現在のVTuberシーンにおけるトップランナーの一つであるにじさんじ。そのなかにおいてもタレントの活躍する分野は日々拡がっている。

 メインとなる生配信に加え、事務所が主導する企画への参加や監修、主に一人ひとりのライバーが主導となって進む歌ってみたなどの動画のほか、ここ数年ほどはエンターテインメントのフィールドでアーティストとして日の目を見る者も増加してきた。

【動画】会場だけ用意され、延期になっている「鍋パ」

 にじさんじの魅力といえば、1人ひとりの強い個性に留まらず、他者との繋がりでうまれる友情や関係性、そこで育まれるコミュニケーションもあげられるだろう。そこで、にじさんじが歩んできた変遷のなかで生まれてきたさまざまなグループ/同期組について記していこうと思う。

 前回は見事メモリアルなライブを完遂した「EXゲーマーズ(通称:ゲマズ)」を取り上げた。今回は彼らの先輩にあたる世代、「元2期生」とも呼ばれる面々について記していきたい。

 にじさんじの「元2期生」とは、鈴鹿詩子宇志海いちご家長むぎ夕陽リリ物述有栖文野環森中花咲伏見ガクギルザレンⅢ世剣持刀也という、計10名による同期メンバーをさす。

 20183月12日から17日にかけて順々にデビューしていった10人は、同年2月上旬にデビューしていた月ノ美兎ら1期生にあわせて「2期生」と呼ばれるようになっていた。翌年以降にじさんじ内のプロジェクト統合にあわせて「○期生」という呼称自体は使われなくなったが、その名残として現在の「元2期生」という呼び方が定着した。

■元1期生・月ノ美兎の存在感から「月ノ美兎チルドレン」と呼ばれるメンバーも

 にじさんじ元1期生のなかでも一際に個性が強く、当時から輝きを放っていた月ノ美兎。彼女に影響されてVTuberを目指し、みごとにじさんじからデビューを果たしたタレントを「月ノ美兎チルドレン」と呼ぶことがある。

 元1期生がデビューしてからほとんど間をおかずにデビューした元2期生にも、彼女の影響を強く受けたライバーがいる。月ノ同様に強い存在感を放ち、デビュー当初の元2期生らをけん引した剣持刀也鈴鹿詩子の2人は「月ノ美兎の存在によってVTuberを目指した」という旨の発言をしている。

 剣持と月ノは、その配信スタイルや内容、現在置かれているポジションなどがかなり近しいように思える。ゲームがあまり得意ではなく、配信でプレイする姿を見せることはあまり多くはない。思い立って急に配信するのではなく、SNSを通じて事前にアナウンスすることを欠かさない。毎日ではなく数日以上、ときには数週間以上にわたって配信をしないこともままあるなど、共通点はそれなりに多い。

 その代わり、月ノは面白動画を編集・投稿し、剣持は別グループ・ROF-MAOで元気な姿をみせるなど、「ライブ配信を積極的にはしないが、さまざまな場に顔を出す」というスタイルで活動を続けている。なにより、活動を通してのセルフブランディングが一貫している点も2人の共通点であろう。

 また両者ともに言葉選びのセンスに長けており、自身の考えやフィーリングを言語化する力が非常に高い。『月ノさんのノート』『虚空教典』といった著書を制作しており、その経歴に近しさをより強めてくれる。

 元1期生・元2期生それぞれで話題にオチをつけるまとめ役になり、ときにはガヤガヤとした賑やかし役として場をかき乱すこともありと、周囲の温度感・エンタメとしての立ち振舞いなどに気をつけていることも共通点になるだろう。

 もう一人の「チルドレン」、鈴鹿詩子は月ノを一時期は「美兎様」と呼ぶほどにしたっており、にじさんじのトップランナーである月ノを強く敬愛しているライバーだ。

 両者のビジュアルを担当したのはイラストレーター・ねずみどし氏で、清楚さを感じさせるルックスだ。だが、両者の嗜好性・趣味がかなりアングラ寄りかつ突飛なものが多いため、「清楚」かつ「奇天烈」という相反する性質が共存しているタレントである…そんなところが両者の共通点として挙げられるだろうか。

 腐女子を自認し、成人向け漫画への造詣が深く、当然アダルトトークにも強い鈴鹿。言葉はきちんと選びつつも、自身の好きなものを臆することなく配信・動画で表現してきた彼女は、VTuberができる配信の「限界ライン」を拡げ続けてきたキーパーソンともいえる。

 また、成人向けのコンテンツを乱雑に消費して楽しむのではなく、ひとつの「表現」や「メディア芸術」としてとらえ、その奥深さや趣きを楽しもうとする理性的な姿勢は、活動初期から現在まで変わらない。ある種、「理詰めでエンタメを楽しもう」というスタンスは月ノや剣持と同じなのかもしれない。

