2019年全国家計構造調査によると、50代の独身男性の平均貯蓄額は1,477万円です。そのようななか、独身サラリーマンであるAさんは、55歳で驚きの貯蓄額を達成しました。一体どれほどの額をどのように資産形成したのでしょうか? 本記事では、1級ファイナンシャル・プランニング技能士の川淵ゆかり氏がAさんの事例とともに、賢い資産の増やし方について解説します。

単身50代男性の収入と支出

国税庁が発表している民間給与実態統計調査結果(令和2年)によると、50代の平均給与額は516万円となっています。また、厚生労働省の「2022年賃金構造基本統計調査」によると、50~54歳までの男性の平均賃金は41万900円、55~59歳では41万6,500円となっています。

支出のほうをみていくと、総務省「2019年全国家計構造調査(旧全国消費実態調査)」によると、東京都の50代単身者の1ヵ月の平均支出は22万5,507円です。

なお、住まいは、総務省統計局「家計調査報告書」(単身者)2022年(令和4年)によると、単身世帯35~59歳の男性の持ち家率は41.6%、家賃等を支払っている世帯の割合は51.5%となっています。

東京などの都会ではどうしても支出の中で家賃のウエイトが大きくなります。東京の賃貸マンションの家賃相場は年々上昇傾向で、2022年9月までのデータでは、ワンルームの家賃平均は7万4,614円、1LDK~2DKの家賃平均は11万317円となっています(公益財団法人不動産流通推進センター「2023不動産統計集」より)。

50代半ば~60代にかけては、役職定年などによる収入減が生活に影響を与えるケースも出てきますので、賃貸の方は家賃の負担や老後の住まいをどうするか、持ち家で住宅ローンを抱えている方は返済に問題は出ないか、といったマネープランも検討する必要があります。

まとまった資産のなかったAさんの資産形成法

Aさんは都内の企業に勤める55歳の独身男性サラリーマンです。若いころは結婚を考えたこともありましたが、大学時代からの飲み仲間である友人のうち2人が離婚したのを間近で見てきたこともあり、とうとう結婚に踏み出せず50代も半ばになってしまいました。

そんなAさんでしたが若いころから地道に資産作りを行ってきて、現在は4,000万円を超える金融資産を持っています。50代の独身男性の平均貯蓄額が1,477万円(2019年全国家計構造調査より)といわれるなか、実に3倍の金額です。

学生時代にアルバイトをしたことはあるものの、特にまとまったお金を持つことなく社会人になったAさんは、毎月のお給料のなかからコツコツと積み立てをするところから始めました。

自宅から通勤し、特に当時Aさんの同期が夢中だった車などにも興味のなかったことから、「結婚資金のため」という理由から毎月5万円で積み立てを始めました。大学を卒業しAさんが社会人になった1990年ごろはまだ金利も高いときで、定期預金(1年)の金利なら5.57%、生命保険(個人保険)の予定利率も約6%といった時代です。銀行や保険会社を利用するだけで、放っておけば増えていく、そんな時代でした。

しかし、金利もだんだんと下がっていき、投資に興味を持ったAさんは、ここでも積み立てを中心に分散投資で増やしつづけました。

「学生時代、叔父さんが失敗しているのを見たことがあるので投資には結構慎重です。まとまったお金を一度に入れるのはどうも向いていないので、インデックスファンド※1の積み立てで増やしていきましたが、これが『ドルコスト平均法※2』という手法だとあとから知りました。いまも資産形成は積み立て中心です。

ボーナスなんかでときどき買っていたのは金貨で、これはデザインが好きで投資というより趣味みたいなものだったのですが、2000年代に入って以降、金価格が値上がりしてからは投資としても金を買うようになりました。これも結構よかったみたいです」

Aさんは、まさに「長期・分散・積立」の成功例といえるでしょう。

※1 インデックスファンド:株価指数などの指標に連動した運用を目指す投資信託。ベンチマークとなるインデックスには、日経平均株価ダウ平均株価などの株価指数の他に債券指数、REIT(不動産投資信託)指数等があり、信託報酬や手数料などのコストも安いため、初心者に向いている。

※2 ドルコスト平均法:購入のタイミングを分散させることで「高いときは少なく、安いときは多く買う」ことになり、平均購入価格が低く抑えられて価格変動リスクを低減できる。

Aさんが叔父の失敗から得た教訓

Aさんが分散投資に重点をおいて増やしつづけたのは、若いころにAさんの叔父さんが、政府が売り出したある株を購入して大失敗したことを目の当たりにしたことが原因です。その株とは「NTT株」。

