詳細画像はこちら

任意+自賠責保険で合計41万件の保険契約があったビッグモーター

関東財務局は保険業法に違反する数々の不正行為を行ったビッグモーターに対する行政処分として、保険業法第307条第1項第3号の規定に基づき、令和5年11月30日をもって損害保険代理店としての登録を取り消した。

【画像】ビッグモーター不正報道 関連の写真を見る 全13枚

損保や関係各社に取材をして算出したところ、ビッグモーターでの任意保険契約件数は2022年度末でおよそ15万件とみられる。2022年度の任意保険料の売り上げ合計は約138億円となるが、そのうち、代理店手数料(22%)としてビッグモーターに入る、いわば「純利益」は30億円強である。

詳細画像はこちら
ビッグモーター不正報道

これに自賠責保険26万件による手数料(2022年度を参考に、一律1733円)を加えると、1年間で約32億円の手数料が入っていたことになる。それが保険代理店としての登録が取消となったことで手数料収入がなくなる。

今後、合計41万件の保険契約はどうなるのだろうか?

関東財務局による行政処分によってビッグモーター各店は保険代理店としての機能がなくなってしまったわけで、今後は任意保険(自動車保険)や継続車検を受ける際の自賠責保険(強制保険)を契約することができなくなる。

なお、保険の新規契約の手続きができないことに加えて、保険期間途中の契約もビッグモーター店舗の代理店から損保各社に移管されている。保険代理店の取り消しは関東財務局が行う行政処分の中で最も厳しいものだ。一度取り消しを受けると少なくとも3年間は同じ法人で再度指定をうけることは不可能となる。

三井住友から筆者のもとにも届いた!

実は筆者も2023年9月にビッグモーター下関店で三井住友海上火災保険株式会社の自賠責保険契約をしていたのだが、その件で11月中に「お知らせ」が届いていた。

タイトルは「ビッグモーター社との損害保険代理店委託契約解約のご案内」とある。筆者がビッグモーターで契約していた自賠責保険は三井住友が直接扱うと記されている。

詳細画像はこちら
ビッグモーター不正報道

損保ジャパン/東京海上/三井住友/あいおいのメガ損保4社に聞いたところ、ビッグモーターでの契約は損保各社の直接扱いになるか、損保の子会社となる代理店やプロ(専業)代理店など、中販店やディーラー内の兼業代理店ではないところに案内されるとのことであった。

ただし各社で対応が少し異なっており、東京海上では「自賠責も任意保険も、同様に原則として子会社の代理店に移管のご案内をしております。お客様が他の代理店をご希望の場合には、ご希望の代理店をご指定いただいた上で個別に対応をしております」とのことであった。

いずれの損保も新車ディーラーや中古車販売店などの兼業代理店に案内することは、調べた限りはないようであるが、客の希望によって例えば知り合いの兼業代理店を希望すればそちらに移管するとのことであった。

ビッグモーターで契約した保険がある場合は各保険会社からの案内が届いているはずなので、各自でしっかりと確認してほしい。各社の公式サイトにも詳しい案内が出ている。

保険代理店終了の理由が「保険金不正請求」ではないのはなぜか

このたび保険代理店登録取り消しという保険事業において、もっとも重い行政処分を受けることになったビッグモーターだが、その理由は何か? 「保険代理店登録を取消」と聞けば多くの人が「保険金不正請求が理由」と思うだろう。

実際、内部告発によって調査が開始された保険金の不正請求について、兼重宏行前社長はじめ経営陣が認めたことからビッグモーター不祥事が世の中に知れ渡ることになったのは確かだ。

詳細画像はこちら
ビッグモーター不正報道

これらは保険会社の健全かつ適正な業務運営に支障を来す行為であるにとどまらず、損保業界全体の信頼を失墜させかねない悪質かつ重大な問題である。

しかし実は、今回の行政処分の経緯や内容を読み進めていくと「不正請求」のことにはまったく触れられていない。なぜなのか? これについて関東財務局や損保各社に確認したところ、以下の理由であることがわかった。

