2016年のブルメイステル版『白鳥の湖』、2019年の『くるみ割り人形』、そして今年11月の『眠れる森の美女』。チャイコフスキー三大バレエの新制作を完結させたばかりの東京バレエ団が、2019年以来毎年12月に上演してきたクリスマスの定番、『くるみ割り人形』を今年も上演する。2021・22年公演に続き、3度目のマーシャ役に挑む足立真里亜に、作品の見どころや意気込みを聞いた。

「観ている方を驚かせるような踊りがしたい」

――作品のお話に入る前に、まず足立さんご自身について少しお聞かせください。バレエを始めたきっかけは?

始めたのは3歳の頃なので、記憶は全くないのですが。母が子どもの頃、バレエを習うのが夢で、娘が生まれたら習わせたいと思っていたそうです。しばらくは母に「行きなさい」と言われるから行く感じだったのですが、中学生になるちょっと前くらいに、バレエの先生が真剣に育てようとしてくださっているのを感じて私も真剣になり始めて。といってもカルチャースクールのような教室だったので、先生としても、私をプロにしようとまでは思っていなかったと思います。私は物まねをするのが好きで、物まねがしたくて先生の踊りも話もよく見てよく聞いていたから、それが伝わって真剣になってくださったんじゃないかな。

――では、プロになろうと思ったのは?

私の場合、「バレリーナになりたい!」という強い憧れとか夢を抱いたことってないんですよ。進路を考える節目節目に、自分にできることを選んでいって、気付いたら東京バレエ団にいましたね。だからプロになってからも、新しい役をいただいて「嬉しい」と思うことはまずなくて、「私は次これをやるのか!」の連続でここまで来た感じ。醒めているわけではなく、もちろんバレエは好きなんですが、“バレリーナ”に憧れたというより、“バレエを仕事にすること”に憧れたという感じかもしれないです。皆さんもお仕事をされてる中で、新しいプロジェクトを任されたりしたら、喜びより先に“現実”が来ますよね(笑)? その感覚に近いと思います。

――なるほど、分かりやすいです(笑)。ご自身のダンサーとしての特徴や強みはどこにあると思われますか?

強みは柔軟性にあると思っていて、最近はそれを生かして、観てる方をびっくりさせるような踊りがしたいと思うようになりました。もちろん役柄にはよりますが、もうちょっと脚上げちゃおっかな、そしたら観てる方が「わ!上がってるな!」ってなるかなって。あとは、自分を出すことにためらいがないところ。役に向き合って、役を通して世界を見ることも好きなので、演じることは、もしかしたら踊ることよりは上手かもしれないです。私、踊りはそんなに上手じゃないので(笑)。

――そんなことはないと思いますが(笑)、優雅な舞台姿からは想像がつかないぶっちゃけキャラ、新時代のバレリーナという感じがして素敵です。

そうですか? うちのバレエ団は結構みんなこんな感じですよ。本番中、楽屋に戻るとみんなで「今の見てた?」「あそこ最高だった!」「あれはやり過ぎじゃない?」とか言い合ってます(笑)。

「“還暦”なので、赤い服でいらしてください(笑)」

――チャイコフスキー三大バレエというのは、やはりダンサーの皆さんにとって特別な存在なのでしょうか。

そうですね。私は新制作された三作すべてに出演することができたのですが、バレエ界にとってなくてはならない演目なんだなと改めて感じました。芸術監督の斎藤友佳理さんをはじめとする方々が、良いところを残しつつ今の時代に伝わりやすくする、というすごく大変な作業に真剣に取り組む姿を目の当たりにして、それだけ大切な演目なんだなって。本当に古くから伝わる、バレエの代名詞みたいな三作だから、初めてバレエを観る方にもぴったりですよね。『白鳥』と『眠り』は初めての方には少し長い作品なので、なかでも『くるみ』がデビューには一番だと思います!

――新制作された東京バレエ団の『くるみ』の一番の魅力は?

うちの『くるみ』と言えば、信じられないくらい大きくなるクリスマスツリー。そこから顔を覗かせていたキャラクターが、次の瞬間には舞台で踊っていたりと、友佳理さんらしいトリッキーな仕掛けもたくさんあります。サプライズにあふれていますし、全編を通して“陽”の部分しかない作品なので、観ていて楽しいんじゃないかな。

――では、マーシャ役についてはどんな魅力や難しさを感じていますか?

すごく難しいですね! 子どもとプリンセスを演じ分ける役なので、短い時間の中で別の人が踊っていると思われるくらい変わらなきゃいけないですし、子どもを演じるためには子どもだった頃を思い出すだけじゃなく、“子どもらしい”表現を探さなくちゃいけない。たとえば、くるみ割り人形をプレゼントされて嬉しい気持ちは思い出せても、「うっわーこれ欲しかったー!!」って大興奮することって、今はないじゃないですか(笑)。そのあたりは、付属のバレエ学校である、東京バレエ学校に通うバレエキッズを参考にさせてもらっています。本当に難しい役ですが、毎年同じ役に取り組めるというのは、ダンサーにとってすごくありがたいこと。自分の変化や成長を計れる良い機会なので、3年目の今回も、前回からの1年で経験したことを生かして踊れたらいいなと思います。

――この1年で、足立さんの中での一番の変化というと?

お客様に対しての意識ですね。以前は“ジャッジされてる”みたいな意識が強かったんですが、コロナ禍が明けて以降、皆さんがワクワクしながら劇場に来てくださっているのを感じて、「期待を裏切らないように」というより「楽しんでもらおう!」という気持ちになれているんです。今回も、心の中で「皆さん味方ですよね~!」と言いながら舞台に出て行こうと思ってます(笑)。

――最後に改めて、読者の皆さんにお誘いのメッセージをどうぞ!

クリスマスシーズンに本当にぴったりの演目なので、私たちと一緒に楽しいクリスマスを過ごしませんか? というのがひとつと。東京バレエ団は来年で60周年で、この『くるみ』も60周年記念シリーズの一環なんですよ。“還暦”なので、ぜひ赤い服を着ていらしてください!(笑)

取材・文:町田麻子

<公演情報>
東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ3
くるみ割り人形』全2幕

音楽ピョートル・チャイコフスキー
台本:マリウス・プティパ(E.T.A.ホフマンの童話に基づく)
改訂演出/振付:斎藤友佳理(レフ・イワーノフ及びワシーリー・ワイノーネンに基づく)
舞台美術:アンドレイ・ボイテンコ
装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ

出演:東京バレエ

揮:フィリップ・エリス
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
児童合唱:NHK東京児童合唱団

【東京公演】
2023年12月21日(木)~12月24日(日)
会場:東京文化会館

【西宮公演】
2023年12月27日(水)
会場:兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール

【津公演】
2023年12月28日(木)
会場:三重県文化会館 大ホール

【大津公演】
2024年1月6日(土)
会場:滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール 大ホール

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2346047

公式サイト

足立真里亜