ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念作として製作された『ウィッシュ』(12月15日公開)。ディズニーが描き続けてきた“願いの力”をテーマにした本作で製作総指揮、脚本を務めたディズニー・アニメーション・スタジオCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)のジェニファー・リーが来日。本作に込めた想い、ディズニー長編アニメーション初の女性監督として『アナと雪の女王(13)を大ヒットさせた自身のキャリアやCCOとしての仕事について語った。

【写真を見る】『アナ雪』『ウィッシュ』を手掛けたジェニファー・リーが語る、キャラクター作りのコツとは?

どんな願いも叶うと言われているロサス王国に暮らす少女アーシャ。彼女の願いは、100歳になる祖父の願いが叶うことだった。だが、魔法を操る王マグニフィコに会った彼女は、国民の願いが彼に支配されていることを知ってしまう。そんななか、みんなの願いを取り戻したいと願うアーシャの前に“願い星”スターが現れた…。

■「例えヴィランでも、彼らの気持ちになって書いています」

本作の企画がスタートしたのは、リーの監督、脚本作『アナと雪の女王2』(19)制作中のこと。ディズニー100周年を飾る作品としてコンセプト作りがスタートした。「ただオマージュを捧げるだけではなく、オリジナリティを持った映画を作ろうと思いました」という彼女は、「アナと雪の女王」シリーズの監督クリス・バックたちと「なにかを強く願うこと、すべての願いは責任を伴うもの」というコンセプトを生みだした。「当初は星を見上げて願いをかけることから生まれる物語を考えていたので、私たちは『Dream』と呼んでいました。でも願いをかけて叶うだけなら、都合がよいだけの物語になってしまう。そこで、願いが大きければ大きいほど叶えるためには本気で取り組まないといけない、という想いから『ウィッシュ』というタイトルにしたんです」とふり返る。

脚本、原案にも名を連ねたリーは「ストーリーの根底にあるのは、みんなをひとつに繋げる愛のすばらしさ、喜びを表現したいという想い。皆さんがなんらかの形で触れてきたディズニー作品の記憶を思いだしてもらえる作品にできたら、という想いもありました」とふり返る。なお、100歳を迎えたアーシャの祖父サビーノはディズニーそのものをイメージしたキャラクターだという。

人々の“願い”をテーマにした本作にちなみ、リーに子どものころの願いをたずねると「アニメーターになること」という答えが返ってきた。「ディズニーのアニメーションが大好きで、将来アニメーターになりたいと絵ばかり描いていました。ただ途中で自分は描くことより、ストーリー作りのほうが合っていると感じて方向転換したんです」。やがて大学で映画の修士号を取得した彼女は、共同脚本として『シュガー・ラッシュ』(12)に参加。続く『アナと雪の女王』では脚本だけでなく監督も務めて映画を大ヒットに導いた。

そんなリーが考えるストーリーテラーの魅力は、キャラクター作りだという。「書き進めていると、ある時点でキャラクターの『私はこういう人間です』という声が聞こえるようになるんです。つまりキャラクターの人間性を見つけることができた、ということ。物語を通し、たくさんのキャラクター同士をどうやって結びつけるのか、繋がりを見つけられることも喜びですね。実は私は子どものころから『私があの立場だったらどんな風に感じられるだろう』と考える遊びをよくしていて、脚本作りはその延長でもあるんです。だから例えヴィランでも、彼らの気持ちになって書いています」と秘訣を教えてくれた。

■「思い悩んでいた時期に観た『シンデレラ』『リトル・マーメイド』はいまも大切にしています」

コンセプト作りの段階から、本作をミュージカルにしようと考えていたリーは大のミュージカルファン。『アナと雪の女王』も、彼女が参加したことでよりミュージカル色を強めることになった。「とにかく私はミュージカルが大好き。『アナ雪』の企画を持ちかけられた時も『ミュージカル要素を増やせるならイエスです』と答えたくらい。でも当時はミュージカルの脚本の書き方をまったく知らなかったので、まずディズニーミュージカルチームのレクチャーからスタートしたんです」と笑う。

そんな彼女にディズニーミュージカルのお気に入り作品をたずねると、悩んだ末に「自作を省いて」と前置きしながら『シンデレラ』(50)と『リトル・マーメイド』(89)をあげた。「子どものころにいじめに遭っていた私は『シンデレラ』に勇気づけられ、いつも主題歌『夢はひそかに』を歌っていました。『リトル・マーメイド』はちょうど大学進学のタイミングに公開されました。これから私はどんな人生を歩むんだろうって考えていた時期で、『パート・オブ・ユア・ワールド』がすごく響いてくり返し歌っていたんです。思い悩んでいた時期に観たこの2本はいまも大切にしています」と明かしてくれた。

脚本家、監督としても才能を発揮したリーは、2018年にディズニー・アニメーション・スタジオで初の女性CCOに就任した。その仕事はクリエイティブチームのまとめ役だ。「あるビジョンを形にするため、クリエイティブチームを支えるのが仕事です。例えばなにか問題が発生したら解決の手助けをしたり、観客の立場に立って感じたことをフィードバックすることもあります」という彼女。脚本執筆は出社前に行い、会社ではミーティングの連続だという。「ディズニー・アニメーション・スタジオで進行中の作品の全クリエイティブチームとコラボレーションが必要。大変だけど才能ある人たちと組める最高の仕事です」。

■「ディズニーは『希望、可能性、想像力、喜び、それと魔法』」

アナと雪の女王』では、ディズニー長編アニメーション初の女性監督として注目されたリー。CCOとして特に心がけていることのひとつに多様性をあげる。「あらゆる意味で機会をたくさん作ることを大切にしています。私が就任した時期はディズニープラスのスタートと重なっていたこともあり、多くのフィルムメーカーと接する機会が増えました。新しい世代のクリエイターや女性監督とも積極的に会うようにしています。『アナ雪』で女性監督として扉を開けることができたので、性別に関係なくたくさんの人たちと最高の仕事ができる場を作りたい。ディズニー・アニメーション・スタジオにはそういう場所があると感じてもらえるよう心掛けています」と目を輝かせる。

その一方で、守りたい伝統もたくさんあるという。「受け継いでいきたいのは、ウォルト(・ディズニー)が始めて以来100年にわたって培われてきた制作のプロセスです。例えばストーリールームでのクリエイターたちの密なコラボレーション。誰か1人の声ではなく、お互いに意見を出し合い、時に助け合いながらストーリーを形作っていく。ストーリー以外の部門もそうですが、様々な意見を持ち寄ることでより質の高い映画を目指すプロセスは大事にしています」。

『ウィッシュ』を通し、一番伝えたいことを聞くと、願いの大切さをあげた。「ひとりひとりが心の中に抱えている“願い”が、みなさんを引っ張ってくれる推進力になってくれたら。そんな想いを込めて『ウィッシュ』を作りました。人生にはたくさんの困難がありますが、必ず手を差しのべてくれる人が出てきます。この映画を通し、そのことを感じ取ってもらえたらうれしいですね」と結んだリー。自分にとってディズニーとは「希望、可能性、想像力、喜び、それと魔法」だという彼女が生みだした『ウィッシュ』は、ディズニー創立100年を締めくくると同時に、次の100年への指針となる作品でもあるのだ。

取材・文/神武団四郎

ディズニーCCOが来日!ディズニー創立100周年記念作『ウィッシュ』の秘話を明かす/[c] 2023 Disney. All Rights Reserved.