ソニー・インタラクティブエンタテインメントSIE)は12月6日PlayStation 5 対応周辺機器となる『PULSE Explore ワイヤレスイヤホン』(希望小売価格:税込29,980円)を発売した。同製品はPlayStationとしては初となる完全ワイヤレスイヤホンであり、「次世代のゲーミングオーディオ」を謳った期待のデバイスだ。本稿ではSIEから届いた同商品を実際に使ってみてのインプレッションをお届けする。

参考:【写真】“次世代のゲーミングオーディオ”と謳われる『PULSE Explore ワイヤレスイヤホン』

 現在のPlayStation 5Bluetoothに対応していないため、これまでヘッドホンやイヤホンを使うためには基本的にコントローラーに有線で接続する必要があった(Bluetoothイヤホンも使えないわけではないのだが、ちょっとした手間がかかる)。同様のワイヤレスオーディオとしてはPS5本体と同時にリリースされた『PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット』が存在していたが、同商品はあくまでヘッドホンであり、長時間利用すると頭に負担がかかってしまったりといった懸念点があった。「PS5でも純正の完全ワイヤレスイヤホンを使いたい」と検討していたユーザーにとっては、まさに念願のデバイスと言えるだろう。

 実際に使ってみた感想を先に書いておくと、「音楽再生やWeb会議での使用といった日常生活から、シームレスに上質なPlayStation体験へと移行することができる見事なオーディオデバイス」という印象だ。実は筆者個人としては、最初にこの商品のニュースを見た際に「まぁ、でも普段使っているイヤホンとかで大丈夫かな」と思っていたのだが、実際に数日ほど使ってみたところ、すっかりこの商品が欲しくなってしまっている自分がいる。

■シームレスに日常とゲームを行き来する、鮮やかなワイヤレスイヤホン

 『PULSE Explore ワイヤレスイヤホン』を使用した際にまず関心したのが、イヤホンの接続における全体のスムーズさだ。パッケージを開封して、同封のドングルPS5のUSB端子に接続すれば、あとは充電ケースからイヤホンを取り出し、耳に装着するだけでペアリングが完了する。ペアリング時間に関してもワイヤレスイヤホンとしては異常とも言えるほどの短さで、誇張なしに「装着と同時にペアリング完了」していると言っても過言ではない。これは恐らく、今回導入された「PlayStation Link」というワイヤレス技術の恩恵によるものなのだろう。普段、Bluetoothイヤホンのペアリングに煩わしさを感じる筆者にとっては、これだけでもかなりのメリットだ。装着感も良好で、自分に合ったイヤーピース(S・M・L・XL)を選べば、長時間の着用でもほとんど疲れを感じることはないだろう。

 音楽や動画の再生、Web会議への参加といった普段使いの目的においても、『PULSE Explore ワイヤレスイヤホン』はBluetoothの接続にも対応しているため、まったく問題なく使用することができる。実際の音質などのレビューについては後半にまとめるが、このような使い方をしていると気になるのが「他デバイスからPlayStation 5へのペアリングの切り替え」だ。ワイヤレスイヤホンを複数デバイスに跨いで使用していると、この切り替えの部分で煩わしさを感じることが本当に多いのだが、本製品は驚くべき方法でこの問題を解決している。なんと、Bluetoothによる接続とPlayStation Linkによる接続は両立が可能(デュアル接続)となっており、Bluetooth機器との接続を維持したままPS5とペアリングすることができるのである。

 たとえば、作業中に聴いていたBGMを再生したまま、息抜きにPlayStation 5のコントローラーを手に取り、好きな曲をバックに『グランツーリスモ7』でレースを楽しんだらまた作業に戻る。あるいはスマートフォンでラジオを聴きながら帰宅し、そのままソファに座ってPlayStation 5を起動してゲームに没頭する。「PULSE 3D ワイヤレスヘッドセット」であれば、こうした日常生活とゲームの切り替えにおいて、特に何も触ることなくシームレスに移行できるのだ(時折、PS5側との接続が切れている場合があるが、イヤホンのボタンを一度触ればすぐにペアリングできる)。

 もちろん、この機能に対して特に魅力を感じないというユーザーもいるかもしれないが、ワイヤレスイヤホンに対して「接続のスムーズさ」を強く求める筆者としては、BluetoothとPlayStation Linkの二刀流が生み出す利便性やポテンシャルの高さに衝撃を受けてしまった。また、同じくPlayStation Linkに対応しているPlayStation Portal リモートプレーヤー(以下、PS Portal)に対しても簡単にペアリングが可能であり、PlayStation 5PS Portalの切り替えについても、ある程度スムーズに実現することができる。

