※本稿は、チーフリサーチストラテジスト・石井康之氏(三井住友DSアセットマネジメント株式会社)による寄稿です。「アジアリサーチセンター」のレポートを基に、中国を中心に11月のアジア・マーケットを振り返ります。

アジア:マーケット動向

⇒【株式】概ね上昇、【通貨】概ね上昇、【債券】金利低下。

【株式市場】

◆概ね上昇

米連邦準備制度理事会(FRB)による利上げ打ち止めに対する期待感が高まったことを受けて米国株式市場が上昇し、アジア・オセアニア株式市場も連れ高となった。韓国は、韓国金融委員会が株式の空売りを禁止したことなどから上昇し、台湾も米中首脳会談を受けて、地政学リスクが緩和したことや、半導体大手の台湾セミコンダクターの月次売上高が過去最高を更新したことなどから堅調だった。ベトナムは、米ドルに対しベトナムドンが堅調に推移したことが好感され、10月の消費者物価指数CPI)が鈍化したインドも上昇。オーストラリアは国債利回り低下により不動産関連セクターが堅調に推移したほか、中国の景気対策などを受けて鉱山株も上昇した。一方、香港や中国本土は、中国の物価統計の低迷による景気減速懸念などから軟調だった。

【通貨(対米ドル)】

◆概ね上昇

米ドル軟調下で、多くのアジア通貨の対米ドルレートが上昇した。株式空売り禁止規制を受けて株式市況が上昇した韓国では資本流入を通じてウォンが最も上昇した。一方、インドでは内需堅調に伴う輸入増加で貿易収支赤字が急拡大したルピーが若干下落した。

 

【債券(国債)市場】

◆金利低下

アジア国債利回りは欧米金利に連動し低下、特に韓国、オーストラリアベトナムなどで大幅低下となった。韓国やマレーシアでは政策金利が維持された。オーストラリアでは5会合ぶりの利上げ実施の中、声明文でのタカ派姿勢は弱まったが、追加利上げの必要性はデータ次第との中銀スタンスも再確認された。

<※参照:各国の株価指数の名称>

●中国:上海/深圳CSI300指数、●香港:ハンセン指数、●韓国:韓国総合株価指数、●台湾:台湾加権指数、●インドネシアジャカルタ総合指数、●マレーシアクアラルンプール総合指数、●タイ:SET指数、●ベトナムベトナムVN指数、●シンガポールシンガポールST指数、●フィリピンフィリピン総合指数、●インドSENSEX指数、●オーストラリア:ASX200指数

中国<金融市場動向>

⇒株式はもみあい、人民元は一旦安定、金利はもみ合いながら低下。

【株式市場】

◆一部不動産株が上昇

中国の物価統計の低迷による景気減速懸念のほか、eコマース(電子商取引)大手のアリババがクラウド事業の分離独立計画を撤回したことなどが株式市場のマイナス要因となった。一方、中国政府が不動産市場向けに1兆元の低金利資金を提供するとの報道などを受けて、一部の不動産関連株が上昇した。投資戦略においては、引き続き構造的な成長分野の有力企業、政策のサポートを得ている企業、国際競争力のある企業、増配が期待できる企業に着目し、ツーリズム関連や環境関連、国産化が進展するソフトウェアや工場自動化部品、消費の高度化などを長期目線では有望視できそうだ。

【為替・債券(国債)市場】

人民元は一旦安定

米国の利下げ観測が浮上しつつある状況下では人民元の対米ドルレートは上昇しやすい。少なくとも利上げ観測が後退している状況では人民元は安定するだろう。一方、日本では利上げを含めた金融引き締めへの警戒感があるものの、引き締め長期化の可能性が低いことから円に対する下落リスクは限定的だろう。

◆債券利回りはもみ合いながら低下する展開

中国では、軟調な経済指標の継続が金利の低下圧力となった一方、不動産政策への期待が金利の上昇圧力となる中、流動性環境の動向に左右される展開となり、金利は一進一退の推移。目先は、政府が追加国債発行を発表したものの、景気下支えの効果は限定的に留まり、追加の政策期待が一巡する中、中国経済の回復の鈍さが意識される状況に戻る可能性が高いと見込み、中国国債利回りはもみ合いながら低下する展開を予想する。

中国<マクロ経済動向>

⇒11月の景気センチメントは悪化。

◆製造業PMIが50割れ

製造業購買担当者景気指数(PMI)は11月に市場予想を下回り、49.4へ低下した。需要不足が深刻化した影響とみられる。また、製品価格指数が引き続き50割れとなったことから、多くの製造業では原材料費用など調達コストが上昇しても、製品価格に転嫁することが難しい状況が続いている。この点が製造業発の低インフレをもたらしているとみる。更に、11月の非製造業PMIは市場予想を下回り、50.2へ低下した。家計の需要不足が企業業績を悪化させ、企業が従業員の報酬カットを行うことで家計の購買力が低下するという悪循環に陥っている模様だ。

◆低インフレ局面

10月の消費者物価上昇率は前年同月比▲0.2%と市場予想を下回り、再びマイナス圏となった。上記のような需要不足が続いているため、需給ギャップが縮小せずに低インフレの状況が続いているとみる。消費者物価指数は各品目のウェイトが固定されてるため、基準年から時間が経過するほどインフレ状況を過大評価しやすい。実際の日常生活では、家計の財布の紐が厳しくなると、家計は更に低価格の代替品を探すため、消費者物価指数が示唆するよりも低インフレに陥っていることに留意したい。

◆住宅価格の下落基調が続く

国家統計局が取りまとめている70都市の中古住宅価格を見ると、10月に1級都市の前月比が▲0.8%と大幅に下落した。1級都市の地方政府は8月下旬以降、住宅購入規制の緩和を進めており、9月の前月比が+0.2%へ反転した後の出来事だ。富裕層を中心に住宅価格の先行きに不安を感じており、規制緩和を売り場の機会と解釈していたことがうかがえる。住宅価格の下落基調が長期化することによって、家計部門の資産価値が目減りし、需要不足をもたらす構図が今後も続きそうだ。

(2023年12月7日

石井 康之

三井住友DSアセットマネジメント株式会社

チーフリサーチストラテジスト

※個別銘柄に言及していますが、当該銘柄を推奨するものではありません。

※上記の見通しは当資料作成時点のものであり、将来の市場環境の変動等を保証するものではありません。今後、予告なく変更する場合があります。

※当レポートの閲覧に当たっては【ご注意】をご参照ください(見当たらない場合は関連記事『中国、異例の「年度途中での予算修正」を行うも不動産企業を巡る信用懸念などが株式市場の重石に【三井住友DSアセットマネジメントが解説】』を参照)。

(※写真はイメージです/PIXTA)