Text:丸井汐里 Photo:村長 / タカハシ

ブラックミュージックを軸に、あらゆる音楽ジャンルをクロスオーバーさせたミクスチャーな音楽性が光る5人組バンド・KroiMステをはじめTV出演の機会も増加し、各地のフェスで初見のオーディエンスも見事に沸かせまくるなど、2023年は飛躍の年となった。2024年1月20日(土)には、初の日本武道館公演を控えている。

そのKroiが11月から12月にかけて行っているツアー『Dig the Deep』。Kroiのメンバーがリスペクトし、一緒に演りたいと思うバンド・アーティストを迎える対バン企画だ。第4弾の今回は、全国7都市で7アーティストとのライブを開催。ここではツアー6か所目、11月26日(日)のセミファイナル仙台PITでの模様をレポートする。

先に登場したのは、メンバー全員がソロアーティスト・ミュージシャン・プロデューサーとしても活躍する、マルチプレイヤー集団・Ovall。Shingo Suzuki(Ba)、mabanua(Ds)、関口シンゴ(Gt)に、サポートキーボードの村岡夏彦と別所和洋を加えた5人が静かにステージに登場。キーボードから始まり少しずつ音が重なっていく「Beautiful Love」で浮遊感を漂わせ、「Take U To Somewhere」「Dark Gold」でさらにグルーヴを聴かせる。mabanuaの透明感ある歌声は、楽器の音の一部のように溶け込んでいる。

MCではKroiからのオファーを受け、「本当に(Ovallで)いいんだろうか」とSuzukiが話し、関口も「呼ばれた時はザワついた」と続けた。しかし、ロック・ジャズソウルヒップホップなどの間をジャンルレスに横断するOvallのスタイルは、「ただただファン」だというKroiが影響を受けているのも頷ける。

「Green Glass」では関口の自由に唸るギターとキーボード2人の音が重なり、音源以上にカオスな音を響かせていく。その中にあってもSuzukiは飄々とベースを奏で、予測不能な妖艶さをはらむ。mabanuaの軽やかだが芯のあるドラムを起点にアレンジが展開され、5人の音が揃った瞬間、視界が開けメンバー全員が光に照らされた。張り詰めた緊張からの解放。フロアが一気に熱気に包まれた。

後半、「せっかく(Kroiと)一緒にやるなら、特別なライブにしたい」(Suzuki)と、ゲストボーカル・Nenashiを呼び込む。フィーチャリングした「Find you in the dark」、Nenashiの楽曲「Lost in Translation」「Scars」、音源ではSIRUPがボーカルを務める「It’s all about you」をNenashiが歌うスペシャルなコラボが実現した。

「(自分の曲を)初めてバンドで演奏したのがOvallとなんて」と、ソロで活動するNenashiは感慨深い様子。関口が「アー写のイメージは怖いんだけど、さっき写真撮ったらKroiめちゃめちゃ良い人!」と挟み笑いを誘いながらも、Kroiとの対バンライブで実現したコラボへの喜びを表現していた。ラストは「La Flamme」のラテンを感じるリズムに乗って、村岡と別所のキーボードソロの応酬が続き、関口のギターソロにフロアが沸く。個々のスキルを爆発させ、オーディエンスの割れんばかりの拍手の中、ステージを後にした。

Ovallを観ながら「ヤバい!」と口々に漏らしていたKroiは、1曲目から最新曲「Hyper」を投下。冒頭から全員でヘビーな音を鳴らしたと思えば、益田英知(Ds)と関将典(Ba)のリズム隊を中心にグルーヴを生み出す。内田怜央(Vo,Gt)がラップで畳みかけ、サビのファルセットでよりファンクさが前面に浮き出る。1曲の中でジャンルも音の中心も目まぐるしく移り変わっていく。

続く2曲目で、Kroiの名が広まるきっかけとなった楽曲「Balmy Life」を早くも披露。千葉大樹(Key)がトークボックスを駆使した多様なサウンドで魅せていく。「Network」では、長谷部悠生(Gt)がたまらず前へ出てギターソロを繰り出し、オーディエンスを沸かせる。前半4曲は、いわば自己紹介のようなセットリストだ。

序盤から特に勢いを感じたKroiだったが、理由はMCで明かされた。完成されたOvallのライブを見て「このまま帰りそうになった。マジでホクホク状態でライブしてるのよ」と、内田は興奮気味に話す。関も「放心状態。ビルボード終わりに(良いライブを見たなと)タバコ吸う感じだった」と表現し、オーディエンスの笑いを誘った。

