岸田総理が掲げる「異次元の少子化対策」の財源確保策として、高齢者の3割負担の対象を拡大する案が検討されています。緊急を要する少子化対策のため、仕方がないという声が多く聞かれますが、この案に言葉を失う人たちも。みていきましょう。

岸田総理「高齢者の負担、増やします」に涙する人たち

「異次元の少子化対策」の財源確保のために、社会保障の歳出改革を推し進めようとするなか、政府は具体的なメニューを盛り込んだ改革工程の素案を示しました。医療・介護では、現在、現役並みの所得がある場合、窓口負担や利用料「3割負担」としている対象を拡大する案が盛り込まれています。

まずは現行の高齢者の窓口負担についておさらいをしてみましょう。公的医療保険制度の負担割合は2022年10月以降、一定の所得のある75歳以上の高齢者は「2割負担」に変わりました。実際に自身が何割負担になるのかは【図表】のとおり。

【医療費の自己負担割合】

■健康保険/国民健康保険

・小学校入学前:2割

・小学校入学後~69歳:3割

・70~74歳:2割/現役並み所得者のみ3割

■後期高齢者医療制度

・一般所得者など:1割

・一定以上の所得のある人:2割

・現役並みの所得者:3割

 

ちなみに現役並みの所得者とは、住民税の課税所得145万円以上の被保険者と同一の世帯にいる被保険者です。

*課税所得=年金収入∸年金控除(120万円)∸所得控除(社会保険控除など)

改革は3段階に分けて実施する予定。来年度には「後期高齢者医療の保険料負担割合の見直し」「65歳以上の高所得者の介護保険料の引き上げ」「介護利用料の2割負担の対象拡大」など。次に、2028年度までには「医療、介護の3割負担の対象拡大」「医療、介護保険における負担への金融資産の保有状況の反映」など。そして2040年ごろまでには「負担能力に応じた、より公正な負担のあり方の検討」などを取り組むとしています。

少子化対策のために、高齢者の負担増……仕方のないことかもしれませんが、そこで落胆の色を隠せない人たちがいます。

――また俺たち、見捨てられたよ……

思わず言葉を失ってしまったのは、氷河期世代。別名「ロストジェネレーション世代」とも呼ばれている人たちです。

何の支援もなかった「氷河期世代」…自身が高齢者になった頃にはまさかの負担増

氷河期世代バブル崩壊後の1993年から2005年卒業で、その間に就職活動を行っていた人たち。2023年現在、40代~50代前半が該当し、なかでも就職が厳しかったのは2000年。就職氷河期とされる間でも、大卒の求人倍率が唯一、1.0を切った年でした。また大卒就職率は9割でしたので、1割は「大学を卒業しながら、就職できなかった……」という人たちだったのです。

就職からあぶれた人たちは、正社員になることを諦め、多くが非正規社員として社会人生活をスタートさせます。雇用環境が良くなったのは2006年あたりから。そのタイミングで正社員になれたなら万々歳。すぐにリーマンショックが起き、雇用環境は氷河期並みに落ち込みます。

再び雇用環境が改善するのは2013年ごろ。そのころは、すでに30代。雇用環境は良くなってきたとはいえ、正社員経験のない30代は就職に不利。「えっ、正社員の経験ないの? じゃあ何ができるの?」と門前払いされるケースも。結局、いまも不安定な就労状況下に置かれている人たちが大勢いるわけです。

2000年卒。現役で大学に入学し、ストレートで卒業していたら、2023年は46歳になっています。厚生労働省の調査によると、46歳の正社員(大卒・男性)であれば平均月収46.0万円、年収756.4万円。会社員として給与がピークに達する50代に向けて、まさに上り調子といったところ。一方、いまだに低空飛行を続ける46歳の非正規社員は月収で25.7万円、年収で352.5万円。「新入社員ですか⁉」というような薄給で働いています。

不遇の世代に、スポットライトがあたり始めたのはつい最近のこと。単なる個人の問題だけでなく、社会全体への影響が顕在化してきているためです。まず婚姻率の低下に伴う、出生率の低下。結婚適齢期とされるときに「低収入で結婚なんて考えられない」という氷河期世代が続出。少子化を加速させた原因とされています。

さらに氷河期世代がこれから経験するのは「親の介護問題」。低収入なのに親の介護に時間がとられ、ときには仕事を辞めざるを得ない場合も。親の介護から手が離れたころには、自身はもう高齢者。低収入に加え、親の介護のため十分な老後資金を貯めることができず、自らの老後は貧困との戦いになる……そんな未来が待っているのです。

そんな状況に対して賃上げや人材育成など、支援が叫ばれるようになりました。ただ上手くいっているかというと疑問符つくようです。

――現役時代は大した支援もなく、苦しかった……大変だった。だからせめて老後くらいは

そんな想いを抱いて氷河期世代はいま頑張ってきたわけです。しかし、そこにきて高齢者の負担増。彼らのささやかな願いは早々に崩れ去ってしまいました。

団塊の世代バブル世代負の遺産を背負わされ、少子化対策もほとんど受けられず、岸田総理が掲げる「異次元の少子化対策」の財源確保策で、少子化対策の負担も背負わされる……しかも、今回の負担増はまだ序章に過ぎず、高齢者のさらなる負担増は既定路線、という声も。なんとも救いようのない話です。

[参考資料]

厚生労働省『後期高齢者の窓口負担割合の変更等(令和3年法律改正について)』

厚生労働省『令和4年 賃金構造基本統計調査』

(※写真はイメージです/PIXTA)