総務省「家計調査年報(家計収支編)2021年」によると、高齢単身無職世帯の家計収支は平均「132,476円」とされています。そのようななか、収入が国民年金のみの場合、どのように生きていけば良いのでしょうか。収入が年金月6万円のみの80歳女性と、母への金銭的な援助が難しい49歳息子の事例をもとに、株式会社FAMORE代表取締役の武田拓也FPが具体的な対策を解説します。

ひとり暮らしする母の預金額に絶句した長男

夫婦で居酒屋を営んでいた80歳のAさん。4年前に5歳年上の夫を亡くし、現在はひとり暮らしです。夫の死後、49歳のひとり息子はAさんのために毎週実家へ帰っていましたが、Aさんは息子に心配かけまいと、気丈にふるまっていました。

古くて資産価値はないものの、自宅は持ち家なので家賃はかかりません。しかし、収入は国民年金のみ。月に均すと「約6万円」です。

Aさんは決して贅沢をせず、節約しながら生きていましたが、毎月6万円では到底生活できません。夫が死亡した時点で300万円ほどあった貯金は徐々に減っていき、ついに10万円をきってしまいました。

息子に心配をかけまいと、お金のことは話していなかったAさん。しかし心労もあり、どんどんやせ細っていくAさんを心配した息子が理由を問いただし、Aさんはついに現状を告白しました。

Aさんの預金額を聞いた息子は絶句。「なんでもっとはやく相談してくれなかったんだ!」と言ってくれたことは嬉しかった一方、息子にも金銭的な余裕がないことを、Aさんは知っていました。

息子の年収は450万円ほど。日本の平均給与である458万円(国税庁令和4年分民間給与実態統計調査)と同程度で、ひとりで暮らす分には問題ありません。しかし息子には妻と子どもがいます。

息子としても、自分が援助できれば丸く収まるとは思いつつも、子どもにかかってくる教育費などを考えると、Aさんに金銭的な援助をする余裕はありません。頭を抱えた息子さんは、以前に知り合った筆者に相談することにしました。

収支の改善ではどうにもならないAさん…筆者の提案は

Aさんの収入は年金の月6万円しかなく、預金も10万円をきっています。

また、今は自宅で生活できていますがAさんは80歳と高齢なため、病気や介護のことも心配です。

そして、ひとり息子としてなんとかしたいという気持ちはあるものの、所帯があるため、金銭的な援助は現実的ではないという結論に至りました。

なおAさんの持ち家に価値があれば、自宅を担保にした融資制度である「リバースモーゲージ」を利用して、住居を手放すことなく収入を確保することも考えられました。しかし残念ながら、Aさんの自宅に担保の価値はなく、実現できませんでした。

ほかに現金化できる財産もなく、収支の改善は難しそうです。そこで筆者は、「生活保護の申請」を提案しました。

生活保護とは…申請の注意点

生活保護とは、「国が生活に困窮する国民に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障する制度」で、年金などの収入と最低限の生活費との差額分が支給されます。

生活保護における高齢者世帯の受給者数は増加しており、半数以上が高齢者世帯によって占められています。

生活保護を申請する際の心配ごと】
  • 生活保護を申請しても、窓口で追い返されるのではないか。
  • 家族に扶養義務があるので、息子は借金をしてでもAさんに仕送りをしないといけないのではないか。
  • Aさんの自宅を売却しなければならないのか。
  • 介護が必要となった時に、施設へ入居できないのではないか。

生活保護における扶助にはどのようなものがある?

生活保護には「生活扶助」「住宅扶助」「医療扶助」「介護扶助」「葬祭扶助」「教育扶助」「出産扶助」「失業扶助」の8つの扶助があります。

【今回のAさんに関係する5つの扶助について】

①生活扶助

食費や光熱費、被服費など日常生活を送る上で必要な費用が支給されます。

②住宅扶助

必要最低限の家賃が支給されます。ただし、持ち家の場合は支給対象となりません。

③医療扶助

医療券が発行され、提示することで診察や手術などを無料で受けることが可能です。

④介護扶助

介護保険の要介護認定を受けることにより、介護サービス利用費が支給されます。

⑤葬祭扶助

遺体の運搬や火葬、埋葬など葬祭費用が支給されます。

生活保護を受けるためには、世帯収入が最低限度の生活費を下回っていることが前提です。「資産の活用」「能力の活用」「あらゆるものの活用」「扶養義務者からの扶養の活用」をしたうえでも生活が苦しい場合に申請できます。また世帯収入には、給与以外の年金や保険金、相続なども含まれます。

なお申請時には、収入だけでなく貯蓄額や資産、不動産の所有状況なども確認されます。

■資産の活用

売却等で生活費に充てる必要がある資産には以下のものが挙げられます。

  • 10万円以上の現金や預貯金
  • 不動産
  • 自動車
  • 生命保険 など

ただし、持ち家や土地に売却価値がない場合、または売却すると生活に支障をきたす場合には持ち家や土地を売却する必要はありません。

■能力の活用

働くことができるのであれば、それぞれの能力に応じた収入を得る必要があります。

ただし、病気や怪我、高齢などにより働くことが困難な場合には生活保護の受給が認められます。

■あらゆるものの活用

年金や手当、その他の制度など生活保護を申請する前に活用する必要があります。

■扶養義務者からの扶養を活用

生活保護を申請する前に、家族や親戚から援助を受けることが求められます。

生活保護法では、本人から三親等までの親族が扶養義務者とされています。親族から得られた援助から足りない分を生活保護で補うことになります。ただし、別世帯の家族が生活に余裕が無く、本人に対して援助ができない状況の場合には必要ありません。

【申請の流れについて】
  • 行政の担当窓口にて生活保護について相談し、説明を受ける
  • 申請に必要な書類を提出する(収入申告書や資産申告書など)
  • 申請後、担当者によって本人の資産が金融機関にないか確認、親族に扶養できる人がいないか調査
  • 調査の結果、申請の可否が2週間程度で通知される

息子が提案した“最後の手段”…Aさんは生活保護を受給できた?

生活保護の申請手続きには、Aさんと息子の2人で一緒に窓口へ行っていただきました。

窓口で生活保護について相談したところ、担当者から制度について丁寧に説明してもらったそうです。Aさんが現在の状況を伝えたところ、「息子さんに扶養してもらっては?」と担当者から声掛けがありました。しかし息子は現状を説明し、「妻子がおり、余裕がないため無理です」と伝えました。

その結果、Aさんは無事に生活保護を受けることができました。

息子は「借金をしてでも自分がAさんを扶養しなければならない」と心配していたそうですが、経済的に余裕が無い場合には、無理に仕送りなどをする必要はありません。

また息子は、「生活保護を受けていると高齢者施設に入居できないのでは」とも心配していました。しかし、特別養護老人ホーム(特養)やサービス付き高齢者向け住宅のなかでも、生活保護者に対応している施設であれば入居は可能です。自宅での生活が難しくなっても、生活保護を受けているからといって入居できないといった心配はありません。

生活保護には医療扶助や介護扶助もあります。1人で悩むのではなく、まずは身内に相談を。またできるだけ早く、行政の相談窓口や地域包括支援センターなどに相談しましょう。

武田 拓也

株式会社FAMORE

代表取締役

(※写真はイメージです/PIXTA)