「より良い日になるよう、皆さんと我々でハチャメチャなライブを作っていきましょう」という内田の言葉をきっかけに、ライブは中盤戦へ。関のベースソロから千葉のキーボード、益田のドラムが重なっていく「Mr. Foundation」では、ギターをハンドマイクに持ち替えた内田がステージを動き回る。ファンクソウルが同居したサウンドの中、リズム隊の2人が躍動していた。

変則のリズムをクールに繋ぐ益田のドラムソロからなだれ込んだ「Funky GUNSLINGER」は、哀愁漂う長谷部のギターの音色から内田のラップに移る自由自在な表現力が光る。長谷部がギターをかき鳴らすと、無国籍感漂う夢心地な雰囲気から一気に現実世界に引き戻されたような感覚になった。

これまでの彼らのライブは、超絶スキルを全編通して惜しみなく全力でぶつけ続けている印象があった。だが今回、あえて『引く』ことを選んで演奏している場面が度々見られた。各々のソロプレイの時が顕著で、ソロ以外がこれまで以上に『引く』ことで、どうソロを聴かせたいのか、楽曲のイメージをどう伝えたいのかが、非常に明確に見えるようになっていた。

聞けば、ツアー前にメンバー全員で合宿を行い、先輩アーティスト達との対バン、さらにその先の武道館公演に備えていたんだとか。ジャズ要素も含んだ大人でダークなサウンドにオーディエンスが酔いしれた「侵攻」、千葉のキーボードと関のベースで妖艶さが増した「WATAGUMO」。内田のアカペラ最後の1音の優しい響きに至るまで、徹底してパフォーマンスを磨き続けた成果が詰まっていた。

「俺らのためのツアーみたいになっちゃってる。仙台楽しいね」と内田が切り出すと、話題は移動中の出来事に。1つ前の広島公演を終えた後、東京まで15時間かけて車で移動したそうだ。「車が(サービスエリアなどに)止まる度にルーレットして、止まった人が絶対に運転しないといけない。まさかの一番偉い人が3連続」(関)、「アットホームでいいですね」(内田)という会話から、チームKroiが長旅すらも楽しんでいる様子が伺えた。

Astral Sonar」でそれまでの『引き』のモードからギアチェンジし、全員が楽器を一心不乱に鳴らしていく。内田と千葉が互いに見合ってギターとキーボードの応酬が繰り広げられた「Small World」では、オーディエンスももっともっとと言わんばかりに手を挙げ続けていた。「a force」で再びトークボックスを織り交ぜた千葉の鍵盤捌きがさえわたり、内田の歌声も熱を帯びていく。セッションのグルーヴ感が最高潮に達した状態で、本編を終えた。

「1曲パーンとやって終わりたい」(内田)と選んだアンコールは、人気曲「Juden」。「皆さんぶち上がり足りてないでしょう?」と内田がオーディエンスを煽ったが、それはKroiも同じ。それぞれがパーンとソロをかまし、内田は歌い踊りながらボンゴを叩きまくった。持てる力を全開放し、出し切った思いをピースサインで表して、5人は晴れやかに去っていった。

本編の楽曲全てで1つの作品のようにライブを仕上げ、緩急を使い分けたパフォーマンスでまた一段上のステップへと上がった感もあるKroi。『Dig the Deep』ツアーも終わり、武道館公演が迫る。数々のアーティストとの対バンで得た経験を、年明けにどう昇華させるのか。彼らのさらなる進化が楽しみでならない。

<公演情報>
Kroi Live Tour "Dig the Deep" Vol.4

2023年11月26日(日) 仙台PIT

セットリスト

■Ovall
01.Beautiful Love
02.Take U To Somewhere
03.Dark Gold
04.Come Together
05.Green Glass
06.Shadows & Lights
07.Find you in the dark feat. Nenashi
08.Lost in Translation feat. Nenashi
09.Scars feat. Nenashi
10.It's all about you feat. Nenashi
11.La Flamme

■Kroi
01.Hyper
02.Balmy Life
03.Network
04.HORN
05.Mr. Foundation
06.Funky GUNSLINGER
07.侵攻
08.WATAGUMO
09.Astral Sonar
10.selva
11.Small World
12.Page
13.a force
EN.Juden

<ワンマンライブ情報>
『Kroi Live at日本武道館

2024年1月20日(土) 日本武道館
開場17:00 / 開演18:00

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kroi-t/

関連リンク

公式サイト:
https://kroi.net

『Kroi Live Tour "Dig the Deep" Vol.4』11月26日 仙台PIT