1995年に日本で放送された北川悦吏子脚本のヒットドラマをリメークした韓国版「愛していると言ってくれ」で、聴覚障害のある主人公・ジヌを演じているチョン・ウソンは、2000年代の第一次韓流ブームから不動の人気を誇るスター俳優の一人。今作では大人の深みある恋愛模様で視聴者の心をつかんでおり話題となっているウソンだが、過去には日本中にブームを巻き起こした恋愛映画の主演も務めている。およそ20年にわたり第一線で活躍し続ける俳優ウソンの軌跡に今、あらためて注目する。

【写真】手話をするときのウソンの覗き込むような目線がたまらない!

■大ヒットした「私の頭の中の消しゴム

1973年3月20日生まれのウソンは現在50歳。モデルとして活動を開始した後、オーディションを突破して映画「KUMIHO 千年愛」(1994年)でコ・ソヨンの相手役に抜てきされ、21歳で俳優デビュー。その後、映画を中心に活躍してきた。

そんなウソンの代名詞ともいえる作品が映画「私の頭の中の消しゴム」(2004年)だ。ソン・イェジン演じるヒロイン・スジンが若年性アルツハイマー病に冒され、身の回りのことから愛する人まですべてを忘れていく中で、彼女をひたすらに愛し続ける夫・チョルスを演じた。粗野でぶっきらぼうなチョルスがスジンと出会い、愛の人へと変わっていく様子は人々の心を激しく揺さぶり、チョルスがスジンからの手紙を読み泣きじゃくるクライマックスシーンは当時、観客を感動の渦に巻き込んだ。

日本のドラマ「Pure Soul~君が僕を忘れても~」(2001年、日本テレビ系)が原作であることに加え、公開当時は韓国ドラマ「冬のソナタ」(2003-2004年)をきっかけに第一次韓流ブームが巻き起こっていたことも追い風となり、「私の頭の中の消しゴム」は韓国国内のみならず日本でも大ブームを巻き起こした。興行収入30億円という成績は、2020年に公開された「パラサイト 半地下の家族」で破られるまで15年にわたり日本で公開された韓国映画による歴代興行収入No.1の座を守り続けた。

■日本のドラマ「グッドライフ」にも出演

「私の頭の中の消しゴム」で見せた魂の演技をきっかけに、ウソンのロマンス演技は評判に。韓国では“メロ(ラブストーリー)職人”と呼ばれ、その後も映画「デイジー」(2006年)、「きみに微笑む雨」(2009年)といった珠玉の恋愛作品を生み出していった。

ロマンス作品の他にも、アクションやサスペンス作品などジャンルを問わず活躍。韓国最大の映画の祭典「青龍映画祭」で1999年、2001年、2008年に人気スター賞を受賞したのをはじめ、数々の賞を受けている。近年も、正義と野心の間で揺れる弁護士を演じた「無垢なる証人」(2019年)で同映画祭の主演男優賞を獲得。また、2023年は30年間同映画祭のMCを務めたキム・ヘスをねぎらうため受賞式に駆け付け、トロフィーを手渡す役を担った。このことからも、韓国映画界でのウソンの存在の大きさがうかがえる。

また、ウソンは日本のエンタメ作品と浅からぬ縁があることでも知られる。日本のドラマが原作の「私の頭の中の消しゴム」に出演したこともその一つだが、他にも韓国のベストセラー小説「カシコギ」を原作にした反町隆史主演ドラマ「グッドライフ~ありがとう、パパ。さよなら~」(2011年、フジテレビ系)に、原作のファンだったウソンが物語のカギを握る韓国人医師役で出演し、当時大きな話題を呼んだ。

さらに、“日本で初めて地上波ゴールデンタイムに放送された韓国ドラマ”として日本のドラマファンの注目を浴びた「IRIS-アイリス-」(イ・ビョンホン主演)のスピンオフ作品「ATHENA-アテナ-」に主演…など、何かと日本に縁のあるキャリアも、日本でのウソン人気の高さの理由の一つだろう。

■2024年1月公開「ザ・ガーディアン/守護者」で監督デビュー

第一次韓流ブームから現在まで、およそ20年にわたり変わらぬ人気を誇るウソン。

11年ぶりのロマンス作品挑戦だったという「愛していると言ってくれ」では、コミュニケーションに難しさを抱える40代の主人公ジヌが戸惑いながらも少しずつ自分の中にある恋の感情に気付いていく様子を、落ち着いた深みのある演技で表現。「私の頭の中の消しゴム」のチョルスのような全力でぶつかっていく愛情表現とはまた違う、見る側の心にしみわたるようなじんわり温かい表現で、“メロ職人”の名にふさわしい魅力を見せている。

近年は、監督としての活動も本格化。2000年と2002年に歌手グループ・god(ジーオーディー)のミュージックビデオを手掛けるなどプロデューサーとしての手腕ものぞかせていたが、2024年1月26日(金)公開のアクション映画「ザ・ガーディアン/守護者」でついに監督デビューを果たす。この作品では、奪われた最愛の娘を取り返そうとする主人公スヒョク役で主演も務めている。

そしてウソンといえば芸能活動の他、10年にわたり難民問題に心を寄せていることでも知られる。2015年からは国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の親善大使として活動。レバノン南スーダンロヒンギャポーランドといった国々を訪れ、難民問題の啓蒙(けいもう)に努めてきた。2019年には、難民関連活動5年を記念したエッセー「私が見たものをあなたも見ることができるならば」も出版している。

長きにわたり映画・ドラマで活躍を続け、11年ぶりのロマンス作品「愛していると言ってくれ」では、孤独を背負う一人の男のひたむきな愛情を体現するウソン。その円熟味ある演技に加え2024年には映画監督としての顔も加わった彼の、今後の活躍からも目が離せない。

「愛していると言ってくれ」はディズニープラスのスターにて独占配信中(全16話/毎週月・火曜1話ずつ配信)。

◆文=ザテレビジョンドラマ部

「愛していると言ってくれ」第1話より/(C) 2023 KT Studio Genie Co., Ltd/原作 日本のテレビドラマ「愛していると言ってくれ」(脚本 北川悦吏子・製作 TBS)