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働いて“自分の年金”を増やし、貯蓄することが賢明な対策のひとつ

国立社会保障・人口問題研究所によると、死別や離婚で独身になった75歳以上の女性は2020年で606万人。

東京都立大学の阿部彩教授の集計によると、手取りである可処分所得が中央値の半分に満たない人の割合を示す“相対的貧困率”が、夫と死別した65歳以上の女性は32%(2018年)にのぼることがわかった。

高齢シングル女性の窮状は、別のデータでも見えてくる。ニッセイ基礎研究所の坊美生子准主任研究員が語る。

「シングル高齢者の年金受給状況を調べたところ、65歳以上で夫と『死別・離別』した女性の33.9%が年金100万円未満(月額約8万3000円未満)で暮らしていることが明らかに。実に3人に1人は生活が苦しい困窮状態であることが判明しました」

これから年金生活を控えた50代にとって、将来、夫との死別後に困窮しないためには、どのような防衛策があるのだろうか。

■夫の死後、基礎年金はひとり分に

夫が現役時代に会社員や公務員だった場合、夫の死亡後に妻は遺族厚生年金を受給できる。だが、7年前に夫と死別した都内在住の阿久津恭子さん(79歳・仮名)はこう語る。

「夫が生きていたときは月20万円ほどの年金収入があり、国内旅行に行ったり、孫と外食したりと慎ましくも楽しく暮らしていました。いざというときも、遺族年金があるから大丈夫だと思っていましたが、いざ、夫が亡くなって“こんなに年金が少なくなってしまうの”と絶望しました」

生活設計塾クルー取締役でファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんが語る。

「遺族年金は、会社員・公務員だった夫の『老齢厚生年金』(報酬比例部分)の4分の3にあたる額。老齢基礎年金は“1人1つ”が原則なので、遺族年金の対象外です。残された妻は、遺族厚生年金と自分の基礎年金で生活することになります。

厚生労働省がモデルとする比較的恵まれた世帯で試算しても、夫が亡くなれば年間100万円も収入がダウンします。まずは、この現実を認識することが重要です」

働いて“自分の年金”を増やし、貯蓄することが賢明な対策のひとつだと深田さんはこう語る。

「時給で働くパートには社会保障の壁として『106万円の壁』と対象範囲が広い『130万円の壁』があり、その壁を越えると夫の扶養から外れて自分で年金や健康保険の保険料を負担することになります。

厚生年金に加入して自分で保険料を払うと、将来の年金額がわずかですが増えます。たとえば年収155万円で20年間働き続けると、将来もらえる年金額は約17万円、1カ月あたり1万4000円増えます。年金生活において1万〜2万円が増えるメリットは大きいのです。

会社員の妻で、パートをしている女性に多いのが“自分の小遣いぐらいは自分で稼ぐ”と稼いだ分を使いきってしまう人。できればパート収入の半分は、自分名義の口座に老後資金として貯めましょう」

■繰り下げ受給で死別リスクが激減

死別による困窮リスクに備えるには、年金の受給を65歳から遅らせる「年金の繰り下げ」が効果的だという。

「年金の受給を遅らせると、額面の年金額は1カ月ごとに0.7%増え、受給開始を70歳にすれば1.42倍、75歳にすると1.84倍に。

ただし、遺族年金は『65歳時点の厚生年金の金額』をもとに計算されるため、夫の厚生年金の受給開始年齢を繰り下げても、遺族年金には増額分が反映されません。なので、妻の基礎年金を繰り下げることがおすすめです。

女性の平均寿命を考えると、繰り下げで“得”になる可能性は高い。70歳に受給開始する場合は82歳で、75歳に開始する場合は87歳で、65歳から受給した場合の手取り額を上回ることになります。年金の繰り下げは、夫の死亡後の収入ダウンの有効な対策になるでしょう」(深田さん)

しっかり対策して、“死別破綻”を防ごう。