「強く堂々とした、立派な男子」を意味する言葉、「ますらお」。もはや死語に近いともいえますが、陸上自衛隊では、日本で消えゆく「ますらお」達の育成教育を行っています。陸上自衛隊(ますらお)というと世間には「常に真剣な眼差しで冗談が許されない組織」という印象がありますが、メディアには映されないオフ時にこそ面白いエピソードが満載だといいます。元陸上自衛官・ぱやぱやくん氏の著書『陸上自衛隊ますらお日記』(KADOKAWA)より一部を抜粋し、見ていきましょう。

大切なことをお伝えしましょう。残念ながら自衛官はモテません

駐屯地で生活をしているますらお達も、いつかは愛を育み、駐屯地の外に旅立っていきます。最近は自衛隊の活躍が目まぐるしく、メディアで「自衛官お見合い結婚大作戦!」などの番組が放映されるようになったこともあり、「自衛官は誠実でカッコいいからモテる!」と思っている人達も一定数いると思います。

しかし内部のますらおからすれば、「自衛官はモテないだろ…」という気持ちで一杯であることが多く、事実恋愛に苦労をすることも多いです。女の子にモテないニキビ面のチェリーボーイが、メディアに映る自衛官の姿を見て「自衛官になればモテるかも」と思って入隊をしたり、「失恋した女性を見返すため」といった理由で入隊したりするのも悪くはありません。しかし、そういった理由で入隊すると、ますますモテなくなる茨の道を歩むことになります。そんな苦労の絶えないますらお達の恋愛事情について密着していきましょう。

そもそも自衛官のビジュアルはクセが強いんじゃ

ますらおに第一に求められるのは、「端正な髪形」です。端正とはしっかりと刈り上がり、自衛官としてふさわしいヘアスタイルをすることです。この時点で「顔はイマイチだけど髪形はカッコいい」という雰囲気イケメンになる選択肢が消滅します。特に教育隊では髪形に色気があると「チャラついた気持ちがあるな! けしからん奴!」と薩摩藩の武士教育のようなことを言われることもあるので、「清く正しい坊主スタイル」か「寿司屋の見習い風角刈りスタイル」の二択になります。

では「坊主頭に似合う新しい服を買うか…」という気分になるかといえば、そんな気分にもなりません。前回もお話しした通り私服をほとんど着ないので、「私服なんて買う意味ないでしょ」という気持ちになるからです。その結果、服が必要なときは、ワゴンセールのカゴに入っている、おじいさんが着ていそうなベージュのブルゾンとハンチングを装備するますらおも誕生します。

驚くほど出会いがなく、やるせない

休日はデートをするよりも、同期と美味しいものを食べたり、映画を見たり、漫画喫茶、スーパー銭湯、マクドナルドでテリヤキバーガーとビッグマックを食べるのに大忙し。もはや「同年代が何をしているか分からない」という状況になります。女の子と話したのは遠い昔という若手も珍しくなく、恋愛という船が座礁している状態です。

ここで「マッチングアプリ」や「お見合いパーティー」に行けばいいじゃないかと思う方もいると思いますが、別の問題にぶち当たります。それは「任地」です。

自衛隊の任地は、花の都である大東京だけではありません、北は北海道から南は沖縄まで基地や駐屯地があり、「島流し」と揶揄されるような任地までしっかりあります。都市部に近い駐屯地であればマッチングアプリの登録者が多く、お見合いパーティーも盛んなので問題ありませんが、自衛隊の施設は大抵片田舎にあります。特に北海道でマッチングアプリをすると、「あなたの近くの女性(旭川市100km)」ともはや「近く」の概念が狂っていることも珍しくないのです。

また、離島勤務となると、地元の漁師と若い女の子を争い喧嘩になることも多いので、気を付けたほうがいいでしょう。

地方都市に駐屯地がある場合は街コンが行われることもありますが、「店に入ると男性陣が自衛官っぽい人だらけ」という事態もたびたび発生します。スナックやガールズバーに行っても駐屯地で見たことあるような人ばかりで、駐屯地や基地が近くにある街では「短髪の奴、大体自衛官」になるのです。街コンで上手く女性と出会えればいいですが、部隊の先輩や同期が一生懸命女の子に声をかける姿を見ると萎えるものです。

ぱやぱやくん

防衛大学校卒の元陸上自衛官。退職後は会社員を経て、現在はエッセイストとして活躍中。名前の由来は、自衛隊時代に教官からよく言われた「お前らはいつもぱやぱやして!」という叱咤激励に由来する。著書に『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル防衛大学校』『陸上自衛隊ますらお日記』(どちらもKADOKAWA)などがある。

(※写真はイメージです/PIXTA)