天皇杯JFA第103回全日本サッカー選手権大会・決勝が9日に行われ、川崎フロンターレ柏レイソルが対戦した。

 全試合一発勝負のトーナメント形式で開催される天皇杯の優勝チームが決する。今季は川崎Fと柏が決勝まで駒を進めた。会場は2年ぶり開催の『国立競技場』。直近の明治安田生命J1リーグ10試合での対戦成績は川崎Fが7勝3分となっており、柏はなかなか白星を飾れていないが、“聖地”でトロフィーを掲げるのはどちらのクラブとなるだろうか。

 今季の川崎F明治安田生命J1リーグを8位でフィニッシュ。昨季までの直近5シーズンで3度リーグ戦を制した“常勝チーム”としてはやや寂しい順位となったが、無冠で2023年を終えるわけにはいかないだろう。今季の天皇杯では、2回戦で栃木シティFCを3-1で、3回戦水戸ホーリーホックを2-1で、ラウンド16で高知ユナイテッドSCを1-0で破った。準々決勝のアルビレックス新潟戦は延長戦まで戦って2-2と死闘を演じながら、PK戦の末に勝利を飾ると、準決勝ではアビスパ福岡を4-2で撃破。クラブとして初優勝を飾った2020年度の第100回大会以来となる決勝まで辿り着いた。

 対する柏は今シーズン、明治安田生命J1リーグでは残留争いに巻き込まれる苦しいシーズンを過ごした。5月には当時クラブを率いていたネルシーニョ監督の退任が決定し、ヘッドコーチを務めていた井原正巳氏がヘッドコーチに就任。監督交代後も白星から遠ざかる時期が続いたが、第22節京都サンガF.C.戦からは6試合連続無敗を成し遂げ、最終的には17位で残留を果たした。一方、天皇杯では2回戦で山梨学院大学PEGASUSを7-1で、3回戦徳島ヴォルティスを2-0で、ラウンド16で北海道コンサドーレ札幌を1-0で、準々決勝で名古屋グランパスを2-0で、そして準決勝ではロアッソ熊本を4-0で破り、決勝の舞台へ駒を進めた。ここまで喫した失点数はわずかに「1」と安定した守備を誇っており、2012年度の第92回大会以来、クラブ史上2度目の優勝を目指す。

 川崎Fを率いる鬼木達監督は、3年連続でJリーグベストイレブン受賞を果たした脇坂泰斗を筆頭に、キャプテンの橘田健人や家長昭博らをスターティングメンバーとして送り出した。大島僚太、佐々木旭、車屋紳太郎と3名の負傷者に加え、得意のドリブルで川崎Fの攻撃陣をけん引してきたマルシーニョも不在となり、左のウイングには宮代大聖を起用。最前線にはレアンドロ・ダミアンが入り、小林悠やバフェティンビ・ゴミスらがベンチから出番を待つ。

 一方、柏の井原監督は今季のJリーグ優秀選手賞に入ったマテウス・サヴィオと細谷真大、キャプテンの古賀太陽らを先発にチョイス。今季の終盤戦で左サイドバックのレギュラーとしてプレーしたジエゴの出場停止、さらには夏の加入で最終ラインを支えた犬飼智也と、育成型期限付き移籍からの復帰後攻撃陣を彩った山田雄士が大会規定により出られないのは痛手だが、“総力戦”で勝利を狙う。

 試合は立ち上がりから柏が敵陣へ押し込む時間を作る。9分には右コーナーキックから山田康太がニアサイドで合わせたが、右足から放たれたシュートは相手にブロックされた。14分には敵陣でのボール回収から小屋松知哉が右サイドを破ると、ペナルティエリア右のスペースから直接ゴールを狙ったが、シュートはGKチョン・ソンリョンに弾き出されている。

 勢いの良い入りを見せた柏はその後も試合の主導権を渡さず、22分には敵陣中央でボールを奪ったマテウス・サヴィオが自ら持ち運び、ペナルティエリア手前で切り返してから右足でミドルシュートを狙ったが、グラウンダーの一撃はGKチョン・ソンリョンに阻まれた。

 川崎Fとしてはなかなか敵陣に入れない時間が続く中、前半は終盤に突入。40分にはペナルティエリア手前左寄りのスペースで右からのクロスボールを受けた瀬古樹が、右足でミドルシュートを放ったが、シュートは枠を外れる。その後はこれまでの時間帯と同様に柏がセカンドボールの回収から2次攻撃を続ける時間が多くなったが、前半のうちにスコアは動かず、0-0でハーフタイムに突入した。

 両チーム選手交代はなく後半に突入すると、立ち上がりには川崎Fがセットプレーでゴールに迫る。47分、ペナルティエリア手前の距離のある位置でフリーキックを獲得すると、脇坂が右足で直接狙う。しかし、シュートは落ち切らずにクロスバーの上へ。

 後半に入ると川崎Fはロングボールも交えながら敵陣へ侵入していく局面を増やし、激しい攻防戦が繰り広げられていく。川崎Fは64分に瀬古と宮代を下げて、遠野大弥と瀬川祐輔をピッチへ送り出した。

 その後は川崎Fが前に出る場面が目立ったものの、68分には柏が奪ってからの鋭いカウンターでゴールを脅かす。自陣に押し込まれた状況の中、ペナルティエリア手前でクリアボールを拾ったマテウス・サヴィオが前線へ蹴り出すと、このボールに細谷が反応。大南拓磨を振り切ってゴール前までボールを持ち運んだが、タッチが乱れてボールが懐から離れると、飛び出してきたGKチョン・ソンリョンに処理されてフィニッシュまでは持ち込めなかった。

