「僕は、締切よりかなり早くに原稿を書きあげるほうなんです。愛媛新聞で2014年10月から3月にかけて毎週連載しているエッセイも、じつは始まる前にすべて全30回分すべて書いてしまいました」

新宿・Cafe Live Wireで開催された「落語立川流×星派道場 ショートショート寄席」(杉江松恋プロデュース)。星新一の孫弟子にあたる、ショートショート作家・田丸雅智の作品を、立川談志の孫弟子であり、SF好きとして知られる立川三四楼が落語化するという試みだ。

田丸雅智は1987年生まれの27歳。小学校の教科書で星新一に出会い、夢中になる。見よう見まねでショートショートを書き始めたのは高校生の頃。大学に進学しても“ショートショート熱”は冷めるどころか、高まる一方だった。星新一の唯一の弟子とされる江坂遊に師事し、大学院在学中に作家デビュー。2014年3月に刊行された初単行本『夢巻』(出版芸術社)は発売2カ月で重版出来。同年10月末には第二作目となる『海色の壜』(同)を上梓。「ショートショートは売れない」という“常識”を軽やかにくつがえし、快進撃中のショートショート作家だ。

締切厳守どころか、締切の数ヶ月前に原稿を書き終えることも珍しくないという田丸。月に4〜6作品、多いときは15作品ほど仕上げる。一作品あたりの文字数は3000〜5000字ほど。自ら「一カ月に3作品書く」というノルマを課し、一定のペースで書き続ける。

「僕の場合は目標をちょっと低めに設定したほうが落ち着いて取り組めるんです。実際には、ほぼ毎月ノルマ以上の本数を書いています。ただ、そこで安易にノルマを増やすと途端に苦しくなります。目標はあくまでも理想の8割程度にとどめると達成感が得やすくなります。ノルマが達成できたという成功体験を重ねることで、モチベーション維持にも役立ちます」

一方、立川三四楼は怒濤の締切ギリギリ派。立川流では前座から二つ目に昇進するためには古典落語50席をマスターする必要がある。しかし、三四楼は前座8年目にしてようやく25〜26席。一念発起し、毎月2席ずつ落語会で“ネタおろし”をすると宣言。翌年の一年間で残り24席を覚え、帳尻を合わせたとか。

「やればできるんだから、最初からやっておけよという話ですよね。でも、締切がないと怠けちゃうし、締切があってもギリギリにならないとやらないし……すみません!」

『夢巻』『海色の壜』には各20篇、計40篇のショートショート作品が収められている。三四楼が落語の題材に選んだのは、表題作でもある「夢巻」。ある男が、古い友人とともに訪れた“普通じゃないシガーバー”で、子どもの作文や絵日記からつくられた葉巻を吸うという物語だ。

「まず『夢巻』を選んでいただいたこと自体が驚きでした」という田丸に、落語化の感想を聞いた。
「『夢巻』は情緒系のお話なので、落語のおもしろさやおかしみとは対極にあるのかなと思っていたんですけど、そこが落語になるという新鮮さがありました。原作はしっぽりした終わり方なんですけど、落語はまさかの下ネタがオチというところに衝撃を受けました。自分自身の作品が誰かの作品になるということも新鮮。自分の原体験、誰かの刺激になって、別の作品に昇華されるというのが刺激的でした」



2015年には複数冊の書籍刊行が控えているという田丸。執筆のかたわら、トークイベントやオンラインサロンなどの“課外活動”にも力を入れたいと語る。1月18日(日)にはデビュー作から田丸作品を絶賛しているピース・又吉直樹とのトークショー、2月7日(土)には作品「海酒」(『海色の壜』所収)にちなんだカクテルを楽しみながらのトークイベントが開催される。
(島影真奈美)

星新一の孫弟子・田丸雅智(写真右)のショートショート作品を、立川談志の孫弟子・立川三四楼(写真左)が落語にするという、実験落語会「落語立川流×星派道場 ショートショート寄席」