会社の経営者には、「退職金」を活用して節税する方法があります。月々の給料の額を抑え、老後資金のために退職金として積み立てる方が、実質的な手取りが多くなります。その内容と、得られる税制上のメリット等について、中小企業の財務・税務に詳しい税理士・関根俊輔氏の著書『改訂6版 個人事業と株式会社のメリット・デメリットがぜんぶわかる本』(新星出版社)から一部抜粋して紹介します。

退職金を「経費」にできるのは「会社」だからこそ

会社ならではの節税策として、毎月の給料額を減らして、勇退するときに「退職金」として払う方法があります。税金や社会保険料が安く済みます。後述するように、個人事業主の場合は退職金の支給自体が認められません。あくまでも、会社のみに認められています。

会社をつくると、退職金は個人とは別の人格、すなわち法人格から支給されることになります。そのため、常識はずれな高い金額でないかぎり、退職金は会社の経費として認められるのです。

「退職金っていうけれど、この時代に、そんなお金をどうやって残せばいいの?」というのが、独立した人たちに共通する思いでしょう。そこで会社にした場合、退職金を利用したほうが有利と思える節税方法を紹介しましょう。

カンタンにいえば「本当は、今すぐこれだけの給料を支払えるけれども、その一部は支払わずに積み立てておいて、退職金として後払いをする」というやり方です。

つまり、毎月の給料を減らしてでも、退職金として支払ったほうが、税金や社会保険料が安くなるのです。

節税効果が高い退職所得の計算方法

給料に「給与所得控除」があるように、退職金にも「退職所得控除」という、収入から差し引ける特別な控除が認められています([図表2]参照)。

まず退職所得控除額は、80万円未満なら全額を控除できます。つまり、税金は一銭もかかりません。また、勤続年数が20年以下の場合は、40万円に勤続年数を掛けた金額を控除額として、退職金から差し引くことができます。

それに加えて、20年を超えると、超えた年数に70万円を掛けた金額を控除額として退職金から差し引けます。

さらに、退職所得として課税されるのは、退職金から退職所得控除を差し引いた金額のわずか半分だけです。もちろん社会保険料もかかりませんから、明らかに給与所得よりも有利といえます。

以下、勤続20年で、「給与を毎年600万円受け取った場合」と、「給与を毎年560万円受け取り40万円を退職金として積み立てた場合」とを比較してみましょう([図表3]参照)。

【勤続20年、平均年収600万円の場合】

・給料総額1億2,000万円(600 万円×20 年)⇒所得税約849万円

【勤続20年、平均年収560万円、年40万円を退職金として積み立てた場合】

・給料1億1,200万円(560 万円×20 年)⇒所得税約721万円

・退職金800万円(40万円×20 年)⇒所得税0円

受け取る総額は同じであるにもかかわらず、後者のほうが、所得税だけで128万円の節税になります。ちなみに、本件の場合、退職金800万円には住民税も社会保険料も「0円」です。加えて、退職金を生命保険として積み立てれば、さらに、保険料の経費分、会社は節税可能です。

退職金を「家族に分散」するとさらに節税できる

経費として認められるのは、社長本人だけではありません。家族従業員への支給も認められています。家族従業員にも退職金を分散すれば、社長1人だけで全額受け取るよりも、累進税率の適用が抑えられ、節税につながることがあります。それに加えて、先ほど説明した退職所得の計算が適用されるので、税額が安く算出されます。これは、会社にした場合の大きなメリットといえます。

事業が軌道に乗ってくると、順調に利益が増えて、いろいろな節税策を施します。その間、「経営セーフティ共済(次の項目参照)」や各種の生命保険などを利用すれば、潤沢なお金が外部に残ります。

しかし、問題なのはそれを解約する時期です。その際には、解約金を受け取る会社側は臨時収入となるので、利益が増えてしまい、余分な法人税が発生するおそれが出てきます。

そこで、会社をつくった場合に、事前に計画しておきたいのが、家族従業員の退職時期です。給料と同じで1人ひとりに与えられる「退職所得控除」という権利を十分に活用しましょう。

それには、事前に生命保険の満期やその解約時期を、退職時期にあわせておくことをオススメします。そうすれば、解約金という会社の「収益」を、退職金という会社の「経費」で相殺できて、必要以上に高い税金を支払わなくて済みます。  

「個人事業の退職金」はNG

ここまで説明してきたように、退職金は節税メリットが大きいのですが、じつはこの考え方は個人事業に対しては認められていません。「個人事業主が、個人事業主自身に対して支払う退職金」という考え方自体がありえないからです。

また、長年ともに頑張って働いてきた家族専従者への退職金も、経費として認められていません。

個人事業主にとって、仕事を辞めたあとに生活費をどうやりくりするかは大きな問題です。個人事業主のほとんどは国民年金のみに加入していますが、現状では国民年金を満額支払われても、年間80万円程度の額しか受け取れません。

また、老後のために資金を備える手段を生命保険に頼ろうとしても、支払った保険料は事業の経費として認められません。しかも、認められている所得に対する生命保険料控除は最高でも12万円でしかありません。

今のやりくりも大切ですが、将来の生活資金をどうするかは、もっと切実な問題です。そこで、「小規模企業共済」(掛金全額を経費算入できる)や「iDeCo」(掛金全額について所得控除を受けられる)といった、税負担を抑えながら効率よく老後資金を積み立てられる制度の利用が考えられます。

関根 俊輔

税理士法人ゼニックス・コンサルティング

税理士

(※写真はイメージです/PIXTA)