台湾空軍が半世紀以上にわたって使われてきたF-5戦闘機の運用を終了します。世界ではF-5シリーズをアップグレードして使い続ける国もありますが、パイロットがあまり乗りたがらない、という国もあります。

使い続けて51年 台湾のF-5ついに引退

2023年11月29日、台湾(中華民国)東部の台東県に所在する志航空軍基地空軍で、同空軍のF-5E/F「タイガーII」戦闘機が編隊飛行する様子が公開されました。半世紀近くに渡って台湾の防衛を担ってきたF-5E/F戦闘機が、まもなく引退します。

タイガーIIは、アメリカが資金と運用インフラに余裕がない同盟国・友好国向けに開発した戦闘機で、1972年に初飛行しています。

最大速度や搭載できる兵装の種類および量などは、F-5E/Fが初飛行した時点でアメリカ空軍の主力戦闘機であったF-4「ファントムII」には及びませんが、旧ソ連が同盟国・友好国に対して供与していたMiG-21戦闘機には十分対抗できる能力を備えていたことから、合計1339機が生産されベストセラー戦闘機となりました、

台湾空軍は1973年に単座型F-5Eの導入を決定。その後も6度にわたる追加調達を行い、F-5E 242機と複座型のF-5F 66機を導入しています。これら台湾空軍のF-5E/Fは、T-5練習機などを開発した台湾の航空機メーカーAIDC(漢翔航空工業)によるライセンス生産機です。当時の台湾総統・蒋介石氏の名前に由来する「中正」号として行われたF-5E/Fのライセンス生産は、台湾の航空産業を大きく発展させたと言われています。

ですが、近年は老朽化のため稼働率が低下し、また事故も頻発していたことから、台湾空軍は2023年11月をもって戦闘機としての運用を終了しました。残存している機体は練習機として使用されていたものの、こちらもT-5の配備が順調に進んでいることから、2024年第一四半期までに練習機としても運用終了となります。今回行われた編隊飛行は練習機の世代交代を台湾の人々に印象付けることなどを目的に行われました。

台湾以外では生き続けているF-5E/F

数か月以内に台湾空軍からは姿を消すF-5E/Fですが、いくつかの国では近代化改修を施して第一線での運用を続けています。

チリ空軍の近代化改修型「タイガーIII」は、多機能ディスプレイを使用するグラスコクピット化を施し、パイロットが操縦桿やスロットレバーから手を離さずに、レーダー操作や兵装の発射などを行える操縦装置「HOTAS(Hands On Throttle and Stick)」を導入したほか、機首部に2門装備している20mm機関砲のうち1門を撤去して、イスラエル製のEL/M-2032レーダーを搭載しています。

これによりタイガーIIIは、航空自衛隊F-15J/DJの前期生産型(Pre-MSIP機)にもない、アクティブ・レーダー誘導ミサイルの運用能力を獲得しました。発射後にミサイルを戦闘機からレーダー波で誘導する必要のない、いわゆる「撃ちっぱなし」ができる能力です。

ブラジル空軍のF-5EM/FMもタイガーIIIと同様に高性能なレーダーへの換装やグラスコクピット化、HOTASの導入、アクティブ・レーダー誘導ミサイルの運用能力が追加されているほか、レーザー誘導爆弾の運用能力も追加されています。

タイ空軍はタイガーIIIと同じくイスラエル企業の協力を得て近代化改修されたF-5E/FのF-5Tと、F-5Tにさらなる近代化改修を加えたF-5THFを運用しています。タイガーIIIと異なりアクティブ・レーダー誘導ミサイルの運用能力は備えていないものの、それ以外はタイガーIIIに準じた仕様となっています。

他方、F-5TTHは発射後に目標をロックオンする機能を備えたイスラエル製の短射程空対空ミサイルダービー」の運用能力やデータリンク機能が追加されており、タイ空軍は2030年代までF-5TH/THFを運用する方針を示しています。

お隣韓国では"もう嫌だ”!?

韓国空軍も2023年12月現在、F-5E/Fを運用している空軍の一つです。

同空軍が初期に導入したF-5E/Fはアメリカから輸入されたものですが、1981年から導入されたF-5E 48機とF-5F 20機は大韓航空の航空宇宙部門でライセンス生産されており、台湾と同様、ライセンス生産の経験は後の韓国航空産業の飛躍に大きく貢献したと言われています。

ただ、韓国空軍のF-5E/Fはヘッドアップディスプレイや慣性航法装置などの追加は行われたものの、データリンク機能は追加されていません。このため迎撃は地上管制官の音声指示によって行われており、データリンク機能を備えたF-15K戦闘機などとの共同作戦が困難なことから、第一線で使用するのも困難になっているとも言われています。

加えて、韓国空軍のF-5E/Fは2000年から2022年までに15機が墜落事故を起こしており、16名の搭乗員が命を落としています。

2022年1月12日付の韓国の新聞中央日報はF-5E/Fの墜落事故で殉職者が多い理由として、緊急時に脱出をサポートする射出装置状態が他の機種に比べて不十分だと言われていると報じています。

この記事では、「(韓国空軍は)淘汰されるべき機種(F-5E/F)を年限を延長しながら今も使用し続けている。命がけで乗らなくてはならないが、誰が好んで乗るだろうか」という韓国空軍のパイロット(匿名)の談話も紹介し、老朽化したF-5E/Fの運用に疑念を呈しています。

韓国空軍もこの状況を看過しているわけではなく、F-5E/Fは、開発が進められている国産戦闘機KF-21「ポラメ」の第一次生産分と交代して退役する予定となっています。

ただ、韓国の防衛事業庁はKF-21の事業妥当性評価を行っており、この評価ではKF-21事業の成功の不確実を理由に、空対空戦闘能力のみを備えた第一次生産分の生産数を40機から20機に削減すべきという暫定的結論が出されています。

この事業評価の結論には韓国国内に大きな反対論もあるようですし、F-5E/Fの現状を考えると、韓国空軍としてもKF-21の第一次生産分の削減は受け入れられない話なのではないかと筆者(竹内修:軍事ジャーナリスト)は思います。

台湾空軍のF-5F戦闘機(画像:中華民国空軍)。