「価値観の違う相手とどう話せばいいのかわからない」「こちらの話は聴いてもらえず、一方的に話されてしまった」コミュニケーションの悩みは尽きないもので、ちょっとしたことで相手に不快感を覚えたり、逆に不快感を与えてしまったりすることは多々あります。本稿では、研修講師として民間企業、官公庁の研修・講演の講師の仕事を歴任し、25万人以上への指導経験を持つ、日本アンガーマネジメント協会理事である戸田久実氏の著書『アクティブ・リスニング ビジネスに役立つ傾聴術』(日経文庫)より、一部抜粋して紹介します。

相手の感情に振り回されないための「聴くスタンス」

良好な人間関係を築くには、相手の感情に巻き込まれないことも必要です。相手の怒りを制することもなく、抑えようとすることもなく、巻き込まれないようにするというスタンスが一番理想的です。

たとえば、「ちょっと聴いてくださいよ。こんなことがあって、本当に腹が立つんですけど」と言われたら、わたしは「腹が立ったって、何があったの?」と、最初に聴くようにしています。そうすると相手が事情を話してくれるので、「わかった。どんな状況で、どうしてそうなってしまったのかをちゃんと聴いていい?」と、こちらもさらに聴く姿勢を見せます。

そして、相手が話すたびに 「こんなことがあったのね」 とこちらがポイントを復唱していくと、相手も自分の話を少し整理し始めるので、話が間延びしなくなります。

まずは相手の話に振り回されないことを意識しましょう。

アンガーマネジメントの手法のひとつ「コーピングマントラ」もおすすめ

相手の感情に巻き込まれないポイントは、一緒に感情的にならないことです。

アンガーマネジメントの手法のひとつである、コーピングマントラもおすすめです。これは、自分の心が落ち着く言葉(フレーズ)をイラッとしたときに思い浮かべるというものです。先ほどのようなシーンでは、わたしは「怒っているのはこの人の感情で、わたしの感情ではない」と自分に言い聞かせるようにしています。

「そんなに怒ることもないのでは?」と、相手の感情を否定すると、相手は「何もわかってないんだから!」と、怒り出すか、拗ねてしまう人もいます。

「それは腹が立って当然!」と、相手の感情に同調したり、一緒に怒りはじめたりすることなく、話を進めましょう。

心がけたいのは“相手の気持ちを未来へ向けさせる”こと

相談事を持ちかけられたときには、「そうだよね。そんなことを言われたら、悲しいよね」「そうか。そういうふうに言われたくなかったよね」「そんな評価をされて、傷ついちゃったね」というように、最初から相手に共感の言葉をかけるようにしましょう。

 

わたしは、コンサルをするときも、誰かの相談に乗るときも、最終的には未来に気持ちが向くように心がけています。「そうか。それでどうしたいと思っているの?」「これからどうしたいと思っているの?」と共感しながら、未来を考えてもらうのです。

 

アンガーマネジメントは、元々、解決志向をベースにした理論です。「なぜ、あの人ってあんなことを言ってきたのだろう」「どうしてこんなことになっちゃったのだろう」「なぜ、ここまで言われなくてはいけなかったのだろう」というように、過去に目を向けて原因追及をするのではなく、現状を把握したうえで、「今後どうすればいいのか」に目を向け、行動選択をします。

 

ですから、「今後、何ができると思う?」「どんな方向性に向かったら納得できる?」このように、未来の解決の方向に向けた質問をしていくと、かなり感情的になっている相手でも、建設的な方向に気持ちを向けられるようになります。

相手に最善策を考えてもらう

あの人がこんなことを言ってきて、こんなメールをしてきて……という相談を受けたときも、 「それを言われたら傷つくね」「今後もやりとりが続くけれど、どうしようか?」と冷静に聴いていくと、「まさか感情的にメールを返すわけにもいかないし、文句はつけられないし……」 と、だんだん相手の思考が働くようになっていきます。

 

その後、問題が解決してから、「おかげさまで、下手に感情的なメールを返さずに済んだよ」 とお礼を言われたこともあります。

 

怒りは、何かに不満を持ったり、自分が「こうあるべき」と思っていたりすることが破られるときにわいてくる感情です。だからこそ、「では、本来どうしてほしかったのだろう?」「いまから言えること、いまからできることってあるかな?」と、本人が最善策を考えられるように、第三者が質問をすることも大切です。

 

アンガーマネジメントとアクティブ・リスニングを活用することで、怒りの相談事も発展的に解決していきましょう。

戸田 久実

アドット・コミュニケーション株式会社代表取締役

一般社団法人日本アンガーマネジメント協会理事

画像:PIXTA