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 アニメや漫画の設定には「電撃に打たれて特殊能力に目覚めてしまった!」というものがあるが、実際にそれに近いことが自然界で起きているかもしれない。

 名古屋大学大学院の飯田敦夫助教をはじめとする研究チームは、アマゾン川などに生息する雷神「デンキウナギ」が放つ最大860ボルトもの電気が、周囲の生物の遺伝子組み換えを後押している可能性を明らかにしている。

 『PeerJ』(2023年12月4日付)に掲載された研究によれば、デンキウナギの電撃には、実験室で行われる電気を使った遺伝子導入法「エレクトロポレーション(電気穿孔法)」と同じような効果があると考えられるそうだ。

【画像】 強力な電気を放電するデンキウナギの影響

 遺伝子の謎に取り組む研究者たちは、細胞に外部の遺伝子を取り込ませるため、電気を使うことがある。これを「エレクトロポレーション(電気穿孔法)」という。

 エレクトロポレーションは、細胞に電圧をかけることで、細胞膜に一時的な孔を開けてやる方法だ。そうすることで、DNAやタンパク質などの分子が細胞に取り込まれるようになる。

 デンキウナギは、最大860ボルトにもなる強力な電気を発生させて獲物を気絶させて狩りを行う強電気魚だ。

 名古屋大学の本堂栄一教授と飯田篤夫助教授が率いる研究グループは、デンキウナギの放電が周囲の生物たちに同じような効果を発揮しているのではないかと考えた。

 川の中には「環境DNA」と呼ばれる生物のDNAの断片が流れている。

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 もしもデンキウナギの強烈な電撃を食らった生物たちの細胞に孔が開いたとしたら、ここから環境DNAが取り込まれるかもしれないというのだ。

デンキウナギの放電で環境DNAが細胞内に取り込まれることを確認

 飯田助教らはこの仮説を検証するべく、デンキウナギゼブラフィッシュで実験してみることにした。

 光るようマーキングされたDNA溶液をゼブラフィッシュに浴びせ、それからデンキウナギを刺激して放電させてみたのだ。

ゼブラフィッシュを入れデンキウナギを刺激して放電させる実験

 エレクトロポレーションは一般的に実験室で行われるものとされる。だが飯田助教にはかねてから異論があったらしく、次のように語っている。

エレクトロポレーションは自然界でも起こるのではないかと思っていました。

アマゾン川にいるデンキウナギが電源、周辺に生息する生物が受容細胞、水中の環境DNAが外来遺伝子となれば、放電で周辺生物の遺伝子組み換えが起きる可能性に気づいたのです

 実験の結果、ゼブラフィッシュの5%に、環境DNAマーカーの光が確認された。デンキウナギは本当に遺伝子組み換えの動力源かもしれないということだ。

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ゼブラフィッシュの体で光る外部から取り込まれた遺伝子 / image credit:hintaro Sakaki

デンキウナギの電気は、エレクトロポレーション装置のものとはパルスの形状が異なり、電圧も不安定です

それでもデンキウナギの放電が細胞への遺伝子導入を促進したことを示しています

デンキウナギをはじめとする放電生物が、自然界でも遺伝子組み換えに関与していたとしてもおかしくありません

雷などの放電も生物の遺伝子に変化をもたらす

 ちなみにまた別の研究では、雷のような自然現象が線虫や土壌細菌に影響を与え、今回と同じようなことが起きていることが観察されているという。

 フィクションの世界では「雷に打たれると異能に目覚める」という設定もあるが、事実雷に打たれて特殊能力を得たケースもいくつか報告されている。

 生物と電気、この予想外の組み合わせは、これまでの常識ではわからなかった複雑な生命の営みを照らしてくれるかもしれない。電気だけに。

追記:(2023/12/17)本文を一部訂正して再送します。

References:Electric organ discharge from electric eel facilitates DNA transformation into teleost larvae in laboratory conditions [PeerJ] / 'Shocking' discovery: Electricity from electric eels may transfer genetic material to nearby animals / written by hiroching / edited by / parumo

 
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デンキウナギの放電が周辺生物の遺伝子に変化をもたらす可能性