11月30日、Apple 表参道で日本で初のApple StoreとなったApple 銀座のオープン20周年を祝うスペシャルイベント、「Today at Apple『エクスクルーシブ:STUTSスペシャルライブ』」が開催された。本イベントはApple Storeでおこなわれる無料ワークショッププログラム「Today at Apple」の名を冠しており、ライブの開始前にはApple 表参道のスタッフによるiPhoneのカメラ撮影のレクチャーもおこなわれた。

【画像】一夜限りのスペシャルライブを披露したSTUTS 150組の観客と共に記念写真をパシャリ

 先着順で参加した150人の幸運な観客たち。彼らの歓声に迎えられたSTUTSとの簡単なトークセッションからイベントは始まった。STUTSは普段から制作にApple製品を活用しており、過去にはバンド・CHAIとともに「Today at Apple」のワークショップを担当したことも。会場になったApple 表参道にもよく足を運ぶという。インタビューもそこそこに、ライブの意気込みについて尋ねられたSTUTSは「普段と違う会場なのでドキドキしていますが、ぜひ楽しんでいただけたらうれしいです」と語り、そのアクトをスタートした。

 ライブステージには彼のアクトを支えるサンプラー・AKAI professionalの『MPC LIVE II』やローランド社のキーボードなどが並ぶ。キーボードの前に立ち、弾き始めたのは「intro orbit」のメロディ。アルバム『Orbit』にたびたび登場する印象的なフレーズを奏でると、MPCの前に移り「Back & Forth」を演奏、勢いのいいフィンガードラム・パフォーマンスを繰り出していく。ゆったりとした心地の良いメロディと切れのあフィンガードラムの対比がクールだ。

 演奏が終わると休むまもなく、即興的にAPCを叩いてギターのコードを響かせる。次に披露されたのは「Come to Me」。アップテンポで軽やかな、ハウス調のビートが楽しい楽曲だ。楽曲のテンポとともにSTUTSのノリも激しくなっていく。続く楽曲は「One (feat.tofubeats)」。tofubeatsとSTUTSの2名がボーカルを取る楽曲だが、今回は両名のバースをいずれもSTUTSが歌う。MPCを叩きながら歌い、合間ではキーボードによるメロディの演奏もおこなうなど、高度なプレイが目の前で繰り広げられた。

 4曲を披露したSTUTSはMCで「One (feat.tofubeats)」のアクトについて触れ、「今日は初めて、『One』で歌いながらMPCを叩いてみました」と語った。続けて「珍しい会場なので、普段はあまりやらないようなことをやりたい」と、MPCの即興演奏を披露し始める。クリック音に合わせて生のドラムループを演奏し、その上からさらにサウンドを追加していく行程を眺めていると、気づけば目の前で“STUTS流”のループシーケンスが組み上がっていく。キーボードでコードとメロディを追加していき、ヒップホップビートが完成すると、次の瞬間に流れ出したメロディによって、これが楽曲「Floating in Space」の冒頭を再現したアクトであることに気付かされる。静かな「Floating in Space」のサウンドに合わせて即興的にキーボードを演奏するSTUTS。電子楽器の反復的な演奏が特徴だが、そのプレイは即興性を多分に含んでおり、アクトと音からは常に人間のゆらぎを感じられる。

 その後、「今日は素晴らしい友人を呼んでいます」とゲストの北里彰久(Alfred Beach Sandal)を呼び込み「Daylight Avenue」「パノラマ」をプレイ。北里の暖かくどこか寂しい歌声とSTUTSのフィンガードラムがApple 表参道に高らかに響く。

 北里が去った後、「Presence I (feat. KID FRESINO)」をプレイすると、続けて聴こえてきたのは「夜を使いはたして feat. PUNPEE」のイントロ。STUTSは「今日はPUNPEEさんはいらっしゃらないんですが、歌えるところは歌ってみようかなと思います」と語り、フィンガードラムをプレイしながらPUNPEEのバースの上にラップを重ねていく。フックでは観客を煽るシーンもあり、まさにこのライブのピークを感じさせるアクトだが、ここで終わらないのがこのイベントのすごいところ。「もう一曲、友人とやりたいと思います」と語ると本日二人目のゲスト、JJJが登壇する。

 歌われた「Voyage (feat.JJJ,BIM)」「Changes feat. JJJ」はいずれもヒップホップらしい自己言及的な詩が歌われる楽曲で、ビートの上で繰り広げられる心情や風景の描写が美しい。北里とJJJという、異なるスタイルを持つ2名のゲストを迎えたライブが、STUTSというプレイヤーの持つ多様な魅力をも存分に描き出していく。

 「こんな場所でライブをさせてもらうこと、見てもらえることもなかなかないことですし、その感じを楽しんでいただけたら、嬉しいです」とMCを始めるSTUTS。Apple Storeの日本上陸20周年に祝いの言葉を送った後、最後に披露したのは「Seasons Pass」。STUTS自身がラップ&ボーカルを取る楽曲だ。

 フィンガードラムを演奏しながら歌唱するSTUTSのバックにはNYの街頭でMPCを叩く若いころの彼の写真が投影され、歌詞の世界観も相まって観客に情感が降り注ぐ。MPCでアウトロを叩き、「ありがとうございました! STUTSでした」と一言述べた後、iPhone 15 Proで観客との記念撮影をおこない、このスペシャルなライブをしめくくった。

(取材・文=白石倖介)

STUTS(画像提供=Apple)