通信の自由化を背景に民営化したNTTは、1987年2月に政府が保有していた195万株が1株約120万円で売り出され、「政府が売り出す株だから絶対に損をするわけはないだろう」と、個人投資家達をはじめ、それまで株を買ったことのない人達までがこぞって購入をしました。

わずか2ヵ月後の1987年4月には318万円まで上がり続けましたが、同年10月のブラックマンデーで米国株が急落したことやその後のバブル崩壊もあり、1992年には50万円台まで下がってしまった、という経緯があります。

当時はまだ学生だったAさんでしたが、分散投資の重要性をこういった失敗談を持つ叔父さんから学んだ、といいます。

「投資の神様」に学ぶ資産の増やし方

さて、日経平均株価が約33年ぶりの高値を付け、株式投資に関心を持つ人や保有株式の買い増しを考える人が増えているようです。

資産形成にとって大事なのは「目先の相場変動に左右されることなく将来的に成長が期待できる銘柄を保有し続けること」とよくいわれますが、著名な投資家2人の手法から資産の増やし方を学んでみましょう。

投資をしたことのある人なら多くの方が知っている「投資の神様」といわれるウォーレン・バフェット氏とピーターリンチ氏。この2人はどんな方法で資産作りをしたのかを見てみましょう。

ウォーレン・バフェット氏は、アメリカの投資会社バークシャー・ハザウェイで会長兼CEOを務めています。株の運用で約3,281億ドルの富を築いたといわれる同氏は、まさに歴史に名を残す投資家といっていいでしょう。

1962年、バフェット氏は、当初綿紡績事業として創立されたハサウェイ製造会社を「実際の企業価値よりも安値」と確信し株を買い始めました。いわゆる「バリュー投資」の手法であり、さらに取得した株を長期に保有するのがバフェット流です。

バークシャーの保有株式のなかには、カード大手の米アメリカン・エキスプレスアメックス)がありますが、こちらは1964年に購入、13億ドルの投資額は250億ドルまで上昇しています(上昇率19.4倍)。また、コーラの愛飲家としても有名で米コカ・コーラ1988年に購入、こちらも13億ドルの投資額は248億ドルまで上昇しています(上昇率19.1倍)。(2023年3月末時点)

アメックスに関しては実に詐欺事件(サラダオイル事件)に巻き込まれた時期での投資でしたが、将来性を信じ、このとき暴落した株価は割安と判断してアメックスの株式を大量に取得したことが大きな利益につながりました。

このようにバフェット氏は、単に割安な株を購入するのではなく、「将来の成長」に対する割安さを重視した「グロース投資」の手法も採用しています。

もう1人の有名な「投資の神様」はピーターリンチ氏です。世界最大級の投資信託グループ企業であるフィデリティ・インベストメンツのファンドマネージャーで、1977年に運用資産1,800万ドルのマゼランファンドを13年間で140億ドルにまで増加させ(年間平均リターン29.2%)、世界最高の投資信託ファンドにしたという、驚くような実績で有名です。

リンチ氏の「自分が知っているものに投資しろ」という現代の個人投資家の間で有名な名言がありますが、「実際に食べたり飲んだりして美味しかった!」というタコスチェーンやドーナツの企業の株など、徹底的な企業分析により長期保有に値すると判断した企業の株を持ち続ける、といった手法で大きな利益を上げています。

「テンバガー」(10倍株)という言葉を作り出したのもリンチ氏です。企業の株式を割安なタイミングで購入し、長期で保有することで大きく増やす重要性を説いています。

2人ともコーラやドーナツなど身近で好きなものに将来性を感じ、企業分析により割安株を取得したあとは長期保有で大きく増やす、といった手法はよく似ていますね。

食料品や光熱費の値上げが家計を直撃していますが、2022年は25,000品目だった食料品の値上げも2023年には3万5,000品目を超えそうです。

人口減少による人手不足からの値上げも続きそうで、50代を過ぎた方には老後の生活に不安を感じる方も多いでしょう。都会でも一人暮らしの高齢者が急増するといわれるなか、住まいを含めて収入と支出のバランスや資産運用の方法について見直してみてください。

川淵 ゆかり(川淵ゆかり事務所代表、1級ファイナンシャル・プランニング技能士

国立大学行政事務(国家公務員)後にシステムエンジニアとして、物流・会計・都市銀行などのシステム開発を担当。その後FPとして独立し、ライフプランやマネープランのセミナーのほか、日商簿記1級、CFP、情報処理技術者試験の合格経験を活かして、企業や大学での資格講座・短期大学専門学校での非常勤講師としても勤める。

(※画像はイメージです/PIXTA)