2024年1月から「新NISA」がスタートします。60歳以上の人が新NISAを利用して投資を行う場合、原資が限られているうえ、若い世代と比べ運用期間も短くならざるをえないので、失敗は可能な限り避けなければなりません。そのために新NISAをどのように活用すればよいのでしょうか。CFPの藤川太氏が監修した『60歳からの得する! NISA大改正』(ART NEXT)から一部抜粋・編集してお伝えします。

60歳からの資産運用は「新NISAの非課税枠」を使い切る

60歳以上の方が「新NISA」を利用して投資をする場合、重要なのは、リスクをできるだけ抑えた運用を実践することです。それには、「長期・積立・分散」という投資の3原則を守る必要があります。

とはいえ、60歳からの投資は、若者と同じようなやり方では時間切れになってしまう可能性があります。最近のネット証券では、100円などの少額から毎日積み立てられます。しかし、60歳からそれをやっても老後資金を長持ちさせることにはつながりません。

ある程度の資金がある世代は、新NISAの「つみたて投資枠」「成長投資枠」ともに非課税枠をできるだけ早く使い切り、早めに生涯非課税保有限度額の1,800万円を達成しましょう。早く達成すればするほど、大きな元金で長く運用でき、効率よくお金を増やせます。

運用中の暴落が怖いと思うかもしれませんが、何があっても慌てて売却しないことが大切です。長く運用すれば相場はだんだん戻ってくるものです。暴落に耐えるためには、NISA以外に預貯金等の安全資産を確保しておき、60歳以降も長く働いて労働収入を絶やさないといった対策も講じておきましょう。

以下に、60歳以上の方が新NISAで資産運用をする際の実践のポイントを5つ挙げておきます。

【60歳以降の「新NISAで資産運用」実践のポイント】

・1本で分散投資ができる「投資信託」を選ぶ

・60歳以降は低~中リスクの投資信託が基本

・1日でも長い運用期間を確保する

・「成長投資枠」で個別の株式を買っていいのはリスク許容度が高く資金に余裕がある人のみ

・暴落しても売却せず、淡々と投資を続ける

ただし、そのなかでも、資産運用の方法は、目標をどこにおくかによって微妙に異なります。大きく以下の2つに分かれます。

・資産寿命延長派

・ラストスパート派

以下、それぞれについて説明します。

「資産運用寿命延長派」の基本戦略

老後資金を減らさず、資産寿命を延ばしたいという「資産寿命延長派」は、まとまった資産があっても一気に投資せず、リスク低めの商品にゆっくり積立投資をするのが基本です。

まとまった原資を「長期・積立・分散投資」します。「つみたて投資枠」で毎月10万円を年間12回に分けて分散投資します。大きなリターンを狙わず、リスクを抑えた運用で、着実に非課税枠を使い切ります。そして、その後も低リスク商品で長く運用し、資産寿命を延ばします([図表1-1]参照)。

「ラストスパート派」の基本戦略

ラストスパート派は、定年後も雇用継続制度等を活用して労働収入を得て、ラストスパートで老後資金を増やす運用を行いたいという人です。

この場合、労働収入がある期間が勝負なので、中程度のリスクをとって効率よくお金を増やすことが大切です。

積立期間は最短で5年なので、早く枠を使い切ることで、その後の運用期間を長くします。「つみたて投資枠」に加え「成長投資枠」も併用して、低~中リスク商品を積み立てます。早めに1,800万円の枠を使いきり、その後の運用期間は徐々に運用商品を低リスクなものに切り替えながら、資産寿命を延ばします([図表1-2]参照)。

新NISAで「失敗しない」ためのポイント

投資する商品を1~2本に絞る

新NISAの「つみたて投資枠」で購入できるのは、「長期・積立・分散」投資に適した一定の基準を満たす投資信託です。ただし、その中でも、リスクとリターンは様々です([図表3]参照)。

特に高リスクなのは、株式に投資する割合が高いものです。60歳からの投資にリスクの高い商品はおすすめできません。資産寿命を延ばしたい人はもちろん、ラストスパートで老後資金を増やしたい人でも、中リスク程度の商品で運用するようにしましょう。

投資信託の中でも、比較的リスクが抑えられるのは、異なる地域や資産を組み合わせて投資する「バランス型」と呼ばれる商品です。中でも、国内債券や外国債券の割合が高い投信はリスクが低めです。

新NISAの「成長投資枠」では株式なども買えますが、資産寿命を延ばすことが目的であれば、「つみたて投資枠」と同じ投信を購入するのがおすすめです。分散投資をするために、投信を何本も組み合わせて買う必要はありません。投信の本数が多いと資産配分を管理する手間がかかります。基本は複数の資産や地域に投資する投信を1〜2本選んで、定期的に購入すればOKです。

投資信託を購入する前に必ずチェックすべきポイント

投資信託を購入するときは、「目論見書」「運用報告書」「月次レポート」等をしっかり読みましょう。人気ランキング上位の投資信託が自分に合っているとは限りません。最低限、次に挙げた項目だけでもチェックしてください。

ポイント1. おもな手数料・費用

購入時にかかる「購入手数料」、解約時に徴収される「信託財産留保額」、保有期間中に証券会社に支払う「信託報酬」を確認する必要があります。

新NISAの「つみたて投資枠」の対象となる投資信託は、ノーロード(購入手数料無料)で、信託財産留保額もないことがほとんどですが、信託報酬はかかります。信託報酬は保有中ずっと徴収されるので、安いに越したことはありません。

ポイント2. 基準価額および純資産総額の推移

投資信託の時価をあらわす「基準価額」は、「今いくらか」よりも長期間の値動きやベンチマーク(運用の成果の目安とする指標)の動きとの連動状況を確認することが大切です。また、投資信託の「純資産総額」は、少ないと満期を待たずに「繰上償還」されてしまうおそれがあるため、順調に増えているものを選ぶ必要があります([図表3-1]参照)。

ポイント3. トータルリターン

トータルリターンは、一定期間の運用でどれだけ利益が出ているかを意味します。直近のリターンより、長期間の運用でどれくらいの利益が出ているかを確認することが大切です([図表3-2]参照)

ポイント4. シャープレシオ(運用効率)

シャープレシオとは、運用効率を意味します。小さいリスクで効率よく運用できる投資信託を見つけるための重要な数値です。同じ種類の投資信託を比較したとき、シャープレシオが高いほど、リスクを抑えた効率のいい運用ができていると考えられます([図表3-3]参照)。

シャープレシオは以下の計算式で表されます。

(収益率-無リスク資産の収益率)÷リスク(標準偏差)

「無リスク資産」は預貯金等をさしますが、日本では超低金利政策がとられており、預貯金の収益率がほぼゼロであるため、単純に「収益率÷リスク(標準偏差)」で計算しても差し支えありません。

藤川 太

ファイナンシャルプランナー

CFP認定者

生活デザイン株式会社 代表取締役