香港の街並み

香港の民主活動家、周庭(アグネス・チョウ)は、27歳の誕生日、12月3日に、2年ぶりにSNSに投稿した。

彼女は、9月中旬からカナダトロントに留学しており、「当初は12月に香港に戻り、警察に行く予定だったが、香港の情勢や自分自身の身の安全、心身の健康状態などを考慮した結果、香港には戻らないと決めた。おそらく一生戻ることはないだろう」と記した。事実上の亡命である。

今、香港はどうなっているのか。

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■香港の民主化運動

19世紀半ばにアヘン戦争に敗れた清国は、イギリスに香港を割譲した。そして、99年間の租借が終わった1997年7月1日に香港は中国に返還された。当時のサッチャー首相と鄧小平と間で、「港人治港」(香港人による香港統治)、「一国二制度」(中国本土とは異なる制度を適用すること)を50年間続けることで返還の条件がまとまった。「高度の自治」を香港に認めた上で、特別行政区として中国の社会主義体制とは異なる制度を保証したのである。

ところが、その後、中国政府は、着々と香港の中国化を進めるべく手を打っていった。たとえば、立法会は親中派が多数を占める仕組みになっているし、行政長官は親中派が推薦することになっている。

このような状況に対して、市民は抗議を続けてきた。2003年には、50万人のデモで、反体制派を取り締まる国家安全法を廃案に追い込んでいる。2014年には、学生らが行政長官選挙の完全民主化を求める運動、いわゆる「雨傘運動」を行い、周庭もこれに参加した。彼らは79日間にわたって道路を占拠したが、これは市民の日常生活に不便をもたらしたために批判され、失敗に終わった。

 

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■2019年の大規模デモ

その後、香港では、立法会で「逃亡犯条例」を改正して、中国本土への容疑者の引き渡しを可能にしようする動きがあり、2019年6月には、これに反対する市民200万人が参加するという大規模デモが行われた。1989年6月4日天安門事件から30年というタイミングである。

林鄭月娥行政長官は、条例改正案を撤回した。周庭も、この抗議活動に参加して逮捕された。その後、釈放されたが、また抗議活動を繰り返し、無許可集会煽動罪などの罪で、2020年12月に禁固10ヶ月の実刑判決を受けて服役している。

周庭は、2021年6月に刑期短縮で刑務所から出所した。その後、一切の情報発信を止めていたのである。

今回のSNS投稿に対して、香港警察国家安全処は、「公然と法律に挑戦する無責任な行為を強烈に非難する」と述べ、香港に戻って警察に出頭するように求めた。また、中国外務省の汪文斌報道官も、「香港は法治国家であり、法律の及ばない特権を持つ者はいない」と非難した。

 

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■白紙運動

2022年11月には、中国各地で、ゼロコロナ政策に抗議する「白紙運動」が起こった。この活動の影響もあって、習近平政権は、ゼロコロナ政策を撤廃した。この抗議活動は、天安門事件以来の大衆運動と称されたこともあり、習近平政権は警戒し、取り締まりを強化した。100人以上が逮捕されている。

習近平政権は、鄧小平の改革開放路線を転換し、毛沢東思想に逆戻りし、軍事力至上主義、秘密警察的手法を用いている。

スパイ法が改正され、強化されて、今年の7月1日に施行された。中国で仕事をする外国人ビジネスマンは、いつ反スパイ法違反で摘発されるか分からない状況である。3月には、大手製薬会社の中国現地法人の日本人社員が反スパイ法違反容疑で拘束された。2014年に反スパイ法が施行されてから、17名の日本人が拘束されている。

香港は経済的に凋落しつつある。国際金融の面でも、今や香港よりも上海のほうが発展している。中国全体が繁栄を続けるかぎり、香港の地位は相対的に低下し、無視できる存在になりうる。「自由のある貧困」と「自由のない豊かさ」という究極の選択を強いられれば、前者を選ぶ者の比率が高いとはかぎらないからである。

台湾との関係では、香港の事態を見れば、習近平によって一国二制度での統一を持ちかけられても、台湾の人々が拒否するのは当然である。来年1月23日には台湾で総統選挙が行われるが、香港情勢が大きな影響を及ぼすことは避けられない。

 

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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「香港の今」をテーマにお届けしました。

【舛添要一連載】周庭が事実上の亡命… 香港が選ぶのは「自由のある貧困」か「自由のない豊かさ」か