路上に張られた電線から電力の供給を受けて運行するトロリーバスは、日本においても、かつて東京、大阪、名古屋、横浜、京都などで路面電車に代わる交通機関として運行されていたが、1970年代までにすべて廃止されている。

しかし、環境に優しく、EVバスのように高価なバッテリーを必要としないメリットから、運行を続けている都市も世界には少なくない。北朝鮮の首都・平壌もそのひとつだ。現在12路線、56.7キロで運行されており、多くの市民に利用されており、路面電車地下鉄と並んで平壌の主要な交通手段となっている。

だが、電力供給の不安定さから急に止まってしまうことも多い。平壌のデイリーNK内部情報筋によると、以前から冬はトロリーバス立ち往生することが多かったという。これは、北朝鮮の発電の多くが水力に頼っていることから、雨の少ない冬になると発電量が減ることに起因する。

平壌でも特権層の住む市内中心部への電力供給は、火力発電所が担っており、停電や電圧低下は比較的少なかった。しかし最近、市内中心部でトロリーバス立ち往生する事態が発生した。乗客が降りて車体を後ろから押して動かす様子を目撃した朝鮮労働党の幹部が上層部に報告し、問題となった。

朝鮮労働党平壌市委員会(市党)は、原因を究明して対策を立てるために、トロリーバスを運行している平壌市旅客運輸総合企業所に緊急会議を開かせた。

平壌市旅客運輸総合企業所は、電圧が低くて傾斜が少しでもきつければトロリーバスが止まってしまうと主張した。これに対して、電力供給を行う平壌市送配電所は、事件が起きた時間帯に、電圧は低くなっていなかったと反論し、責任をなすりつけあった。

泥試合になるのは、責任を認めたら最後、厳しい処分の対象になってしまうからだ。「選ばれし者」だけが居住を許された都市である平壌から追放され、地方の閑職に追いやられるかもしれないし、もっと厳しい処罰もありえる。

今回の事件は、平壌市民の間でも話題になった。ある市民はこう言ったという。

「平壌ですら電気が不足してトロリーバスを後ろから押すはめになるとは情けない。この国が本当に衛星発射を成功させたのか」

新型トロリーバスに乗った金正恩氏(2018年2月4日付労働新聞より)