累進課税の日本では、原則所得が増えるほど課税額も増えます。そのため「節税手段」を知っているかどうかで、手元に残る金額が大きく変わってくるのです。そのようななか「場合によっては、その年の所得税をゼロにする方法がある」と、税理士法人グランサーズの共同代表で税理士公認会計士の黒瀧泰介氏はいいます。いったいどのような方法か、詳しくみていきましょう。

合法的に“税金ゼロ”を叶える方法は存在する

――いきなりですが、税金ってゼロにすることはできないんですか?

黒瀧氏(以下、黒)「実は、できなくもありません。その方法が、『中古不動産投資』です。中古不動産への投資で所得税と住民税の支払いを抑えたり、場合によってはその年の所得税をゼロにできる可能性があります」

――ええっ、でも家賃が入ってくるから、結局収入が上がってしまいますよね? 反対に利益が出すぎて税金の負担も増えてしまうんじゃないですか?

黒「それが、不動産を活用することで、家賃収入を得つつ会計上は赤字を発生させ、それによって税負担を押さえることが可能なんです」

――そんな方法があるんですね……詳しく教えてください!

中古不動産投資で「所得税・住民税」を抑える2つのポイント

――そもそも中古不動産投資で、どうして所得税や住民税が抑えられたりゼロになったりするんですか?

黒「結論からずばり申し上げますと、短い年数で減価償却できる中古不動産を活用すれば、短期間に大きな赤字を計上することができます。それを給与所得と損益通算して課税所得を減らすことで、所得税・住民税を抑えることができるという仕組みです」

――中古不動産投資で大きな赤字を作ることで、所得税の課税所得を減らすということでしょうか?

黒「はい。ポイントは、

1.減価償却

2.損益通算

の2つです」

――まずは減価償却費についてですが、そもそも減価償却ってどういう仕組みでしたっけ。

黒「なにか大きな資産を購入した場合、購入した年に購入代金のすべてが費用になるわけではなく、その資産が使用できる期間にわたって、毎年、費用を分割して計上していきます。

これは会計処理独特のルールなのですが、この処理のことを『減価償却』といいます。

不動産の場合、土地は年月の経過によって価値が減少するとは考えられないので、減価償却の対象にはなりません。ただし、時間が経つにつれ劣化していく建物の部分に対してのみ、減価償却が行われます」

――経費になるのは建物部分だけってことですね。何年かけて経費にするかは、どうやって決まるんですか?

黒「それぞれの資産が何年で経費にできるかについては、国によって定められています。たとえば新品のパソコンであれば4年、新車は6年で経費にできます。この年数を『法定耐用年数』といいます。新築の木造建築の場合、法定耐用年数は22年です」

――つまり木造の不動産を新築で購入した場合、建物部分を経費にするのに22年かかるんですね。

黒「そのとおりです。これを踏まえたうえで、次に、不動産投資においてどのように不動産所得を計算するか確認していきましょう」

「減価償却費」が“節税の要”なワケ

不動産所得の計算方法

黒「不動産投資では「収入」から「経費」を引いたものが「不動産所得」になります。「収入」になるものと「経費」になるものは、

<「収入」となるもの>

  • 毎月の家賃収入
  • 更新料
  • 共益費

など

<「経費」となるもの>

  • 固定資産税・不動産取得税などの税金
  • 管理会社への管理費用
  • ローンの金利
  • 不動産経営に関わる交通費・飲食代
  • 減価償却

など

となっています。

――このとき、経費が収入を上回れば、赤字を作れるということですよね。

黒「はいただし、やたらに経費を無駄遣いしても意味はありません。最大のポイントは、経費のなかでも減価償却費」を短期間でより多く計上することです」

黒「先ほど見たように、新築の木造ですと経費にするのに22年かかります。しかし、これが中古不動産だった場合、たとえば築23年以上の木造の建物であれば、建物価格を4年で減価償却費として計上できます

――全然違いますね!

黒「このように、中古不動産を活用することで減価償却費を短い期間で計上し、不動産所得で赤字を発生させることが可能になります」

給与と不動産所得を相殺できる「損益通算」のしくみ

――続いて、ポイント2つ目の「損益通算」について教えてください。

黒「税金の計算上、個人の給与所得と不動産所得は合算して所得税を計算していくのですが、不動産所得がマイナスだと給与所得と相殺され、課税される所得が低くなります

わかりやすくするために、もの凄くザックリとしたイメージでお伝えしますね。給与所得が仮に1,200万円の場合、年間で約250万円の所得税・住民税が課税されます。

しかし、ここで不動産所得が“マイナス1,200万円”だったとすると、給与所得の1,200万円と不動産所得のマイナス1,200万円を合算(相殺)するので、課税所得がゼロになります。

