の行軍」の時と同様、治安悪化の様相も表れた。

特徴のひとつは、猟奇犯罪の多発だ。今月にも咸鏡北道(ハムギョンブクト)で、バラバラ殺人事件が発覚している。

一連の事件のうち、北朝鮮で最もセンセーションを呼んだ事件について振り返ってみる。

この間に起きた猟奇事件の多くは、庶民が困窮のあまり働いたものと見られているが、その一方で、一部の富裕層はやりたい放題を続けていた。脱北者で東亜日報記者のチュ・ソンハ氏が自身のYouTubeチャンネルとブログで、北朝鮮の金持ちの息子が起こした猟奇的な連続殺人事件について伝えている。

それによると、事件は2020年8月に発覚した。犯人は、平安北道(ピョンアンブクト)の鉄山(チョルサン)郡にある外貨稼ぎ機関の責任者だ。機関と言っても実態は私企業だという。朝鮮労働党朝鮮人民軍の高官にワイロで取り入り、機関の資格を得て利権を掌握していたということだ。

貝の養殖でぼろ儲けしていたこの機関の責任者は、親から利権を譲られた2代目だった。カネの力で放蕩の限りを尽くしていたが、やがて暴走に歯止めがかからなくなった。カネで買った美女を船上パーティーに連れ出し、薬物を与えるなどの行為を続けていたが、言うことを聞かないと殺害し、川に投げ捨てた。犠牲者の数は30人以上とされ、チュ氏も「信じてよいか迷う数字だ」と述べている。

いずれにせよ、下流に流れ落ちた遺体が次々に上がったことで犯行が発覚し、逮捕に至ったという。犯人がどうなったかについてチュ氏は言及していないが、北朝鮮当局がこうした犯罪を大目に見ることはない。特に、現在のような情勢下では治安維持のための見せしめとして、公開処刑にすることが多い。

そして、事件はこれだけでは終わらなかった。犯人はちょくちょく平壌に出ては、東大院(トンデウォン)区域にある総合レジャー施設「紋繍院(ムンスウォン)」で羽目を外していたことが取り調べの過程で明らかになった。

1982年に完成した紋繍院は、1階には大浴場、プール、2階には家族風呂と個人風呂、理容室、美容室などを備える。

そしてこの施設が、平壌の富裕層の「退廃的な楽しみ」の中心となっていたことが発覚。関係者が大量検挙され、処刑や追放などの大粛清が行われたという。

北朝鮮の女性軍人 ©Roman Harak