気候変動が健康に及ぼす影響に関する啓発活動を行う、「医師たちの気候変動啓発プロジェクト」では、全国の20-40代男女合計1,200人に対し、2023年の“最も暑い夏”をふまえた気候変動と健康被害の意識調査を行いました。

2023年の夏は、国連のグテーレス事務総長が「地球沸騰化時代の到来」と警告した、世界的な酷暑となりました。1~10月の世界平均気温が1940年からの観測史上、過去最高となり、WHOは、2023年は記録上最も暑い年となるであろうと発表*1しました。多くの科学者が警鐘を鳴らしてきた気候変動が地球全体の災害として世界中の人々の目前に現れました。6~8月の平均気温が1898年の統計開始以降、最も暑い夏となった*2日本も例外ではありません。

「医師たちの気候変動啓発プロジェクト」は、日本国内の有志の現役医師や医療関係者などによる、気候変動による健康被害に関する啓発プロジェクトです。米国疾病管理予防センター(CDC)によると、気候変動が人々の健康へ与える影響として熱中症のみならず、喘息やアレルギーなどの呼吸器系疾患や、あるいは蚊やマダニなど媒介生物による感染症、アレルゲンの増加、そしてメンタルヘルスへの影響などを挙げています。当プロジェクトは気候変動による健康への影響について日本でも多くの人に理解していただくことを目的として発足しました。

この1898年以降“最も暑い夏”*2を終えた現時点での日本の人々の意識を確認し、気候変動に起因する健康被害の啓発につなげるために行われた本調査では、7割以上が「地球沸騰化時代の到来」を実感し、子育て中の男女約6割が今年の夏の暑さが「子どもの健康を損なう」と感じたと回答しています。また、気候変動が様々な健康に影響すると知った場合、恐ろしいと思う人は8割を超える一方で、気候変動が「非常に影響している」ことについては、トップとなる「農作物への影響」(52.6%)と比較し「健康への影響」は33.6%にとどまりました。

■調査結果サマリー

1. 今年の夏「地球沸騰化時代の到来」を7割以上が実感

2. 子どものいる男女の6割が今年の暑さで「子どもの健康を損なう」と感じた

3. 気候変動が「非常に影響している」こととして「健康」を挙げた人は3割強にとどまっている

本調査の結果より、当プロジェクトは気候変動による健康被害のさらなる啓発が必要であることを確認しました。気候変動が、私たち、そして未来を担う子どもたちの健康に影響を及ぼすことを認識し、啓発してまいります。

*1: https://wmo.int/news/media-centre/2023-shatters-climate-records-major-impacts

*2: https://www.jma.go.jp/jma/press/2309/01b/tenko230608.html

〈調査結果〉

§1:2023年の夏の暑さについて

1. 2023年の夏の暑さを異常と捉えている人は81.3%で【Q1】、71.1%が「地球沸騰化時代の到来」を実感【Q2】

2023年の夏は、日本各地で最高気温30℃以上の真夏日が過去最長を記録、さらに35℃以上の猛暑日も過去最多を更新したこともあり、夏の暑さを異常と捉えている人は81.3%にものぼりました。

さらに、2023年7月の国連グテーレス事務総長の「地球沸騰化時代が到来した」という発言について、71.1%がその通りだと思うと回答しています。

Q1:今年の夏の気象はどう感じましたか。(SA)

Q1

Q1

Q2:国連のグテーレス事務総長は「地球温暖化の時代は終わり、“地球沸騰化”の時代が到来した」と警告しました。「地球沸騰化時代が到来した」といわれ、あなたはどのように思いますか。(SA)

Q2

Q2

2. 2023年の夏の暑さの原因について73.7%が気候変動によるものだと考え【Q3】、次世代までこの異常気象が続くと思う人は67.3%【Q4】

2023年の夏の暑さの要因について、「気候変動」による影響であると考えている人は73.7%にのぼり、さらに「2023年の夏の暑さが異常だった」と回答している人のうち、この異常な気象が「次世代までずっと続いていくと思う」と回答した人が67.3%、また「今後10-20年続いていく」「5-10年は続いていく」と合わせると、合計9割以上の人が2-3年の短期的なものではないと考えていることが分かりました。

Q3:2023年の夏の暑さが、気候変動によるものだと思いますか。(SA)

Q3

Q3

Q4:2024年以降も、このような異常な気象は続いていくと思いますか。(2023年の夏が、異常だと感じた人N=975人に聴取。SA)

