東京都新宿区の路上で、運転するタクシーでハトをひき殺したとして、タクシー運転手の男が逮捕されました。報道によると11月13日アクセル音を聞いた通行人が、タクシーが道路上にいたハトの群れに突っ込んではねているところを目撃し、110番通報。男は「道路は人間のものなので、避けるのはハトの方」と供述しているということです。

 一方で、車を運転しているとき、道路にハト、猫といった野生の鳥や動物が飛び出してきて、よけ切れずにひいてしまうケースも少なからずあるかと思います。故意でなく、動物や鳥類をひき殺してしまった場合も、罪に問われてしまうのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の佐藤みのり弁護士に聞きました。

“やむを得ず”でも「報告」は義務

Q.まず、道路に野生動物や野生の鳥類がいることを確認できていたにもかかわらず、“故意に”車などでひき殺した場合、どんな罪に問われる可能性がありますか。

佐藤さん「野生動物や野生の鳥類を“故意に”ひき殺した場合、すなわち、わざと群れに突っ込んだり、スピードを上げ、あえて避けずに突き進んだりした場合、『鳥獣保護法』違反の罪に問われる可能性があります。

鳥獣保護法は、原則として、鳥獣を捕獲したり殺傷したりすることを禁じています(法8条)。ここでいう『鳥獣』とは、鳥類または哺乳類に属する野生動物のことです(法2条1項)。この規定に違反し、野生の鳥などを殺傷すれば、『1年以下の懲役または100万円以下の罰金』に処される可能性があります(法83条1号)」

Q.では、道路に野生動物や野生の鳥類がいることを確認できていたものの、“やむを得ず”ひき殺してしまった場合はどうでしょうか。

佐藤さん「野生動物や野生の鳥類がいることは確認できたものの、よけ切れずに、やむを得ず、ひいて死なせてしまった場合、罪に問われることはありません。その場合には『故意』がないからです。

ただし、運転者は警察官に報告する義務があります。なぜなら、動物は法律上『物』にあたるため、動物をはねた事故は『物損事故』として扱われ、道路交通法上、(1)直ちに運転を停止して道路上の危険防止の措置を取る義務(2)警察官に事故の日時場所やぶつけた動物、その程度などを報告する義務―を負うからです(道路交通法72条1項)。

(2)の義務に違反し、警察官に報告しなかった場合、『3月(3カ月)以下の懲役または5万円以下の罰金』に処せられる可能性があります(道路交通法119条1項17号)。なお、(1)の義務に違反した場合は、『1年以下の懲役または10万円以下の罰金』に処せられる可能性があります(道路交通法117条の5第1項1号)」

Q.ひき殺してしまった動物が「野生動物」ではなく、「ペット」だった場合はどんな法的問題が考えられますか。

佐藤さん「他人のペットを故意にひき殺した場合、器物損壊罪(刑法261条)や動物愛護管理法違反の罪に問われる可能性があります。器物損壊罪の法定刑は『3年以下の懲役または30万円以下の罰金もしくは科料』です。動物愛護管理法違反の法定刑は『5年以下の懲役または500万円以下の罰金』になります(同法44条)。なお、過失でひいて死なせてしまった場合は、罪に問われることはありません。

故意であれ、過失であれ、他人のペットをひいて死なせてしまった場合、民事上、損害賠償責任を追及される可能性があります。過去の裁判例をみると、過失により交通事故を起こし、他人のペットを死なせてしまった場合、慰謝料額としては5万円程度から20万円程度になることが多いと考えられます。

動物は、法的には『物』と考えられていますが、ペットは愛情をもって共に過ごす家族のような存在であり、裁判でも慰謝料の支払いが認められています」

オトナンサー編集部

野生動物をひき殺してしまったら…