11月15~19日の期間、第25回中国ハイテクフェア(中国国際高新技術成果交易会、略称:高交会)深センで開催された。

深センには2つの巨大なコンベンションセンター、深セン福田会展中心と深セン宝安国際会展中心があるが、両会場合計で4000以上の出展社が集まる、深圳では最大規模のテックイベントである。筆者は15日に福田会場を、16日に宝安会場を取材した。

深圳といえばドローンだ。ハイテクフェアにも多くのドローン企業が出展している。会場で見た様々なドローンをレポートする。

自撮り特化ドローンのHover X1

深圳のZERO ZERO ROBOTICS社は、自撮りに特化したドローンであるHover X1シリーズを展示。

Hover X1はパスポートサイズの折りたたみドローンで、1.差し出した手のひらから飛行開始→2.「顔認識をして離れ、記念写真」や「本人のまわりをぐるっと回って撮影」などのアクション→3.再び手のひらに戻って着陸 という一連の動作をコントローラなしで行う。

さらに最近のアップデートでは、ドローンが持ち主をフォローしてビデオ撮影する機能に、スマホで録音した音声を組み合わせる「一人実況中継」が可能になった。

こうしたユニークな方向のドローンが出てくる大きな理由は、圧倒的な存在感を示すDJIの存在だ。空撮などの一般的な、すでにニーズがある用途で使われる市場は、DJIの製品ラインナップが圧倒的である。

製品のクオリティ、頻繁な新機能追加、幅広いラインナップ、毎年魅力的な新製品の投入など、質・量・革新性ともに一線を画しており、新興企業が勝負していくのは難しい。

そのため新しいドローン会社は、DJIがまだ手を出していない新しい分野に向けて開発していくことになる。地方自治体と一緒になった警察や軍事用、大型輸送用、固定翼、小型のトイドローンなどだ。

ただ、コンシューマ向けに比べるとマーケットは小さくなる。Hover X1の「自撮り特化」は、いい分野を見つけたといえるだろう。

DJIのいない場所(固定翼、乗用など)を目指すドローン産業

なかでも複数社が参入しているホットな分野は、固定翼ドローンだ。数時間単位で飛行でき、広範囲の空撮、地図作成、農業などの調査に向く。成都のJOUAV社は垂直離陸ができるVTOL型で、さらに固定翼を備えたドローンを展示。ケース(上の写真)に収納でき、持ち運んで広範囲の空撮が行える。

また同社では、ガソリンエンジンとバッテリーを両用することでさらに長時間飛行できるモデルも販売している。

ドローンへのサービス業、部品業も盛り上がっている。深圳市のXuavは農薬散布、ヘリコプターなどの操縦士トレーニング、テストなどを行う企業。

同じく深圳のSKYEAGLE社は、ドローン用のパラシュートを開発・販売している。3kgのパラシュートを搭載することで、100kgほどの墜落をカバーできるという。デリバリー大手の美団が深センで実証実験中のドローン配送などで使われているドローンは本体が10kg近く大型で、パラシュートを備えているものが多い。

夢いっぱいの「空飛ぶクルマ」乗用ドローンたち。実用化はまだ先か

注目が集まりやすく、DJIが参入していない分野というと、日本でも注目が集まる「空飛ぶクルマ」こと乗用ドローンだ。

「空飛ぶクルマ」という単語については、「どこがクルマなんだ、ヘリコプターか何かだろう」という指摘も多いが、中国EV大手で「中国のテスラ」とも呼ばれるXpeng社はそのものズバリの「空飛ぶクルマ」モックアップを展示。

近未来的なEVスポーツカーのルーフが変形し、四方にローターが飛び出て、走行形態から飛行形態に変形する構造の、まさに空飛ぶクルマだ。

展示されていたのは動作しないモックアップで、同時に展示されていた映像さえすべてCGアニメーションの、実用化ははるか先と思われるコンセプト段階だが、中国のスタートアップらしい夢のある話とも、大言壮語ともいえる。

中国では、こういう大きな夢を語って投資家のお金を集める行為を「吸牛」という。本来は悪い意味の言葉だが、「もっと吸牛できるやつをチームに入れよう」など、いい意味で使われることもある。こういう大きな吸牛も、彼らが「中国のテスラ」と呼ばれる一因だろう。

広州のEHang社は乗用ドローンの最大手だ。ハイテクフェアでも乗用ドローンを展示している。米NASDAQに上場しているEHangの乗用ドローンは、中国で無人航空機の許可証を取得したことで話題になった。

もっとも、そのEHangですら乗用ドローン分野はまだ実際のサービスには結びついておらず、上場後も赤字を続けている。

さらに「キャンセルされた受注もIR資料に掲載して過大に報告している」という報道が出るなど課題は山積みだが、Xpengの空飛ぶクルマに比べると、現時点で出荷できているだけ、現実味のある展示となっている。


「夢いっぱい」という点でこのうえないのは、深センSMD社のUFO型ドローンだ。同社は固定翼でガソリン・電気混合の大型ドローンを手掛ける会社で、10年以上の歴史がある。

一方このUFO型ドローンは、コックピットに何もない中操縦レバーが一つだけ飛び出しているなど、まだ“飛ぶ”とは思いづらいものだ。

同社サイトでは飛行距離6km、飛行時間15分などの具体的なスペックが語られている。

UFO型にした理由は「通常のドローンに近い円形にカバーを被せたもので空力的にもよく、なによりSFっぽくて目立つので、都市の空中観光などで人々の目を集めることができる」などの説明が語られ、実用新案を取得したことも触れられているが、具体的に開発のどのような段階なのかは記載がない。

DJIも輸送型ドローンを展示

DJIも、10月に発表したばかりの輸送型ドローンFlyCartを展示。

ドローン自体の重量が65kg、30kgの荷物を積んで16kmの距離を飛行できる(数値はそれぞれデュアルバッテリの場合)巨大ドローンで、パラシュートも搭載している。

長距離飛行のために、本体が前傾することで効率を向上している。

深圳のドローン活用を進める業界団体

ハイテクフェアには自治体や業界団体も出展している。

深圳市航空協会のなかに、ドローンなどの低空域(飛行機が飛ぶよりも低い高度、おおむね1000m以下)を扱う「低空委員会」があり、会員にはDJIをはじめ、今回紹介したような多くのドローンメーカーや、ドローンを使ったサービスを行う企業が並ぶ。

この委員会は、輸送用や乗用など、大きなドローンが飛行する際の飛行区域や、交通管理などのアイデアを出し、具体的なソリューションを決めていく役割を担っている。

新しい用途の風変わりなサービスが深圳から多く生まれるのは、企業同士が連携して規制のあり方を検討している、こうした制度面の活動も見逃せない。

(文・高須正和