Q4

Q4

§2:気候変動と健康について

1. 子育て中の男女57.6%が「今年の暑さで子どもの健康を損なう危険性を感じた」と回答【Q5】

中学生以下の子どものいる男女のうち、57.6%が「今年の夏の暑さによって子どもの健康を損なう危険性を感じた」と回答。子どもの健康を損なう危険性を感じなかったと回答した19.9%の約3倍が「危機感を感じた」と回答していることになります。

Q5:今年の暑さによって、あなたの子どもの健康を損なう危険性を感じましたか。

(中学生以下の子どものいる人N=600に聴取。SA)

Q5

Q5

2. 気候変動が様々な健康に影響すると知った場合、8割を超える人が「恐ろしいと思う」と回答【Q6】

米国疾病管理予防センター(CDC)は、気候変動が人々の健康へ与える影響として事象ごとに具体的な健康被害をまとめています(表1)。猛暑による熱中症や脱水症状のほかにも異常気象がメンタルヘルスに影響することや媒介生物の生態変化による感染症などを知ることによって、81.3%が「恐ろしいと思う」と回答しました。

Q6:表1の気候変動による様々な健康への影響を見て、どう思いましたか。(SA)

Q6

Q6

3. 気候変動が「非常に影響している」こととして、「健康」をあげた人は33.6%にとどまる【Q7】

気候変動がどのようなことに影響していると思うかについて「非常に影響すると思う」の回答で比較したところ、農作物への影響(52.6%)、気温上昇(52.2%)、生態系への影響(47.6%)、海面水位の上昇(47.2%)などが多く挙げられる一方で、「自身の健康に対する影響」と回答した人は33.6%にとどまっており、気候変動が健康に影響していることについての認知・理解が低いことがわかりました。

Q7:気候変動(地球温暖化)は、次のことに対して、どの程度影響を与えると思いますか。(SAMT)

Q7

Q7

§3:気候変動のこれからについて

1. 気候変動に対して興味・関心がある人は約5割。物価・景気対策といった生活に直結するテーマより関心度が低い。【Q8】

世の中のさまざまな課題に関して、最も関心が高いのは生活に直結する「物価・景気対策(66.8%)」で、次に「少子化社会(53.6%)」、「社会保障(53.4%)」、「高齢化社会(51.8%)」、「気候変動(50.8%)」の順となりました。

また、「脱炭素化」については、33.0%でトップの「物価・景気対策」に比べて、関心があると回答した人は半数という結果でした。

Q8:あなたは以下の事柄に関心がありますか?(5スケールで聴取し、「非常に関心がある」/「やや関心がある」のTop2を集計)

Q8

Q8

2. 脱炭素のための活動として「今後行動したいこと」のトップは「特にない(43.8%)」【Q9】

脱炭素のための活動に関して「現在行動していること」、「今後も行動したいこと」は共通して「エコバッグを持参する」、「こまめに電気を消す」、「ごみの分別をする」と回答する人の割合が高いことが分かりました。

一方で「脱炭素(CO2削減)への取り組みに積極的な企業の製品を選ぶ」、「脱炭素(CO2削減)に関する活動に熱心な政治家に投票する」、「脱炭素(CO2削減)に関する署名運動に参加する」と言ったより大きなインパクトに繋がる行動は低い傾向が明らかになりました。また「今後(新たに)行動したいこと」についての質問では、「特にない」が選択される傾向(43.8%)も確認され、脱炭素に向けた更なる具体的な行動について、意欲的であるとは言い難い結果となりました。

Q9:普段あなたが行っている脱炭素(CO2排出量削減)のための活動を教えてください。

また、今後、行動したいと思うことを教えてください。(MAMT)(%)

Q9

Q9

3. 気候変動対策に対して、自分よりも政府の取り組みの方が「非常に重要/影響があると思う」と回答【Q10】するも、政府の取り組みが十分であると回答している人は3割未満【Q11】

産業革命前よりも気温が1.5℃以上上昇すると人間に深刻な影響が出るリスクが高まると考えられており、現在のCO2の排出量を削減できないままでいるとあと約6年で気温上昇1.5℃を超えるレベルに達してしまう」状況に関して、「どのステークホルダーの取り組みが重要か」という質問に対し、「非常に重要である」の回答は、政府(39.3%)、企業(37.9%)、地方自治体(31.6%)、あなたご自身(26.5%)の順となりました。

