国民のどんな願いもかなうという魔法の王国ロサス。少女アーシャは、王国に隠された恐ろしい事実を知り、マグニフィコ王に挑むが…。ウォルト・ディズニー・カンパニー創立100周年記念の最新アニメーション映画『ウィッシュ』が12月15日から全国公開される。本作の監督を務めたクリス・バックとファウン・ヴィーラスンソーンに話を聞いた。




-ディズニー100周年記念映画ということですが、プレッシャーはありましたか、それとも楽しんで作りましたか。

クリス 最初は、やはりプレッシャーを感じました(笑)。ただ、コンセプトが決まってからは、楽しさの方が勝っていった感じです。なぜかというと、ディズニー映画では、多くの場合、キャラクターが星に何かを願うだけです。けれども、今回は主人公が願うと、それが実際に地上に落ちてくるんです。その設定が決まってからは、いろんなことができるねという話になって、楽しさが増しました。

-今回は、例えば、本が開いて物語として始まるとか、森の中に家があるなど、過去のディズニー映画に関するイースターエッグ(隠された秘密のメッセージやユーモア)が、たくさんちりばめられているんですよね。

クリス 実は100以上あります(笑)。

ファウン もちろんたくさんありますが、私たちにとってまず大切だったのは、オリジナルのキャラクターや曲、そして物語を作ることでした。もちろん、過去のものと似たところはありますが、逆にそうしたものをひっくり返していくことにしました。例えば、森の中の小屋は通常は怖いものだったりしますが、私たちの森は楽しい生き物たちがたくさんいて、色彩が豊かで、希望にあふれて、という形にしました。製作が進行していくと、たくさんのアーティストが私たちのところに来て助言をしてくれたので、その中からすてきだなと思ったものを取り入れました。ディズニーファンである私たちが、ディズニーファンである観客向けたラブレターとして、物語の邪魔をしない形で入れていった結果です。

-この映画のテーマは、タイトル通り、「ウィッシュ=願い」だと思いますが、願いを具現化するというストーリーのアイデアはどこから得たのでしょうか。

クリス 今回、100周年記念ということでやったことの一つが、これまでの作品のスチールを一つのボードに並べてみることでした。それを見た時に気付いたのは、多くの作品でキャラクターが何かを願っているということでした。そこから、「願い」にテーマを絞って発展させていきました。

-スターという、地上に落ちてきた願い星の存在が、この映画のタイトルを象徴していると思いますが、それが『ピノキオ』(40)の主題歌の「星に願いを」とも通じますね。今回はどうして「星に願いを」を劇中で使おうと思ったのでしょうか。

クリス 「星に願いを」を使ったのは、ウォルト・ディズニーへのオマージュというふうにとっていただいてもいいと思います。「星に願いを」を歌うサビーノ(主人公アーシャの祖父)の願いは、たくさんの世代にインスピレーションを与えたいというものでした。ウォルトは実際にそれを成し遂げたという思いが反映されています。

-今回はお二人の共同監督でしたが、役割分担はあったのでしょうか。また、ファウンさんはタイ出身ですが、アジア的なものを取り入れたところはありましたか。

ファウン 全てにおいて役割分担的なことはしていません。よかったことは、アイデアが浮かんだ時に、すぐに「どう?」って聞けて、一緒に解決していける相手がいることでした。しかも、クリスは100年の半分ぐらいはスタジオにいる人なので(笑)、最高のパートナーでした。私がタイ出身ということで、アニメーションの仕事をしたいと思った時に、「無理だ。不可能だ。そんなキャリアはない」と言われました。なので、アーシャと同じように、主人公が勇気を持って、決して歩みを止めない物語を、いつか皆さんと分かち合いたいと思っていました。それが今回「ウィッシュ」という形でつながったのだと思います。

-アーシャ役のアリアナ・デボーズと、王の声をやったクリス・パイン。この2人についてはどう思いましたか。

ファウン アリアナについては、かなり初期の段階からキャスティングをしました。とても情熱的で、自分の夢を追いかける勢いを持っていました。同時に、喜びと若さと、笑顔にもあふれていました。夢を追う決然とした強さがありながら、決して楽しむことを忘れないという彼女の姿に心を打たれたので、アーシャにもそうした資質が反映できればと考えました。

クリス クリスパインは、どの作品でもチャーミングですが、この映画でもマグニフィコ王チャーミングさを見事に表現してくれました。それと同時に、闇落ちしていく様子も見事でした。彼はもともと素晴らしい役者なので、これは驚きではなかったのですが、歌のうまさには驚きました。面白いのは、バーブラ・ストライサンドとデュエットをしている動画がYouTubeにあるらしいので、よかったらぜひ見てみてください(笑)。

-ミュージカルの要素でいえば、『アナと雪の女王』(13)の「レット・イット・ゴー~ありのままで~」のような曲が重要な役割を果たすと思いますが、今回はいかがでしたか。

クリス 曲は、人の心に響くものであってほしいと毎回思って作っています。だだ、大事なのは、ストーリーとちゃんとつながっていること。それが第一に重要なことです。今回、ジュリア(・マイケルズ)が最初に書き下ろしてくれたのが「ウィッシュ~この願い~」でした。それが、この物語が持つエモーショナルな部分を作っていく中で、大きな役割を果たしてくれました。作品全体から、レガシーや歴史と現代性の両方を感じさせるものにしたいと思っていましたが、彼女は現代の人でありながら、ディズニーの名作を見て、音楽を聴いて育って、それがDNAに入っているので、その両方が表現されたこの曲はとてもいいと思いました。

-この映画は、色彩がとても豊かでしたが、色遣いや背景でこだわった点があれば教えてください。

クリス 背景という点では、今回は『ピノキオ』や『白雪姫』(37)のような水彩画のタッチを使ったことが、ディズニーレガシーに対するオマージュでもありました。ただ、現代性を考えた時に、今のCGのテクノロジーならば、昔はできなかった、背景に入り込むことができると思いました。まるで、観客が絵本の中に足を踏み入れるような感覚。そうした美しいイラストレーションの中に没入できるところが、皆さんに早くお見せしたいところの一つです。

-最後に、日本の観客へのメッセージをお願いします。

クリス まさに、ディズニーファンのへのラブレターとして製作した作品です。100年の間、応援してくれたディズニーのファンに、ディズニーのファンである僕らからの愛をお届けする作品なので、ぜひ見てください。

ファウン もし、自分が追っている夢を忘れてしまった方がいらっしゃったら、この作品から、勇気と希望と、そして喜びを感じ取っていただいて、それをインスピレーションにして夢を再び追っていただけたらと思います。

(取材・文・写真/田中雄二


(左から)ファウン・ヴィーラスンソーン監督とクリス・バック監督 (C)エンタメOVO