確定拠出年金アナリストの大江加代氏は著書『新NISAとiDeCoで資産倍増 人生100年時代の新しいお金の増やし方』(日経BP)の中で、「NISAもiDeCoも若者だけのものではない」と伝えています。40代、50代、60代はどのように使えばいいのでしょうか?この記事では、新NISAにおける「つみたて投資枠」と「成長投資枠」の使い分けについて、本書から一部抜粋して紹介します。

つみたて投資枠と成長投資枠の使い分け

新NISAの2つの投資枠の使い分けという意味では、枠の大きさ(投資可能な限度額)が異なるので、積み立て(買い付け)したい金額に応じて使い分けるのが基本です。

特に50代、60代の人は既に保有しているまとまった資産を投入できる可能性が高いので、つみたて投資枠の年間120万円では収まらず、成長投資枠(年間240万円)も使って投資することになると思います。

転職の際に支払われた退職一時金、相続で手にしたまとまった資金など、突発的に入った大きなお金も成長投資枠が使い勝手のいい受け皿となります。

もう一つは、株式を投資対象とするなら成長投資枠でしか買えませんし、つみたて投資枠の対象商品にはなっていない投資信託やETF(上場投資信託)を購入したい場合も成長投資枠で購入することになります。

逆に、つみたて投資枠の対象商品になっている投資信託やETFは成長投資枠でも購入可能です。

つみたて投資枠に引き継がれるつみたてNISAの対象商品は徐々に増えて、2023年9月15日現在約250本(ETF8本含む)となっていますが、長期・積み立て・分散に適した投資信託として、日本で販売されている約6000本のうち4%程度にまで絞り込まれた商品群です。

投資初心者や、投資対象についてあまり時間を割いて考えたくないという人は、この中から検討するのがいいでしょう。

成長投資枠でも積み立て投資を基本に

商品を買い付ける方法は、つみたて投資枠はもちろん、成長投資枠を含めて「積み立て」で機械的に買う仕組みを利用するのがいいと私は思います。

購入タイミングの分散を図ることができて、購入する際に「今が買い時か」と悩んだり「昨日買えばよかった」みたいに後悔するストレスも避けられます。

特に投資信託は、買い付け時に「価格がいくらだったら買う」という指し値での購入ができないので、積み立てが向いています。

成長投資枠でしか買えない株式でも、株式累積投資(るいとう)や単元未満株取引などの仕組みで積み立てができる証券会社があります。

もっとも株式では多くの場合、自分で数量と価格を決めて買い付け注文を出すことになります。

その際には、長期的に成長しそう、利益を上げ続けてくれそうと思える銘柄であれば、タイミングをあまり気にせずに買うのがいいと思います。「株価が割安になったら買おう」などと思っていると、永遠にそのタイミングは来ないかもしれません。

短期の利益確定に走らないように注意

これまでのNISAの利用状況を金融庁の公表データで見てみると、一般NISAはもとより、つみたてNISAでもそれなりの金額の資産が毎年売却されています。2022年の年間の売却金額は95億円で、買い付け額の7%強に当たる数字です。

つまり、積み立て始めてから数年で売ってしまっている人が、それなりの割合でいるということです。年代別では20代が比較的多く売却している傾向です。

利益が出ていたから売ったのでしょうし、引き出したお金に何か有用な目的があったのなら問題はないのですが、運用益非課税のメリットを活用した資産形成という面ではもったいないなと思います。

例えばNISAで毎月2万円を2年間積み立て、5万円の利益が出ているので売ったとします。通常はその利益の約20%が税金として徴収されるのですが、運用益非課税の制度では徴収されないので、この場合のメリット額は約1万円です。

一方、60歳まで引き出せないiDeCoでは、すぐに受け取れないので短期の利益確定は少ない傾向です。こちらは老後に利用目的が限定されるので、積立額は半分の1万円として、年利回り4%で20年間積み立てたとして試算してみます。

すると積立総額240万円に対して運用益は約127万円となり、非課税によるメリット額は25万円強にもなります。期間を10年としても運用益は27万円なので、手にする運用益も、非課税の恩恵を受けられる金額も、たった2年間で売ってしまうよりは相当大きくなります。

このように、資産価値が増大するものに積み立て投資をする場合、長期の方が大きな利益を生むことは事実です。でもそれは頭では分かっていても、人間は目の前にすぐに手にできる利益を差し出されると、どうしてもそちらを優先する行動に出がちです。

運用益はマーケット動向次第ですから、特に利益が出ている局面では、「待てば利益がもっと大きくなる」という期待よりも、「売らずに値下がりして損したらどうしよう……」という不安の方が往々にして大きくなります。

結果として、遠い将来の不確実な大きな利益よりも、今確実に手に入る小さな利益を確保したい気持ちに駆られるのです。特にNISAの場合は、60歳まで引き出せないiDeCoと違って、売却さえすれば現実にその利益を今手にできるため、利益確定したくなる誘惑が強くなるので要注意です。

大江 加代

確定拠出年金アナリスト 株式会社 オフィス・リベルタス 代表取締役