結果として、納める所得税がゼロになるのです」

――なるほど。給与所得のプラスと不動産所得のマイナスを相殺できるんですね。

黒「そうなんです。これを『損益通算』といいます。複数の所得のなかで、黒字と赤字の所得を相殺したうえで所得税を計算する方法です。

所得税法では、所得の種類は全部で10種類に分かれていますが、損益通算に使えるのは、

  • 不動産所得
  • 事業所得
  • 山林所得
  • 譲渡所得

の4種類の赤字のみです。それぞれの頭文字を取って、富士山上(ふじさんじょう)”と覚えたりします。

――なるほど。不動産所得の赤字と給与所得の黒字を相殺して、所得税を抑えることができるわけですね。

黒「さきほど例に挙げた築23年以上の木造の建物のように、短い年数で減価償却できる不動産を活用すれば、短期間に大きな赤字を計上することができます。そして、給与所得と損益通算して課税所得を減らすことで所得税・住民税を抑えることができる、というわけです」

“築23年の木造の建物”が節税向きといえるワケ

――では、実際にどのような不動産であれば、短期間で多くの減価償却費を取れるんでしょうか。

黒「はい。これを見極めるには、建物の『構造』に注目してみてください。減価償却費は、対象になる建物の構造によって耐用年数が異なります。

新築の場合ですが、法定耐用年数は下記のように定められています。

  • RC:47年
  • 重量鉄骨:34年
  • 軽量鉄骨:27年
  • 木造:22年

物件が中古の場合は、「簡便法」という計算式で耐用年数を求めることができます。

<簡便法による計算式>

法定耐用年数の一部を経過した物件の場合 ……償却期間=法定耐用年数-(築年数×0.8)

法定耐用年数をすべて経過した物件の場合 ……償却期間=法定耐用年数×0.2

こちらを使うと、法定耐用年数をすべて過ぎている場合の耐用年数は下記のようになります。

  • RC:9年
  • 重量鉄骨:6年
  • 軽量鉄骨:5年
  • 木造:4年

この期間で償却することになります」

――法定耐用年数を過ぎている木造だと4年、軽量鉄骨だと5年で経費にできるわけですね。

黒「はい。したがって、節税を考えて不動産を購入するのであれば、

  • 築35年の重量鉄骨の建物:6年償却
  • 築28年の軽量鉄骨の建物:5年償却
  • 築23年の木造の建物:4年償却

などがおすすめです。

注意!出口を見誤ると“節税できない”ケースも…

――いやあ、ということで、これで所得税をゼロにする方法がまるっと完全にわかりましたね!

黒「いやいや、まだ終わりじゃないんですよ。すごく重要なことがあります。それは、出口戦略です」

――出口戦略……? 「所得税が下がってラッキー!」じゃダメなんですか?

黒「考えてみてください。『減価償却期間が短い』ということは裏を返せば、数年で減価償却費が計上できなくなるということです。

そうなると今度は課税対象となる不動産所得が大幅に増え、元の給与所得に合算されて所得税や住民税も増えてしまう可能性があります」

――たしかに……せっかく減価償却費で節税できても、そのあとに所得税や住民税が増えるんじゃ、意味ないですね。

黒「このような現象を、不動産投資家のあいだでは「デッドクロス」と呼んだりします。

減価償却費が取れなくなり、ローンの利息も少なくなってくるので、経費に入れるものが少なくなります。こうなると、計上できる経費より出ていくお金が大きくなるため、キャッシュフローが苦しくなります。資金繰りに困り、最悪「黒字倒産」という可能性もあるのです」

――え~! それは本当に最悪ですね。では、不動産投資節税の出口戦略はどのように考えればよいでしょうか。

黒「はい。これは、『不動産を持ち始めてから5年度以降に売却してしまう』という方法が有効です」

――売却するんですね! でも、結局そのタイミングで課税されることになりませんか?

黒「おっしゃるとおりです。減価償却により、建物の会計上の価値、つまり簿価が減っていくため、売却価格と建物の最終的な簿価との差額が売却益と見なされ、その部分に譲渡税がかかってきます」

――じゃあ結局、節税したっていうより、課税されるタイミングを先延ばしただけじゃないですか?

黒「はい、この減価償却による節税というのは本質的には課税の繰り延べ(先送り)です。しかし、減価償却期間中の所得税・住民税と、譲渡税の税率に差がある場合は節税効果があるといえます。

――どういうことですか?

黒「所得税の税率は、最高で45%、住民税10%も加えると55%になります。

一方、譲渡所得の税率は、短期譲渡所得、つまり、売却年の1月1日時点での所有期間が5年以内の土地・建物を売却した場合の税率は約40%。そして、長期譲渡所得、つまり所有期間が5年を超える土地・建物を売却した場合は約20%です。

――所有してから5年度以上で売却した場合の税金は、20%で済むんですね。

黒「はい。短期で売却しても節税効果は期待できませんが、長期譲渡ですと、売却時にかかる譲渡税は20%です。もともとの税率が50%など高所得の方の場合は、譲渡税を選択した方が節税になりますね。

――なるほど。この税率の差を活用できるわけですね。

黒「税率差が大きいほど節税効果も高くなるので、給与所得が高い方ほど効果がある節税方法といえます」

黒瀧 泰介

税理士法人グランサーズ共同代表/公認会計士税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)