・本件に関わる行政処分は保険業法307条1項3号に基づきBMグループの保険代理店業務(とくに募集行為)における問題点を理由として代理店の登録取消を命令するものである。
・保険金の不正請求行為は、保険代理店として行った募集行為に関するものではないため、処分の直接的な理由にはなっていない。
・一連の保険金の不正請求問題は、本件処分と同様にBMグループのガバナンス欠如が根底にあって発生したものである。
・不正請求はあくまで整備に関連する行為のため、金融庁の監督外(=国交省の管轄)である。

コストに見合った「利益を生まない」はバッサリ切る

わずか8か月で崩壊状態となった保険事業の管理体制だが、こちらも兼重宏一前副社長の判断によって大きく傾いていったことがわかる。

令和2年6月に兼重宏一副社長の判断により「コストに見合った利益を生まない事業」という判断によって苦情対応コールセンター事業を廃止して以来、保険部による各店舗への指導や教育の取組も中止し、保険部の体制は大幅に縮小、募集人の指導や教育など、必要最小限の管理体制も維持できなくなった。

詳細画像はこちら
ビッグモーター不正報道

令和3年2月、コストに見合う効果が得られないとして保険募集の管理/指導を行う保険推進委員も廃止したことで内部監査も全く機能しなくなってしまった。結果、保険業法違反となる不適切な事例が多数認められることになった。

・きわめて短時間に契約手続きを行った148件のうち、122件に重要事項の説明を行わずに契約。
→関係者いわく「今の自動車保険の募集はシステム(タブレット等)で画面を提示しながら説明するスタイルが主流。正しい手順を経ると契約締結まで最低でも10分以上かかる(時間もすべて記録される)数分で終わっている場合、十分な説明がされなかったのではとの疑義に繋がる」とのことで、疑義のある契約を詳しく調べた結果148件中122件で重要事項の説明が行われていないことがわかった。

・保険加入を条件に車両価格を値引くなど、保険業法第300条第1項第5号で禁止する特別利益の提供を行っていた。
→保険を契約する代わりに車両価格を値引く禁止行為。ビッグモーター以外、新車ディーラーでも割と当たり前に行われているという情報もある。

・下請業者にBMグループで保険加入させるよう指示。149件中、121件について圧力による保険加入と判断された。
→下請け業者の扱いは店舗によって異なるが、業者の家族は所有する車の保険や車検も強制的にビッグモーター扱いに切り替えていたケースもあった。

なおこれらは全体の数字ではなく、ごく一部を抽出した数字となる。

保険業法違反を犯した募集人への再教育が12月から始まる

このようにビッグモーターでは保険募集人による違法行為が、多数認められたことが保険代理店終了につながったわけであるが、彼らは何かしらのペナルティを受けるのだろうか? 実はこの12月から日本損害保険協会による「再教育」が行われるという。

「保険業務に関し、著しく不適当な行為を行った代理店の募集人(過去一定期間内に所属していた者も含む)について、引き続き保険募集に従事する場合には改めて募集人としての適格性を確認するため、再教育の仕組みとして一定期間内に損保一般試験の再受験等が求められる。したがって、ビッグモーターに所属していた方も再教育の対象になります」(損保協会)とのことである。

詳細画像はこちら
ビッグモーター不正報道

なお、この「再教育」を受けない限り保険募集には従事できないとのことであった。

現在、ビッグモーターは支援を申し出た伊藤忠グループによるデューデリジェンス(買収監査)の真っただ中である。

監査は粛々と行われているということだが、来年春には新社名の中古車販売店として新たなスタートを切れるのだろうか。なお、関東財務局に確認したところ、新法人となれば保険代理店として数々の厳しい審査を経て、再び登録できる可能性もあるそうだ。


ビッグモーター保険代理店終了 41万件の保険契約と年間32億円の手数料が消滅 今後は?