 この直後、両チーム77分に選手交代を実施。川崎Fはレアンドロ・ダミアンを下げて小林を、柏は小屋松と山田康太を下げて戸嶋祥郎と山本桜大をピッチへ送り出した。さらに川崎Fは86分、大南と脇坂に代えジェジエウとジョアン・シミッチを投入する。

 試合も最終盤に突入していくと、川崎Fは得意のパスワークからペナルティエリアに入っていくシーンを増やしていき、対する柏はマテウス・サヴィオと細谷を中心にカウンターで虎視眈々とゴールを狙う。8分のアディショナルタイム内に柏は土屋巧と高嶺朋樹を下げ、川口尚紀と仙頭啓矢を投入。ラストプレーではコーナーキックのこぼれ球を拾った柏にチャンス。ペナルティエリア左で粘りを見せた片山瑛一が角度のないところから思い切り良く右足を振り抜くも、シュートはポストに嫌われた。

 激しい展開の中、両者90分間でスコアを動かすことはできず、試合は延長戦に突入。延長戦の入りは川崎Fが前へ出る時間を作ったが、96分に柏はルーズボールをうまく収めたマテウス・サヴィオが倒され、ペナルティエリア手前の良い位置でフリーキックを獲得。倒されたマテウス・サヴィオ自身が直接狙ったが、シュートはジャンプした壁に直撃した。

 なおも攻める柏は99分、ピッチ中央から左寄りの位置で片山がヘディングで前方へボールを押し出すと、このボールに抜け出した細谷がGKと1対1のチャンスを迎える。細谷は右足でニアサイドを狙ったものの、ここは飛び出してきたGKチョン・ソンリョンがビッグセーブ。こぼれ球を回収して繋ぐと、ペナルティエリア手前の位置から仙頭がミドルシュートを放ったが、ここはわずかにゴール左へと外れた。

 延長前半終了間際、柏は中盤の位置で豊富な運動量を維持してきた椎橋慧也を下げ、アタッカーの武藤雄樹を投入。このままハーフタイムに突入すると、川崎Fは途中出場の小林が足を痛め、代わってゴミスが送り出された。

 するとそのゴミスがこの日の川崎Fにとって最大の決定機を作り出す。118分、敵陣右サイドで粘った橘田が大外へ繋ぐと、待っていた山根視来がボックス中央へクロスボールを送る。このボールがペナルティエリア内で待っていたゴミスの頭にピタリ。強烈なヘディングシュートを放ったが、ここはGK松本健太が横っ飛びセーブでゴールを許さない。こぼれ球に家長が詰めたものの、再びGK松本が立ちはだかった。

 両GKの活躍もあって120分間を経過しても均衡は破れず、決着は昨季の決勝に続いてPK戦に委ねられることとなった。1人目は先攻の川崎Fの家長、後攻の柏のマテウス・サヴィオともに成功。川崎Fの2人目の瀬川は1度シュートを止められたものの、GK松本がキックの瞬間にゴールラインを離れており、やり直しのPKをしっかりと決めた。その後、柏の2人目の細谷、川崎Fの3人目の山村和也、柏の3人目の戸嶋、川崎Fの4人目の橘田と成功。柏の4人目を務めた仙頭はゴール左を狙ったが、シュートは無常にも左ポストに直撃した。

 決めれば勝利が決まる中、川崎Fの5人目ゴミスを迎えたが、GK松本がコースを読み切りゴールを許さない。柏の5人目の武藤は決め、サドンデス方式の6人目以降に入る。川崎Fの6人目の登里享平のキックは再びGK松本がビッグセーブしたものの、柏は6人目の片山はシュートを枠に当ててしまう。川崎Fの7人目の遠野、柏の7人目の山本、川崎Fの8人目の山根、柏の8人目の川口、川崎Fの9人目のシミッチ、柏の9人目の立田悠悟と成功し、川崎F、柏ともに10人目にはGKが登場。チョン・ソンリョンは成功した一方、松本のゴール左を狙った一撃は止められてしまい、勝敗が決した。

 PK戦までもつれ込む死闘を制した川崎Fが、3大会ぶり2度目の天皇杯優勝を成し遂げた。なお、この勝利により、川崎Fは2024-25シーズンのAFCチャンピオンズリーグエリート(ACLE)の出場権を手にしている。

【スコア】
川崎フロンターレ 0-0(PK戦:8-7) 柏レイソル

【得点者】
なし

スターティングメンバー
川崎F(4-3-3)
GK:チョン・ソンリョン
DF:山根視来、大南拓磨(86分 ジェジエウ)、山村和也、登里享平
MF:橘田健人、脇坂泰斗(86分 ジョアン・シミッチ)、瀬古樹(64分 遠野大弥)
FW:家長昭博、レアンドロ・ダミアン(77分 小林悠)(106分 バフェティンビ・ゴミス)、宮代大聖(64分 瀬川祐輔)

柏(4-4-2)
GK:松本健太
DF:土屋巧(90+3分 川口尚紀)、立田悠悟、古賀太陽、片山瑛一
MF:小屋松知哉(77分 戸嶋祥郎)、椎橋慧也(104分 武藤雄樹)、高嶺朋樹(90+3分 仙頭啓矢)、マテウス・サヴィオ
FW:山田康太(77分 山本桜大)、細谷真大

ハイライト動画】両GKの活躍も光った120分間の死闘

天皇杯を獲得した川崎フロンターレ [写真]=金田慎平