サラリーマンは50代になると、そろそろ「役職定年」が心配になってきます。役職定年になれば、役職手当のみならず、基本給も賞与も軒並み減額となります。役職定年から定年退職までを無事に乗り切るために、いまから準備すべきことを見ていきましょう。FP資格も持つ公認会計士税理士の岸田康雄氏が解説します。

「私は今年50歳、役職定年が心配です」

生徒:アラフィフの私は今年50歳。勤務先には役職定年制度があります。ただでさえ大変なわが家の家計が心配…。ああ、なぜ役職定年なんてものがあるのでしょうか…。

先生:役職定年制度とは、管理職にある人が、ある一定年齢を超えるとその役職から外される制度で「管理職定年制度」とも呼ばれ、規模の大きな企業で導入されています。企業は60歳定年が義務化されていますから、多くの中高年社員を抱えることになります。役職者に高い給与を払い続けることが厳しくなり、役職を解いて雇用を継続できるようにしたのです。つまり、人件費削減が目的です。

生徒:人件費削減…。

先生:それだけではありません。若手社員にポストを与え、世代交代を進めることができます。役職定年によって強制的にポストに空きが出れば、若手が役職に就くことができ、組織の活性化や若手の育成を促進できます。

生徒:役職定年制度はどのような役職にある人が対象でしょう? ちなみに私は課長です。

先生:部長や次長、課長、支店長などの役職に就く、53歳から60歳の方々ですね。

生徒:やっぱり、私も該当するのですね…。役職定年を迎えたあとは、どのような職務につくのでしょう?

先生:元の役職と同レベルの専門職やキャリア職で迎えられたり、役職定年の前に異動したうえで、格下のライン職に就いたりするケースも見られます。

身軽になる、現場にも出られる…役職定年にもメリットあり

生徒:同じ仕事をして給料が下がるとか、格下のライン職とかツラすぎますね…。

先生:役職定年制度にもメリットはありますよ。役職に就いているときは、自身の努力や成績よりも、担当部署の成績が重視され、責任範囲も大きくなります。また、特別な技術や専門スキルよりも、全体の業務を見渡せる管理能力や判断力が必要です。ここで役職定年となれば、自身が得意とする業務、自分が好きな業務の知識をさらに学んで深めることで、キャリアプランを再構築することができます。

生徒:管理の仕事がなくなると、現場に出ることもできますね。

先生:役職の肩書がある以上、経営層からの要求や期待に応える必要があり、仕事に対するプレッシャーは大きくなります。きっと部下の指導で心身をすり減らしている方もいらっしゃるでしょう。また、中高年になると体力的に厳しいと感じる場面が増えてきます。役職定年になれば、社員の1人として自分のペースで働くことができ、家族との時間を増やすなど、ワークライフバランスの改善にもつながるでしょう。

生徒:話を聞くと、少し希望が出てきましたが…。でも、話は戻りますが、役職定年になると基本給が下がり、賞与が減り、役職手当はなくなるわけですよね?

先生:ええ、まあ。一般の事業会社では約20%の減少、大手金融機関では約50%の減少ですから、家計への影響は避けられませんね。住宅ローンや教育資金、老後資金などを抱えている場合は、マネープランを見直す必要があります。

収入が下がれば、もちろん将来の年金額にも影響あり

生徒:あのう…。公的年金への影響はどうでしょう?

先生:はい、あります。役職定年で給与や賞与が下がると、それに連動して厚生年金の受給額が減りますよ。厚生年金の支給額は、報酬額の平均値に一定の料率をかけて計算しますが、報酬額の平均値が下がることになるからです。

生徒:トホホ。給与が減ると、やる気を失ってしまいそうです…。

先生:出世や昇進の階段を上がってきた方にとっては、自分の肩書がなくなれば、やる気の低下につながりますよね。また、役職定年後も同じ部署に在籍する場合は、部下に命令する立場から、新しい役職者の命令に従う立場に変わるため苦労するでしょう。一方で、新しい部署に異動した場合には、これまでの経験や知識が役に立たず、若手社員に交じって学び直さなければなりません。なかなかのストレスかもですね。

生徒:あああーー!

定年前に準備しておくべき「3つのこと」

先生:大丈夫ですか?

生徒:…失礼しました。役職定年を迎えたら、定年退職の前までの数年間で何を準備しておくべきでしょうか?

先生:なによりも重要なことは、就業規則を調べてみましょう。

①定年退職後に再雇用制度があるのか、あれば何歳まで雇用されるのかを確認

②再雇用された場合の仕事内容や所属部署を確認

③常勤かパート勤務なのか勤務形態も確認

また、定年退職後に再雇用されたとしても、さらに報酬は減少することになります。仕事量が減少し、勤務時間を短縮して再雇用されるケースが多いためです。

生徒:そうなると、無理して同じ会社で働く必要はないかもしれません…。新たな活躍先を求めて転職を検討してもいいかも。

先生:老後資金が不足すると予想される場合、仕事のやりがいを求める場合などは、新たに転職先を探すのもひとつの選択肢です。転職するのであれば50代のうちに新しい仕事を見つけるべきでしょう。60代になるとハローワークやシルバー人材センターで探すことになります。

生徒:わかりました。これを機会に、いろいろ考えてみたいと思います。

岸田 康雄 公認会計士税理士/行政書士/宅地建物取引士中小企業診断士/1級ファイナンシャル・プランニング技能士/国際公認投資アナリスト(日本証券アナリスト協会認定)

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