ボーナスシーズンとなり、多くの銀行で「冬のボーナス特別金利」とうたった円貨・外貨の「定期預金」のキャンペーンを行っています。超低金利・円安のなか、当分使う予定のないまとまった額を預けて少しでも増やすには有益な方法の一つと考えられますが、それ以外に、利回りが高く、比較的低リスクといわれる金融商品が存在します。本記事では、そのなかの一つ、「ゼロクーポン債」について解説します。
ゼロクーポン債のしくみ
ゼロクーポン債は、アメリカ等の国が発行する「債券」のタイプの一つです。
債券には「償還期間」があり、満期を迎えると「額面金額」が戻ってきます。
まず、ゼロクーポン債でない「通常の債券」のしくみを説明すると、「購入価格」と「額面金額」がほぼ同じです。また、償還期間中、「利金」(クーポン)を受け取れます。たとえば、以下の債券(通常の債券)があったとします。
・額面金額・購入価格100万円
・償還期間17年
・年利回り3.2%
この債券を購入した場合、償還までの17年間、毎年、利金を3.2万円ずつ受け取れるので、トータルで約54万円、54.4%増えたことになります。
これに対し、ゼロクーポン債は、「購入価格」が「額面金額」よりも割安に設定されています。つまり、満期には購入時よりお金が増えて戻ってくることが約束されているということです。その代わりに、償還期間中に「利金」を受け取ることができません。「利金」(クーポン)が「ゼロ」であることから、「ゼロクーポン債」といわれるのです。
たとえば、以下のゼロクーポン債があったとします。
・額面金額100万円
・購入価格58万円
・償還期間17年
58万円を払い込んで17年後に100万円が償還されるので、42万円の「償還差益」が発生し、約72.4%増えたことになります(【図表】参照)。
これは、利回り約3.2%で17年間、「複利」で運用されるのと同じ結果です。つまり、利息に利息がつき、等比数列的に増えるということです。
ゼロクーポン債は、償還期間中「利金」を一切受け取れない代わりに、その分が「複利」で運用され、満期に一気に受け取れるので、高い利回りを得られる債券だといえます。
ゼロクーポン債はどのような人に向いているか
ゼロクーポン債が向いているのは、以下の2つの条件をいずれも満たす人です。
【ゼロクーポン債が向いているケース】
1. まとまった額のお金があり、かつ、当面の間使う予定がない
2. 株式投資に抵抗がある、または、株式とリスク分散をしたい
◆条件1|まとまった額のお金があり、かつ、当面の間使う予定がない
第一の条件は、まとまった額のお金があり、かつ、そのお金を当面の間使う予定がないことです。
たとえば、現時点で数十万円、数百万円、数千万円のお金を持っていて、住宅購入資金、子どもの学資や結婚資金、老後資金等のためにとっておきたいと考えている場合です。償還まで待てば、効率よくお金を増やせる可能性があります。
◆条件2|株式投資(投資信託を含む)に抵抗がある、または、株式とリスク分散をしたい
第二の条件は、株式投資に抵抗がある、あるいは、株式とのリスク分散をしたいと考えていることです。
一般に、債券よりも株式に投資した方が、大きく増やせる可能性が高いといわれます。
特に、米国株式や全世界株式の指数に連動する「インデックスファンド」は、日本と比べ堅調に推移しているアメリカ経済、あるいは全世界の経済の成長を取り込んで、10年~20年の長期間で、時間を味方につけて手堅くお金を増やせるといわれています。
ただし、株式や株式投資信託は確実性に欠けます。また、投資するうえではリスクもそれなりにあります。特に、まとまったお金を一気に投資する場合、大暴落に見舞われると、タイミングによっては資産を大きく減らすことになりかねません。
これに対し、ゼロクーポン債を含む債券は、あらかじめ利回りが決まっているので、確実性が高いといえます。また、アメリカ等の信用力の高い国の債券であれば、さらに安全性が高いといえます。
そこで、投資信託を含む株式投資に抵抗があるか、あるいは、株式とリスク分散をしたいという人には、ゼロクーポン債は向いているといえます。
ゼロクーポン債を活用する場合の注意点
ただし、ゼロクーポン債にもリスクはあります。ゼロクーポン債を活用する場合、以下の3つの注意点について承知しておく必要があります。
1. 償還時に為替相場が購入時より「円高」だと損失が発生するリスクがある
2. 償還時の差益に約20%の税金がかかる
3. 途中で売却すると損をする可能性がある
以下、それぞれについて解説します。
◆償還時に為替相場が購入時より「円高」だと損失が発生するリスクがある
第一に、債券の償還時に為替相場が購入時より「円高」に振れていた場合、損失(為替差損)が発生するリスクがあります。このリスクが最も深刻です。
まず、通貨の相場が安定している国の債券を選ばないと、その国の通貨が暴落して思わぬ損をする可能性があります。たとえば、いわゆる「新興国」のゼロクーポン債は、利回りが高く設定されていますが、通貨の相場が不安定で、大暴落のリスクがあります。
また、為替相場の変動による損益分岐点、つまり、どこまで円高が進めば損失が発生するかを知ったうえで、購入するかどうかを決めることが必要です。
たとえば、以下の内容のアメリカのゼロクーポン債があったとします。
・額面1万ドル
・購入価格5,800ドル
・償還期間17年
このゼロクーポン債を「1米ドル=144円」のときに購入すると、日本円での購入金額は144円×5,800米ドル=83万5,200円です。
17年後の満期に、1万米ドルが償還されます。その時、1万米ドルが日本円に換算して83万5,200円を下回らなければ、損失が発生しないことになります。
したがって、損益分岐点は、「1米ドル=83.52円」(83万5,200円÷1万米ドル)ということになります。つまり、「1米ドル=83.52円」よりも「円高ドル安」になったら損失が発生してしまうということです。
このように、ゼロクーポン債の活用を検討するのであれば、必ず、償還時の為替相場の損益分岐点を確認する必要があります。
◆償還時の差益に約20%の税金がかかる
第二は、償還時の差益が税制上「上場株式等にかかる譲渡所得」にあたり、20.315%の所得税がかかることです。しかも、投資信託と異なり、「NISA」のような非課税の優遇措置がありません。
この点は、株式より安全性・確実性が高いというメリットと引き換えだと割り切る必要があるかもしれません。
◆途中で売却すると損をする可能性がある
第三に、ゼロクーポン債は、途中で売却すると損をする可能性があります。どういうことか。もう一度【図表】をご覧ください。
ゼロクーポン債は、市場で取引の対象となります。したがって、債券の価格は市場での需給関係に応じて変動します。したがって、もし、何らかの事情によって売却せざるを得なくなり、そのときに価格が購入時の価格を下回っていたら、損をしてしまいます。
前述したように、ゼロクーポン債が向いているのは、まとまったお金を持っていて、かつ、そのお金を当面の間使う予定がない人です。償還期間の途中で売却するハメにならないように、あくまでも余剰資金で購入することが必須条件であるといえます。
ゼロクーポン債は、購入して償還期間まで保有し続けることで、比較的低リスクで、お金を効率よく増やせる可能性が高いものです。「冬のボーナス」に限らず、当面使い道がないまとまった額のお金があり、かつ、ただ銀行に預けるのではなく将来のために効率よく運用したいのであれば、「外貨定期預金」「株式」等の金融商品と並んで有力な選択肢の一つといえます。
ただし、為替変動により損をするリスクはあるので、購入に際しては、いくらまで「円高」が進めば損失が生じるかという「損益分岐点」を確認する必要があるといえます。
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