■ワイヤレスイヤホンとは思えない圧倒的な臨場感と、普段使いもバッチリな完成度の高さ

 とはいえ、いくら接続周りがスムーズでも、実際の音質が期待外れであれば話にならない。だが、そこはさすが日本有数のヘッドホン/イヤホンのラインナップを揃えるソニーグループの本領発揮といったところで、ワイヤレスイヤホンを使っているとは思えないほどの臨場感に満ちたゲーミングオーディオ体験を提供してくれる。

 音質については全体的に空間の再現に重きを置いた、ある程度の音場の広さを感じさせる仕上がりとなっており、ゲーム内に構築された立体的な音像を見事に再現してくれる。『Apex Legends』や『Call of Duty』のようなFPSでは、しっかりとどの音がどの位置から鳴っているのかをクリアに把握することが可能であり、『グランツーリスモ7』では自車の力強いモーター音と、他の車たちの走行音が一体となったド迫力のレースサウンドに浸ることができる。

 中でも圧倒されたのが、今年リリースされた作品の中でも特に優れたオーディオデザインを誇る『Alan Wake 2』で、鬱蒼とした森のまるで訪問者を飲み込むかのようなじっとりとしたムードから、吐息までしっかりと感じられるキャラクターの台詞、重みのある銃声、プレイヤーの脳を直接ハックするかのような効果音などが見事に立体的に構築された空間が耳の中へと広がっていき、ただでさえ恐ろしいゲームであるにも関わらず、より一層にその恐怖をリアルなものとして感じることができた。

 また、オンライン対戦での用途を踏まえると、ボイスチャットの音質やバッテリーの持続時間についても気になるところだ。今回のプレビューでは実際に友人を招いて『ストリートファイター6』のオンライン対戦を2時間ほど試してみたのだが、筆者側のマイクの音質については、「ノイズが少なくなり、今までよりも聞き取りやすくなった」という感想をもらうことができた。また、筆者側としても相手のマイクの音声が非常にクリアに聞こえるようになったと感じることができており、ボイスチャット機能においても不満点を感じることは少ないのではないだろうか。バッテリーについても2時間のプレイではまったく問題なく、それからさらに2時間ほど音楽を聴きながら本稿を書いているのだが、まだある程度は余裕がありそうである(公式には内蔵バッテリーだけで最大5時間、充電ケースを使えばさらに最大10時間の再生が可能とのことだ)。

 最後に、音楽再生時のインプレッションについてもまとめておきたい。これは完全に個人的な感想になるため、可能であれば実際に試聴するなどして自分に合うかどうかを確かめてほしいのだが、筆者としては(PlayStation 5との連携を加味したうえで)価格に見合った良質な音質を担保しているように感じられた。

 ゲームのインプレッションでも触れたように、本製品は空間の再現に強みを持っているため、特に近年のポップ・ソングと相性が良い。たとえば、Billie Eilish「What Was I Made For?」では、ボーカルとピアノの位置関係をしっかりと感じながら、幾重にも折り重なった歌声のレイヤーをしっかりと立体的に感じることができる。高音域から低音域までバランス良く鳴らしながら、高い空間再現力を誇る本製品は近年のトレンドでもあるダンス・ミュージックの影響が色濃い楽曲とも好相性であり、PinkPantheress「Mosquito」のような楽曲ではしっかりとビートの存在感を感じながら繊細に構築された音空間に没頭することができるだろう。

 一方で、Bring Me The Horizon「Can You Feel My Heart」のようなヘヴィ・ロックやZedd「Beautiful Now」といったEDMのような、音密度が高く、頭を揺らすかのような重厚なサウンドが求められる楽曲の場合は、どうしても迫力の弱さを感じてしまうのが正直なところだ。とはいえ、カジュアルに使用する場合はきっと満足できるであろう音質であることには違いない。総じて価格に見合った完成度を誇る完全ワイヤレスイヤホンという印象だ。

 冒頭で書いたとおり、最初は「PULSE Explore ワイヤレスイヤホン」という「ゲーミングオーディオ」という存在自体に懐疑的だった筆者だが、実際に使用してみて、ペアリングのスムーズさやBluetoothとPlayStation Linkのデュアル接続が生み出す利便性とポテンシャル、ワイヤレスイヤホンとは思えないほどのクオリティを誇る音質にすっかり魅了されてしまった。現在、PlayStation 5を使用していて、ワイヤレスイヤホンの導入を検討しているのであれば、ぜひオススメしたい一品である。

(文=ノイ村)

『PULSE Explore ワイヤレスイヤホン』レビュー