カラパイアの元の記事はこちらからご覧ください

 地球には今、76分ごとに天の川銀河の中心付近から高エネルギーの「ガンマ線」が照射されている。

 メキシコ国立自治大学の宇宙物理学者によれば、その発生源は超大質量ブラックホールいて座A*」を光速の30%という超スピードで周回する「ガスの塊」であると考えられるそうだ。

 『arXiv』(2023年11月10日投稿)で閲覧できる未査読論文は、天の川銀河の中心にある巨大なブラックホールの謎を解明する重要なピースのひとつになるかもしれない。

【画像】 超大質量ブラックホールの周囲から地球に届く放射線

 天の川銀河の中心に鎮座する超大質量ブラックホールいて座A*」の方角からやってきた「ガンマパルス」が初めて検出されたのは、2021年のことだ。

 強力な放射線は確かにいて座A*の方からやってきていたが、その発生源はブラックホール自体ではなく、その周囲だと考えられた。

 なぜなら、どんなブラックホールにも「事象の地平線」があるからだ。ここを越えたものは、たとえ光であってももはや脱出は叶わない。

 つまり、ブラックホール自身は放射線を出さない。ならば、いて座A*の方角からやってきた放射線の一種、ガンマ線はその周囲から放出されたに違いないのだ。

 超大質量ブラックホールの周りには、その巨大な重力によって「降着円盤」というガスや塵でできた構造が形成される。

・合わせて読みたい→超大質量ブラックホールの正体がワームホールの入り口である可能性(ロシア研究)

 そしてこの構造もまた、強力な放射線の発生源であることが知られている。

 降着円盤の物質がブラックホールに落下するとき、低エネルギー電波から高エネルギー・ガンマ線まで、幅広い電磁スペクトルの”光”が放出されるのだ。

 だがいて座A*の場合、それは考えにくかった。と言うのも、その周囲に”餌”となるような物質がほとんどないからだ。

 それが物質を飲み込むスピードはごくゆっくりとしたもので、アリゾナ大学の天文学クリス・インピー氏(今回の研究には不参加)の解説によれば、人間が数百万年に一度米を1粒食べるようなものなのだそうだ。

1

いて座A*のそばから放たれる謎めいたX線の様子。同じ領域から発生しているガンマ線は、それと関係がある可能性が高い / image credit:NASA/JPL-Caltech

ガスの塊が光速の30%という超スピードでぶっ飛んでいる

 メキシコ国立自治大学の宇宙物理学者チームは、謎のガンマ線の発生源を突き止めるべく、2022年6~12月にフェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡が収集した観測データを分析してみた。

 まずはガンマ線に周期的なパターンがないかどうか探ってみる。すると、ガンマ線は76.32分に一度地球に届いていることがわかった。

[もっと知りたい!→]ブラックホールは宇宙の錬金術師。はからずも金を作っている可能性

 奇遇にもこの周期は、いて座A*のそばから放出されるX線放射の周期のちょうど半分だ。このことから、この2つが調和しており、おそらくは関連しているだろうことがうかがえた。

 「X線とガンマ線における多重波長周期の一致は、それを生み出す単一の物理的メカニズムを指し示している」と、論文では説明されている。

 研究チームが「ユニークな振動物理メカニズム」と呼ぶこの発見から推測されるのは、いて座A*の周りでは、ガスの塊が光速の30%(時速3億2000万km)という超スピードで渦巻いており、ここからガンマ線とX線が放出されているだろうということだ。

 今回の分析によるなら、この高速で移動する物質の塊が、いて座A*をサーキットの如く周回しながら、複数波長の放射線を放出していると考えられるのだそうだ。

 この発見は、天の川銀河の中心にあるような、怪物のような質量でありながら、比較的穏やかな超大質量ブラックホールについて理解を深めるヒントになる可能性もあるとのことだ。

References: A 76 minute gamma-ray periodicity in Sagittarius A* / 'Blob' circling Milky Way's central black hole shooting powerful radiation at Earth every 76 minutes | Space / written by hiroching / edited by / parumo

 
画像・動画、SNSが見られない場合はこちら

天の川銀河にある超大質量ブラックホールは76分ごとに強力な放射線を地球に発射している