取材・文:山岸南美

小説『僕の殺人計画』(KADOKAWA)で作家デビューを果たしたYouTuber、やがみ。動画ではオリジナルのホラーストーリーを発信しており、チャンネル登録者数は76万人超、動画の総再生回数は2億回超という人気ぶりだ。小説化を待ち望む声も多数寄せられていた同氏に、思い入れのあるシーンや小説の魅力などを語ってもらった。

初小説『僕の殺人計画』が話題沸騰中!
ホラークリエイターやがみ インタビュー

セリフに自分の感情を乗せて臨場感を届けていく

――小説のなかで特に気に入っているシーンはありますか?

ページ数を指定できるくらい思い入れのある箇所があります。それはP92~95の、ミサという女性インフルエンサーの独白です。まだ読んでいない方は「3ページもセリフが続くの?」って思うかもしれませんが、とんでもないマシンガントークが繰り広げられているんですよね。

――なぜ思い入れのあるシーンに選ばれたのでしょうか。

小説のなかで最初に書けたのがこのセリフだったからです。このセリフは15分ほどで書き終えた部分で、絶対に書きたいと強く思っていました。近年、ルッキズムについて語られることが増えてきて、僕なりに日頃感じていることを書きなぐった……というのもほかのシーンより特別に感じられる理由です。語り口もそれまでと違ってかなり感情的ですし、特にSNS全盛の若い世代の心を揺さぶれないかなと思っています。

――感情を乗せた結果、どのようなシーンになったと感じますか。

物語のなかで、読者を引き込む役割になったなと思います。感情的であることはあまりよくないと思う人も一定数いますが、それでもやっぱり引き付けられるんですよね。ついつい知りたくなってしまうものです。もちろん、書きはじめたときにはそんな打算的な考えではありませんでしたけど。

自分だけの一冊を見つけてほしいから考察の余地を残したい

――最初の構想から、土壇場で変更になった部分が多々あったとお聞きしました。

はい。本来であれば表紙を決めるときに、イメージを固めてもらうために、デザイナーやイラストレーターの方に、原稿をある程度読んでいただくことが多いと思います。でも、僕の執筆がかなり遅れてしまったので……、表紙が先に出来上がってしまったんですよ。上がってきた表紙を確認したんですが、僕が書こうとしている内容の未来を見据えているような仕上がりで、逆に原稿の道筋が見えて筆が走りました。そして、校了日が近づいたある日、編集の方から「表紙の男性が赤い花を持っていますけど、これ……小説に入れられないですよね」とご指摘をいただいてハッとしました。そこからは、必死になって赤い花について調べました。表紙の花はいったいなんなんだというところから、どうやったら浮いて見えないように入れ込めるのかなど……、四苦八苦しました。おかげで赤い花や花言葉に詳しくなりましたよ(笑)。

――小説の内容だけでなく、制作中もかなり臨場感があったんですね。ミステリーの展開で特に気をつけていたことはありますか?

小説だけに限らず、僕は考察の余地がある作品が好きです。結末がスッキリと提示されるものよりは、どのように解釈するのかを自分なりに考える。自分のなかで答えを出せたとき、それは自分だけに分かる特別な一冊になると思います。

――この小説を通して読んだときに感じたんですが、ミステリー以外のテーマも意識されているのかなと思いました。

たとえば、さきほどのルッキズムであったり、小説のなかで触れられている親子関係についてだったり……いくつかはあります。ただ、メッセージ性が強くなると説教くさくなってしまうので、それぞれが感じるままに読んでくれたらそれでいいかなと思います。ある人は「面白い本だったな」という感想でいいし、またある人は「ルッキズムって自分はどう考えているんだろう」という考えでもいい。本って、自由な発想をしてよいものだと思うので、僕の語るメッセージ性なんて些末なことです。

これからの課題はインプットを増やすこと

――小説を書いてみて、これからの課題などは見つかりましたか?

これは主にふたつですね。ひとつは、これまで以上に小説を読みたいという欲が大きくなったので、その時間をつくりだすことです。かぎられた時間のなかで、どうにか読みたいという欲も、書きたいという欲も満たしていきたいです。ふたつ目は世の中で起きていることや、ほかの人がなにを考えているのかを知るということです。これは会話がベースになるのかなと思っているんですが、いかんせん出不精な人間なのできっと実現はしないでしょう(笑)。

――やがみさんの理想として、どういう世代の人と話してみたいと思いますか?

いわゆる、本を読まないとされている若い世代ですかね。そのくらいの世代って良いことも悪いことも充実していると思うんですよ。まだ世の中を知らないということもあって、何かトラブルが起きても、迷わずに突っ込んでいけることが大人より格段に多い。僕とは違う経験をしてきた人や、感覚の違う人を見つけやすいのもこの世代だと思うので興味はあります。本当は繁華街を飲み歩いて、初めて会った人に声かけて話を聞いてみたいですよ。「最近、何か面白いことあった?」とか。だけど、頭のなかにトークデッキと不甲斐なさが溜まる一方なので、あんまり考えないようにしています。

――まだ初小説を書いて間もないですが、これからもやがみさんの小説を楽しみにしていていいですか?

また小説を書く機会がいただけるなら、全力で取り組ませていただきます。僕が好きなものは、ミステリーやホラーに偏っています。たぶん、恋愛や青春を題材にしたものは書けないでしょう。でも、偏っているおかげで注力できる部分も多いので、ミステリーやホラーが好きという人たちを増やし、さらに巻き込んで、活動の幅を広げていきたいと思っています。

プロフィール

やがみ
気鋭のホラークリエイター。YouTubeで完全オリジナルの怖い話を発信。チャンネル登録者数は謎に76万人超(2023年12月現在)。動画の総再生回数は謎に2億回超。とにかく謎が多い。
YouTube:https://www.youtube.com/@yagami2ch/featured
X(旧Twitter):https://twitter.com/yagami2ch

作品紹介

『僕の殺人計画』
やがみ
2023年11月7日 発売
KADOKAWA

これまで何冊もの大ヒット小説を生み出してきた
編集者・立花のもとに届いた奇妙な原稿。
そこに書かれていたのは、
自身が完全犯罪の被害者として殺されるという衝撃の内容だった!

「命は惜しい。でも、続きを読まずにはいられない」
一人の人間として恐怖心を抱きながらも、
編集者としての圧倒的な好奇心が、立花を死のループへと誘う。

かつての天才ミステリー編集者は、
謎の殺人鬼作家から命を守ることができるのか?

命をかけた究極の頭脳戦を描く本格ミステリー

作品特設ページ:https://kadobun.jp/special/yagami/bokunosatsujinkeikaku/
詳細ページ:https://www.kadokawa.co.jp/product/322304001333/
amazonページはこちら

本記事は「カドブン」から転載しております

ホラークリエイターやがみによる初小説が話題沸騰中! 「読んだ人だけの正解を見つけてほしい」