 ちなみに、鈴鹿が月ノを見てVTuberに興味を持ったのと同じように、鈴鹿を見てVTuberに興味を持ってにじさんじからデビューを果たしたバーチャルタレントとして、2022年12月ににじさんじENからデビューした狂蘭メロコがいる。デビュー時に鈴鹿詩子への熱心な言葉を紡いでいたが、ことし10月末におこなわれた狂蘭メロコの誕生日配信では鈴鹿との初邂逅をはたし、あらためて強い愛情をぶつける姿をリスナーに届けた。

 「元2期生」のデビュー時は、剣持・鈴鹿の両名が強い個性を発揮し、同期メンバーを引っ張っていったというのが筆者の感触だ。その後活動歴が長くなるにつれ、それぞれのメンバーがオリジナリティあふれる配信・活動をみせていくようになっていった。

■元2期生10人の間に架かる関係性の橋・コラボグループを振り返る

 ここからは元2期生のなかで生まれたコラボグループについても振り返っていこう。剣持とともに元2期生を長年引っ張ってきた伏見ガク。剣持と伏見の2人のコラボ名は「†咎人†」とよばれ、ファンの間にも浸透している。

 この2人はデビュー時から非常に仲が良く、†咎人†として配信する際にはオフラインコラボの形をとることをルールとしてつづけてきた。変わったルールだと思われるかもしれないが、お互いの家が近かったことが要因のひとつであろう。

 どちらの自宅から配信するかは2人の話し合いによって決まるそうだが、多くの場合コラボ配信が夜の時間帯におこなわれることもあって、そのまま相手の家に宿泊することも多いようだ。剣持はどちらかといえばソロで配信をおこなうことが多く、同期である2期生、特に伏見とのコラボ配信は彼にとって数少ないコラボ配信の場でもある。

 †咎人†専用の衣装ビジュアルも制作されており、デビュー時から苦楽をともにしていることも相まって、「相方」と呼びあうほどの関係性になっている2人。

 そんな彼らは、12月23日・24日に開催される『にじさんじフェス2023』初日におこなわれるステージイベント『にじさんじ 5th Anniversary LIVE SYMPHONIA Day1』に出演予定となっている。同日の出演者でも1番の先輩格である2人が、初日メンバーのなかでどのようなパフォーマンスを披露し、混ざりあっていくのか。当日のステージに注目だ。

 お互いの家に足を運び、そうするうちにお互いの家族と仲良くなるほどに親交が深まったというと、物述有栖宇志海いちごの関係性もおもしろい。古くから付き合いのある友人や幼馴染ならまだしも、「VTuber事務所・にじさんじの同期」といういわば「仕事の同僚」としての間柄で、そこまで交流が深まるというのも、なかなかにレアなケースだろう。

 物述と宇志海は、「アリストベリー」というコラボユニットとして長く活動をしてきた2人だ。コロナ禍のあいだは実施回数こそ減ってしまっていたが、コラボ配信をする際は物述の自宅からオフラインコラボすることが比較的多かった。

 その影響もあってか、物述一家に宇志海の存在が知られていくようになり、年末年始には2人でともに過ごすことが増えていった。そして、宇志海の存在は物述にとあるキッカケをもたらすことになる。

 「実は全くやったことなかった麻雀を一緒にやろーっておすすめして遊んでくれたのは、宇志海いちごなのです」

 2023年初めに開催されたにじさんじ麻雀杯に初出場し、みごと準優勝を果たした物述。「麻雀を始めたキッカケ」は宇志海の一言だったと切り出した。じつは物述/宇志海/物述の父/物述のいとこと四人で麻雀をするようになり、最低限のルールを理解した上での出場だったのだ。

 配信ではほとんどそういった素振りや話題にもあげることがなかったため、この大会で「意外な一面」をみせて視聴者に驚きをあたえた。その裏側には、良き友人となった同僚の一言があったのだ。お互いの配信をチェックしあうほどに信頼を寄せ合う2人、今後も支え合いながら活動をつづけていきそうだ。

 彼女ら2人と負けず劣らずに仲が良いメンバーといえば、文野環家長むぎ夕陽リリ森中花咲らの友人関係であろう。それぞれ「むぎたま」「リリかざ」「リリむぎ」「むぎかざ」などさまざまなコラボ名で配信をともにしてきた。

 4人全員が集まった際には「かざリリむぎたま」とストレートなコラボ名で称されており、配信内外での交流が非常に多く、その距離感は「友人」「友達」と読んでも差し支えがないほどだ

 東京ディズニーランドなどさまざまな場所・イベントへ遊びに行ったことを定期的に報告しており、最近では森中と家長の2人がお出かけ前の準備・メイクを生配信で届けるということもあった。

