ゴジラ-1.0』では戦闘機の「震電」や重巡洋艦の「高雄」のように戦中の兵器が多数登場していますが、実は主人公の敷島浩一が乗っていたバイクも、けっこう関係があるかもしれません。

ハーレーを源流とした国産バイク

2023年11月3日に公開が開始された映画『ゴジラ-1.0』は、敗戦直後の日本を舞台にしているということで、旧日本陸海軍が使用していた兵器がゴジラへの対抗手段として使われています。戦闘機の「震電」や重巡洋艦の「高雄」のように劇中に名称が明言されるものもありますが、神木隆之介さんが演じる主人公の敷島浩一が通勤用に使っているオートバイに関しては特に詳しい説明がありません。

その神木隆之介さんが公開初日の舞台挨拶でも、当時のもののため運転に苦労したと振り返っていた大型バイクは、一体何なのでしょうか。

劇中のフォルムやエンジン音はハーレーダビッドソンのようなスタイルを彷彿としますが、これは1930年代から1950年代まで日本国内で製造されていた、ハーレーを源流とするバイク「陸王(りくおう)」であるとSNSなどで言及されています。

陸王は、元々ハーレーのライセンス生産として、日本ハーレーダビッドソンモーターサイクル(日本ハーレー)で、1934年から生産開始したバイクが原型で、翌年に日本ハーレーは三共内燃機へと社名を変更します。その際、同社はハーレーの製造設備まで買い取り、ハーレーの完全国産化を実現。同時にバイクの愛称も公募され、採用されたのが「陸王」でした。翌1936年には社名も陸王内燃機に再度変更されます。

その後、1941年7月の日本による仏印進駐によりアメリカとの関係悪化は決定的となりましたが、同車の生産は継続されます。同年12月の日米開戦後も続けられ、日本陸軍の九七式側車付自動二輪車として、アメリカ軍の使用する本家ハーレーと戦うことになります。

松本零士さんの短編マンガでも有名!

とはいっても、陸王は旧式のハーレーがベースとなっているうえ、戦時下による部品の品質低下により、当時のアメリカ陸軍が採用していたハーレー・ダビッドソン・WLAと比べると、かなりの性能差があったといわれています。

なお、松本零士さん原作の『戦場まんがシリーズ』での短編ひとつで、後に『ザ・コクピット』シリーズとしてアニメ化もされた『鉄の竜騎兵』では、九七式側車付自動二輪車を操縦する元プロライダーの古代一等兵と、ハーレー・WLAに乗るアメリカ軍偵察兵とのバイク乗り同士の対決が描かれています。

戦後直後の混乱期には、大型バイクを買う人は国内にほとんどおらず、陸王内燃機は倒産し、昭和飛行機の資本傘下で別会社の陸王モーターサイクルとして事業を継続します。

ところが、1950年代に入ると、小型・中型のバイクを製造するメーカーも頭角を現し、旧態依然とした戦前ハーレーを原型としていた陸王は苦戦することになります。中型バイクなども販売しましたが振るわず、経営は行き詰まり、1959年に陸王の生産は打ち切られ、1960年には会社自体が倒産することになります。

1953年製の陸王(画像:Michanhappy<CC BY-SA 4.0>)。