夫がいても誰かを好きになっていいですか
『夫がいても誰かを好きになっていいですか』(ただっち/KADOKAWA

 誰かを好きになるのは、誰にも止められない感情だ。しかし、もし自分が結婚していた場合、その恋心は自分から多くのものを奪い、同時に多くの人を傷つけてしまうことになるかもしれない。ただっちさんの『夫がいても誰かを好きになっていいですか』(KADOKAWA)は、そんな葛藤の中で揺れる主婦の姿を描いた作品だ。

夫がいても誰かを好きになっていいですか

 優しい夫のさりげない一言にキュンとする、一見すれば仲睦まじい夫婦だが、実はこの二人はとあるきっかけから1年間レス状態が続いていた。

 それは、ある日の旅行中のこと。夫の半ば無理やりな行為に主人公が痛がり、その態度を不快に思った夫がやめてしまった。それ以来、夫からは一切誘われなくなってしまったのだ。

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 その上、お互いに言葉足らずだからか、暮らしの中で些細なすれ違いが重なっていく。

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 主人公は夫の一言に傷つくものの、慣れない土地で夫に依存していた部分も認め、パートの仕事を始めるようになる。前職を辞めてから3年、久しぶりの仕事がある生活に、少しずつ活力を感じ始める主人公。そして、そこで一人の男性と出会うのであった。

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 同じアルバイトだが、そっけなくて、感じが悪い後藤さん。しかし、なんだか憎めなくて、可愛らしいと思う瞬間もある。

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 職場で時間を過ごしていく中で、少しずつ二人の距離も縮まっていく。

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 120円のジュースを奢ってもらったことが異様に嬉しかったり、LINEの些細な一言にホッとして涙を滲ませたり。主人公の後藤さんに対する反応は、もはや恋する少女だ。そして次第に後藤さんも、主人公に対して気にするそぶりを見せ始める。その瞬間だけ切り取れば、初々しい男女の恋物語でしかないが、主人公は既婚者である。これ以上関係が進んでしまえば、不倫になってしまう。主人公もそれはわかっているようだが、一方で後藤さんとの関係に諦めがつかないのか、自分に夫がいることを隠してしまう。

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 主人公は、後藤さんが自分によくしてくれたり遊びに誘ってくれたりするのは、自分のことを女として見ているからだと思っている。だからこそ、既婚者であることを隠し、デートのために新しい洋服を買い、美容院の予約をする。夫に女として見られなくなっていた主人公にとって、後藤さんは自分の心にポッカリと空いた穴を満たしてくれるような存在でもあったのかもしれない。

 その上、これは主人公にとっても予想外のことだったが、後藤さんは主人公に夫がいると知った後も変わらず優しく接してくれた。それどころか主人公が家で我慢していたことに対して、自分事のように怒り、慰め、包み込んでくれた。変わらず女性として見てくれていたのだ。

夫がいても誰かを好きになっていいですか

 夫がいても、別の男性を好きになってしまった主人公。夫がいると知っても、変わらず主人公に惹かれる男性。じゃあもう離婚してくっついちゃえばいいじゃん、とは、いかない。その後のことを考えれば、現実的な諸問題がのしかかってくる。

夫がいても誰かを好きになっていいですか

 誰かを好きになるのは、自分でも止められない生理的な感情だ。だが、その感情を持って自分の未来をどうしていくのか、それは夫婦という契約を結んでいる以上、夫婦がお互いに向き合って納得のいく答えを出すべきだ、と思う。……まあ、現実はそう簡単にいくものでもないのだが。果たしてこの夫婦が、そして主人公と後藤さんの関係がどうなったのか、それは実際に本書を読んで確かめてほしい。

文=園田もなか

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1年以上セックスレスだった主婦が夫以外の人に恋心。平凡なひとりの主婦の恋と葛藤「夫がいても誰かを好きになっていいですか」