 洗面台から直接配信するライブ感もさることながら、2人のメイクや化粧に関する知識やテクニックにも言及しており、なかなかに興味深い配信なので興味があればチェックしてみるとよいだろう。

 「にじさんじ随一の自由人」であろう文野も、家長、森中、夕陽の3人といるときはかなり自然体でいれるようで、エキセントリックな面や自由な振る舞いから周囲を巻き込むといったことを起こす頻度がかなり少ないようにみえる。

 元2期生のなかでも夕陽リリへの愛が特に強い家長と森中が夕陽を取り合うような形で口げんかをすることもある。こういったキャットファイトも彼女ら4人の信頼関係をあらわす微笑ましいワンシーンだ。

 互いの3Dお披露目配信・記念ライブ・歌ってみたに出演するどころか、お互いの雑談の際にも名前があがりやすい4人は、元2期生同士の間柄に橋を架ける重要な4人ともいえそうだ。

■唯一揃ったのは「歌ってみた」だけ なぜか10人揃わない元2期生

 ここまで元2期生について、そして派生のコラボグループを取り上げてきたわけだが、お互いの家に足を運んでいたり、家族や親戚にも認知されていたりと、一つひとつのエピソードやこぼれ話を拾っていくと、元2期生はかなり親密な横の関係を紡いできたことがわかってくる。

 しかも元2期生は10人と大所帯であり、その大半が繋がりを強く結びあえているというのは、非常にレアなケースであろう。折をみて同期同士でのコラボ配信が行なわれており、ケンカした/仲が悪くなった/疎遠になったという声もあまり聞かない。他のVTuber事務所やプロジェクトと比較してもなかなか見つからない、無二の関係性となったのだ。

 こういったことがうまく好影響をあたえているのだろうか、この「元2期生」という集団は、活動をスタートしてから5年以上が経った現在に至るまで、だれ一人として引退・活動停止などになっていないのだ。この同期組の特筆すべき点としてあげられる。

 そんな元2期生だが、じつは1度の配信に全員が顔を揃えたことがない。毎年恒例となっている「アポなし逆凸インタビューチャレンジ」で各々登場することはあるものの、一同に揃ったことはないのだ。

 2021年10月末に開催された元1期生によるライブ『initial step in NIJISANJI』を元2期生の森中/伏見/家長/文野/鈴鹿/ギルザレンが同時視聴していたとき、「8人そろってライブっていいね」「元2期生もいつかやりたいっすね!」と口々に話しだし、「全員そろうところから始めよう! いままで揃ったことないからさ!」と家長がおもわずツッコむ一幕があった。

 その後何回か元2期生全員を集めようと何度か企画は立てているものの、全員が集まることは叶わないまま。2023年3月18日には、森中が主導する企画「急遽招集をかけたら何人集まるか?」配信が3年ぶりにおこなわれ、10人中8人が集まった。

 開始して30分ほどで企画者の森中を筆頭に、剣持/伏見/家長/夕陽/詩子/ギルザレンのⅦ人があつまり、テレビでも名物となっているゲーム「一致するまで終われま10」を始め、途中から文野も混ざって8人でゲームが進行していった。彼ららしいゆるいムードのなかに、ボケとツッコミが往来していく流れは非常に面白い内容だ。

 10人もいれば各々の活動方針や内容、配信ペースすらもバラバラ。そんななかでも互いに支え合い/理解し合いながら活動を続けてきた元2期生。そんな彼らは、今年年末に開催される『にじさんじフェス 2023』に8人が出演することになっている。

 家長/文野/物述/森中/夕陽/ギルザレン/剣持/伏見の8人が登場予定であり、登場する時間帯は2日目・12月24日の17時から。他ステージの演目は殆ど終わっており、閉会式前最後の演目として『元2期生 統一テスト』に臨む予定だ。

 にじさんじ内の番組や企画などで聡明叡智な言動を示し続けてきた家長を筆頭に、にじさんじ全体としては常識人枠/ツッコミ役に回りやすい剣持/夕陽/物述など、頭脳派・知性派が揃っているのが元2期生の特徴だ。

 これまでの活動遍歴を振り返ると、森中や物述が天然ボケな解答をしてみたり、文野のぶっ飛び解答で会場にどよめきが起こる……そんな光景が想像できる。実際にどのような解答が並ぶのか、どんな盛り上がりを見せるのかがいまから非常に楽しみだ。

 最後に、筆者だけでなく古くからのファンが首を長くしているであろうトピックスについても触れておこう。企画が立ち上がってから長いこと開催が延期されている鍋パーティーが、いつ実施されるのか。鍋シーズン到来ということで、こちらも今冬中に執り行われることを心待ちにしていようと思う。

(文=草野虹)

動画サムネイルより