「月々1万円の支払いで資産ができる」「節税対策になる」……そんな不動産業者の口車に乗せられて、赤字経営を続けているサラリーマン投資家は少なくありません。しかし、実際のところ「不動産投資は事業なので黒字経営が必須」だと、不動産投資歴15年、家賃収入3億円超えの実績を誇る名取幸二氏と、一般社団法人マネー総合研究所所長の杉田卓哉氏はいいます。著書『不動産投資 絶対にやってはいけない39の落とし穴』より、その理由についてみていきましょう。

「月々たった1万円の支払い」は、単なる“赤字”に他ならない

「月々たった1万円の支払いで将来の資産が手に入りますよ!」というのは、区分マンションを販売する会社や営業マンがよく使うセールストークです。

ここで、「月々たった1万円の支払い」の中身を説明しましょう。文字通り「月々たった1万円の支払い」ではなく、“持ち出し(赤字の補填)が月々たった1万円”という意味です。

3,000万円の新築区分マンションを買うと、35年間のローンを金利1.5%で組んだとすれば、おおよそ月々9万円の返済になります。都心部のワンルームマンションの家賃は、新築や築浅の場合なら月額10 万円くらいですから、家賃から返済を引くと月1万円くらいが残ります。

しかし、そのほかにも管理費や修繕積立金、年間の固定資産税などの支出を月額で割って約2万円の支出となれば、10万円-9万円−2万円=マイナス1万円。これが月1万円の支払いの正体なのです。

不動産投資は事業なので、黒字経営が必須

それでも、「月1万円程度の持ち出しなら、給料から支払えるから問題ない」と納得する人もいるかもしれません。

しかし、問題は家賃が入らなくなったときです。入居者が退居し、家賃が入らなくなった場合でも、月11万円の支出は待ってくれません。しかも悪質な区分マンション業者は、このような物件を1軒だけでなく、3軒、5軒と続けざまに買わそうとしてくるのです。

また、入退居のたびに家賃が下落していく可能性も十分に考えられます。さらには、入退居のたびに内装のリフォームや原状回復工事(部屋を元の状態に戻す工事)、最低でもハウスクリーニングなどのコストが発生しますし、築年数が経つほどに住宅設備の故障なども起こり、大きな修繕費用がかかることもあるでしょう。

ちなみに、毎月管理組合へ支払う修繕積立金は、建物の躯体や設備の老朽化に対する修繕費用の積み立てであり、各部屋の室内の修繕工事には使えません。

不動産投資は事業ですから黒字経営が必須です。黒字経営とは、具体的に毎月キャッシュフローが得られる収支であることです。

キャッシュフローとは、不動産を所有して得られる現金収入のことです。家賃収入があり、それに対して修繕費・管理費・税金などの支出があり、収入から支出を引いた手残りを指します。不動産投資は手残りがプラスであることを目指すべきで、マイナスのキャッシュフローは絶対に避けるべきです。

「節税」というキーワードは要注意

「不動産投資は節税対策になる」というフレーズも、区分マンションの販売業者がよく使うセールストークです。年収の高いサラリーマンなどに対して、「赤字にすることにより、所得税を節税しましょうよ!」などと誘ってきます。

これは本業の収入と不動産投資での赤字を相殺させて所得税の減税を図る方法で、「節税目当てだから」と、あえて赤字になるような儲からない不動産をあなたに売りつける悪質な不動産営業マンがいます。

不動産投資は不動産賃貸業という事業ですから、赤字経営はよくありません。先ほどの事例にあった「月々たった1万円の支払い」は、言い換えれば「毎月1万円のマイナスキャッシュフローである」という意味合いです。

目先の節税より、事業を黒字化して金融機関の信用を獲得するほうが得策

赤字経営を続けるなかで、空室になれば月マイナス1万円が月マイナス11万円になり、さらに修繕費がかかることもあります。いくら節税になるからとはいえ、マイナスの投資をする意味はありません。ましてや銀行から融資を受けての事業なので、赤字になると次から追加融資が受けられなくなります

それでも「属性」という、その人の年収・資産背景・社会的地位などにより、銀行もその赤字を一定額までは許容して追加融資をしてくれるのですが、債務超過が属性によるプラス評価で埋め合わせられなくなると、そこで融資は完全にストップします。

もちろん、理論上では所得税を低く節税することは可能になりますが、不動産を「事業」として見た場合には赤字経営になるので本末転倒です。一度でも、この「赤字にして所得税を節税」という路線を歩んでしまうと、その後に黒字化して利益を大きくしていきたい路線に変更するのは至難の業です。

不動産経営はあくまでも収益を得ることが目的であり、融資を受けて規模をさらに大きく拡大していきたいのであれば、目先の節税ではなく、事業を黒字で継続して、金融機関からの信用を獲得するほうが得策です。

そういう意味でも、不動産投資は赤字で運営すべきではありません。日ごろから「税金が高いなあ……」と悩んでいる高給取りのサラリーマンにとって、この「節税」というキーワードは一見すると魅力的に感じます。

しかし、それは落とし穴です。彼らの口車に乗ってはいけません。

名取 幸二

株式会社ペスカトーレ

代表取締役

杉田 卓哉

一般社団法人マネー総合研究所

所長

(※写真はイメージです/PIXTA)