時代と共に家族のカタチは変わるもの。そのようななか、増えているのが「おひとり様高齢者」。独り身で、しかも高齢ということがネックになり、厳しい老後を強いられることも珍しくありません。なかには「最期は1人で死ぬしかないのか……」と絶望を口にする人も。みていきましょう。

おひとり様高齢者が直面する「家が借りられない」問題

時代と共に家族のカタチは変わっていきますが、それは高齢者世帯でも同じこと。家族のなかに65歳以上の人がいる「高齢者世帯」は、いまから20年ほど前の2001年には全世帯の34.4%でしたが、2021年には49.7%と約半数にまで増加。

高齢者世帯に焦点を当てると、1人暮らしの高齢者、いわゆる「おひとり様」が2.4倍に増えた一方で、孫、子、親といった親子3世代の家族は約40%減と、アニメ「サザエさん」のような世帯構成は、かなりの少数派となっています。

【高齢者世帯:世帯構造別の変遷】

「おひとり様」307.9万世帯→742.7万世帯(2.4倍)

「夫婦のみ」423.4万世帯→825.1万世帯(1.9倍)

「親と未婚の子」226.8万世帯→528.4万世帯(2.3倍)

「3世代」414.1万世帯→240.1万世帯(0.6倍)

出所:厚生労働省『国民生活基礎調査』より

※数値左より2001年→2021年

平均寿命は「男性<女性」、夫婦の年齢差は「妻<夫」が一般的。そのため、元々「妻が夫を亡くす」というパターンのほうが多くみられましたが、そこに核家族化の進行が加わり、「夫を亡くした妻の1人暮らし」が増加しました。さらに生涯未婚率も上昇。結果的に「おひとり様高齢者」が急増することになったのです。

1人暮らしの高齢者、いろいろと大変なことがあります。そのひとつが「住まいの確保」。賃貸の場合、持ち家とは異なる苦労があります。株式会社KG情報が運営する「賃貸スタイルコラム」が60歳以上の男女にアンケートを行い、「シニア層が実際に賃貸物件を借りるときに困ったこと」をランキング形式にまとめています。

それによると1位は「希望する物件に住めなかった」で12.9%。2位は「保証人が見つからなかった」で10.0%。「家賃の支払いに不安があった」6.9%、「賃貸を断られてしまった」6.7%と続きます。ようは、1人暮らしの高齢者、「家を借りるのもひと苦労」というわけです。

理由のひとつが「孤独死」。

――最近、OO号室のXXさん、見かけないねぇ

そんな会話の数日後、数週間後に変わり果てた姿で発見される……最近、よく聞くパターンです。入居者が孤独死すると、原状回復費用が余計にかかったり、事故物件として避けられたりするため、大家は孤独死リスクの高い高齢者を嫌う傾向にあります。

昨今は高齢者歓迎の賃貸物件も増えていますが、まだまだ避けられる傾向にあることは肝に銘じておいたほうがよさそうです。

おひとり様高齢者10人に1人が生活保護…1人で最期を迎えるしかないのか?

もうひとつは「生活費」。おひとり様の高齢者は低年金の傾向が高く、貧困に直面するケースが多いとされています。

厚生労働省『被保護者調査(令和5年9月分)』によると、生活保護を受けている世帯は全国に164万2,209世帯。そのうち「おひとり様高齢者」は84万2,521世帯と過半数を占めています。またおひとり様高齢者の10人に1人以上が生活保護を受けている、という現状です。

たとえば東京都23区に在住、70代のおひとり様だとすると、最低生活費=生活扶助基準額は7万4,220円、最低家賃=5万3,700円。合計12万7,920円となります。預貯金などほとんどなく、頼りになる年金も生活保護費以下……そんな「おひとり様高齢者」が全国に80万人以上もいるわけです。

家を借りるのもひと苦労、さらに低年金で生活はカツカツ……そんなおひとり様の高齢者。年を重ねるごとに身体は不自由になり、要支援・要介護となったら、さらに大変です。

介護サービスを利用して自宅で暮らし続けることも可能ですが、独り身でさらに日常生活に不自由が多くなると心細くなってしまうもの。そこで考えたいのが「老人ホームへの入居」です。

老人ホームへの入居の際、まず初期費用として入居一時金、そして月額の利用料を考える必要があります。入居一時金は家賃の前払いみたいなもので、ゼロ円~高級なホームになると数億円とピンキリ。また月額費用は15万~30万円程度と幅があり、さらに月額費用に含まれないサービスも含めると、プラス数万円~を見据えておく必要があるでしょう。

相場から考えると、生活保護費以下の低年金・預貯金なしの「おひとり様高齢者」の場合、とても老人ホームへの入居は夢物語のように感じます。

――1人で死ぬしかないのか……

そんな絶望に襲われることでしょう。低年金で預貯金がなくても入居できる老人ホームはないのでしょうか?

結論からいえば、公的な老人ホームであれば、誰でもというわけではありませんが、低年金でも入居することができます。

特別養護老人ホーム、いわゆる「特養」は、「要介護3以上」の認定を受けている人が対象。初期費用はゼロ円~、月額費用は5万円~程度です。ただし入居には条件があり、身体状況や生活環境などから点数化され、順番が回ってきます。そのため1年以上も入居待ち状態、というのも珍しくありません。

介護老人保健施設、いわゆる「老健」は、退院後、在宅で生活できるようになるまで回復を目指す施設。初期費用はゼロ円~、月額費用は6万円~程度。「介護医療院」は医療や介護、リハビリテーションを提供する施設で、医療の必要度が高い高齢者向け。初期費用はゼロ円~、月額費用は6万円~程度。「ケアハウス」は自宅での生活が困難だったり低所得だったりする人を対象にした施設で、一般型と介護型があります。初期費用はゼロ円~、月額費用は6万円~程度。

2023年度、国民年金を満額受給できていれば「月6万6,250円」。公的な老人ホームであれば「年金月6万円、預貯金なし」でも入居できそうです。また生活保護を受けていても老人ホームへの入居は可能。なかには生活保護受給者を対象にした料金体系を用意している施設もあります。

低年金・預貯金ゼロを理由に、老人ホームへの入居を諦める必要はありません。

[参考資料]

厚生労働省『国民生活基礎調査』

賃貸スタイル『シニア層に聞いた!賃貸物件を借りるときに困ったことランキング』

厚生労働省『被保護者調査(令和5年9月分)』

(※写真はイメージです/PIXTA)