1967年に創業した株式会社サンコー。「お客様の全身を採寸して体型に合わせるカスタムメイド専業」を謳うサーフィン用ウエットスーツメーカーだ。

使用目的やシーズンだけでなく、各選手独自のこだわりにきめ細やかに対応し、より自然な着心地と快適さを届けるという、真摯なモノ作りが自慢。これまで日本サーフィンリーグで多くのチャンピオンを輩出し、現在もオリンピック出場選手や世界選手権優勝者などが顧客リストに並ぶ。

会社の始まりをたどれば、創業者である佐藤光三氏が中学時代の親友とウエットスーツ作りを真鶴ではじめたことだ。その後60年代初頭に独立し、サンコーをレジャーダイビングが流行した際に設立した。

光三氏は工夫のある人で、不便を解消するための発想を形にすることが得意だった。
現在カッター会社やミシン業者によって量産され、世界中で使用されているローラカッターやウエット用ミシンの送りベルトも、実は彼のアイデアで実現したものだという。

1959年、創業者の佐藤光三氏は中学時代の親友、後藤道夫氏(俳優の坂東玉三郎の実兄)に誘われ、1955年に空気ボンベを背負うアクアラングダイビングを始めた。それは全く手探りの遊びで、米軍空軍の軍人に葉山で習ったことが始まり。後藤氏は根っからの凝り性で研究肌の方でした。ダイビングの技術、機材、ウエットスーツから水中カメラのハウジングに至るまで、必要なものやそれまでにない全く新しいものを発明して実験する海の遊びの天才だった。1959年、創業者の佐藤光三氏は中学時代の親友、後藤道夫氏(俳優の坂東玉三郎の実兄)に誘われ、1955年に空気ボンベを背負うアクアラングダイビングを始めた。それはまったく手探りの遊びで、米空軍の軍人に葉山で習ったことが始まり。ダイビングの技術、機材、ウエットスーツから水中カメラのハウジングに至るまで、必要なものやそれまでにないまったく新しいものを発明して実験する海の遊びの天才だった。

サンコーの最大の特徴は、保温性や動きやすさというウエットスーツに求められる基本機能に、異業種で使用されている特殊技術や日本が誇る最先端繊維などを積極的に取り入れ、世界をリードする性能を生み出していることである。

その集大成が、銀(AG)の熱反射とチタン(Titanium)の蓄熱という、異なる金属が持つ特性をウエットスーツに世界で初めて付与することに成功した「#AGT210」だ。

ウエットスーツを着る最大の目的は体温を保つこと、すなわち生命維持だ。そんなウエットスーツの性能=保温性を決めるのが「生地の厚さ」であり、保温性は厚さと比例する。

いわゆる「ミリ数」が大きければ大きいほど、暖かいウエットスーツであることを意味する。ウエットスーツの首や手首、あるいはファスナーからスーツ内部に侵入した海水が体温で温められ、ラバースポンジが断熱材の役割を果たし保温を果たすからだ。

しかも、本当に優れたウエットスーツは保温性の高さを維持しつつも、着用のストレスなく身体にフィットするものでなければならない。

「AGT210®︎」は理論上ラバースポンジの厚みを三割減らしても、その保温性が保たれる。つまり、従来5mm厚必要だったものが3.5mmに、3mm必要だったものが2.1mmになっても、同じ暖かさのウエットスーツとなるのだ。「AGT210」は理論上ラバースポンジの厚みを3割減らしても、その保温性が保たれる。つまり、従来5mm厚必要だったものが3.5mmに、3mm必要だったものが2.1mmになっても、同じ暖かさのウエットスーツとなるのだ。

最良のウエットスーツを作るための基本は、細かな条件を除けば、次の3点を極めることだという。

①全身に完全にフィットしたサイズであること 、②内部への水の侵入が最小限であること、③生地が軽く柔らかく暖かいこと。

熱を内側に反射するウエットスーツがあれば、魔法瓶のように体温が維持される。そう発想し、鈴寅(現:積水ナノコートテクノロジー株式会社)に、当時開発され始めた中空糸繊維に熱を反射するスパッタリングのテストをお願いした。

しかし現実は厳しく、目的としていた「熱を効率良く反射する銀(AG)のコーティング」は、銀の性質上、空気と接触した途端に酸化し、期待した機能がどうしても半減してしまい、一工程でのスパッタリング加工では実現不能なことがわかった。

やむなく、当初のスパッタリングジャージはステンレスを主流とし、2種類の金属の加工については更なる研究を要することとなった。

積水ナノコートテクノロジー株式会社 積水ナノコートテクノロジー株式会社 資料

結果的にサンコーは開発に20年以上も要した末、摩擦に強く、繊維の柔軟性を損なわない金属化加工に成功したのである。しかし、ようやく実現した魔法の繊維をウエットスーツへ応用するには、困難を極めた。

そうして、コスト低減や加工速度アップといった難題をクリアするためにさまざまな試行錯誤を繰り返している中、ついに理想の繊維に出合う。帝人フロンティアの「高中空構造エアロカプセル」だ。

2022年に量産化の目処が立ち、翌23年正式に銀(AG)とチタンTitanium)の金属特性を併せ持つ「AGT210」を2023年モデルとして発売に結びついたのだ。

株式会社サンコー資料 株式会社サンコー資料

この「AGT210」は理論上ラバースポンジの厚みを3割減らしても、その保温性を確実にキープする。つまり、従来5mm厚必要だったものが3.5mmに、3mm必要だったものが2.1mmになっても、同じ暖かさのウエットスーツとなる。これはウエットスーツを着たことがある人なら誰にでもわかる、革命的な進歩と言える。

そんな夢のウエットスーツの製造には、20年30年と経験を積んだ熟練の職人技が必要だ。工場では、客のサイズデータから、体型を具現化するパタンナーや、熟練の貼り手、送りベルトの厚みと速度を完全にコントロールする繊細な技術を持った縫い子たちが、世界最高レベルのカスタムウエットスーツを生み出している。

サンコーが理想とするウエットスーツ作りは、どんなにAIが進みDX化された工場でも、最終的には優れた職人の手がなければできない。そして、その職人自身が海を愛し、海とともに暮らすことを誇りにしていく姿勢を持っていることも大切なのだ。

これからもサンコーは海を愛する気持ちとともに、素晴らしいウエットスーツを生み出し続けてくれることだろう。