一方、気候変動対策(CO2削減)のための政府の取り組みについて、充分に取り組みができていると考えている人は26.4%となり、重要なステークホルダーである政府の取り組みに期待を寄せる意識が浮き彫りになりました。

Q10:気候変動対策に関して、以下のステークホルダーは。どの程度重要/影響があると思いますか?(SAMT)

Q10

Q10

Q11:気候変動対策に関して、以下のステークホルダーは、現在充分な対策・取り組みができていると思いますか。(SAMT)

Q11

Q11

みどりドクターズ 佐々木先生のコメント】

気候変動対策は子どもの安全保障

気候変動はいのちに直結する問題です。気候変動は、21世紀における最大の単一死亡因子とWHOは定義づけています。たばこ800万人、高血圧1000万人を抜き、年間1300万人も気候変動で亡くなっています。さらに気候変動が加速するにつれて、年間25万人の方がより多く亡くなるといわれています。

世界の医学会ではさまざま研究が進んでいます。気温が1度上がるにつき、脳血管障害で亡くなる人は2%、不安を感じる人は20%増えるといいます。このまま二酸化炭素を出し続けると2050年には猛暑の影響による心血管障害で亡くなる人は240%増えて、全体心血管疾患死亡者の1%に及ぶといわれています。気候変動の最大の原因である化石燃料使用による大気汚染では、呼吸器系の疾患のほか、様々ながん、脳心血管障害などで年間600~800万人の人が亡くなるといいます。たとえ亡くなることがなくても、数倍以上のその疾患にかかる・後遺症に苦しむ方がいます。そしてその方を支える多くの家族が必要となります。

アンケートでは、気候変動が自分の・子どもたちの健康問題と強く関連すると答えている方が少ないという結果でした。子どもたちは、外で遊ぶことで多くの学びを得ます。しかしながら、屋外では、6,10月の運動会でも熱中症が多発するように、外で遊べる期間は短くなっています。外では蚊にも刺されます。日本でも蚊の媒介による新たな感染症流行の危険性が高まっています。そして、日本は、大気汚染による死者はこの20年でOECD加盟国最悪の1.3倍に増えています。子どもが安全に外で遊ぶことが出来る環境を脅かしています。また、気候変動により良質な食料が手に入りにくくなること、若年者に増えている地球の将来を悲観するエコ不安症だけでなく、周囲の人の精神状態が不安定なことも、大きく子どもの成長に影響します。まさに、『気候変動対策は子どもの安全保障』です。

気候変動は、地球規模の健康の社会的決定要因、世代間健康格差拡大の原因ともいえます。

収入が少い、安定した職仕事に就けない、新鮮な食料が手に入らない、交通手段がないなどは、自分の努力を超えて健康が大きく害されます。このことをWHOは健康の社会的決定要因と呼びます。同様に、気候変動による暑い環境、洪水・暴風雨等の災害になりやすい環境、食料が得にくい環境は、自分の努力では超えることが難しく健康悪化を引き起こします。さらにこの気候変動の健康阻害は、次世代へより多くの被害を出し、世代間の健康格差を引き起こします。

気候変動対策が出来る最後の10年といわれる2020年代、一人ひとりの努力に依存するではなく、生活のシステムチェンジを含む抜本的な一刻も早い温室効果ガス排出削減が必要です。子ども世代・孫世代に対して現在よりも多く健康被害を与えます。次世代の健康を脅かす現生活をしている我々のことを、生きるために仕方なかったと、将来世代は許してくれるでしょうか?一人ひとりのエコ活動も大切ですが、一人ひとりが世の中を変えるために声をあげていくことが必要です。

一般社団法人 みどりドクターズ 代表理事 佐々木 隆史

滋賀医科大学卒、京都民医連中央病院、名古屋大学総合診療部研修等を経て、2013年こうせい駅前診療所を開設、病児保育室併設。日本プライマリ・ケア連合学会 指導医、日本在宅医療連合学会専門医。2か月のワクチンから100歳の在宅看取りまで。2021年みどりドクターズを発足し、2022年一般社団法人化。

一般社団法人 みどりドクターズ: https://greenpractice-jp.studio.site/0

Green Practiceコンセプトに基づく地球環境に配慮した医療を提唱する医師メンバーを中心とした一般社団法人。医療関係者が環境への配慮を通じて健康向上を追求し、持続可能な未来を築く支援を行う。VISIONは、環境に優しい診療により健康向上や健康リスク減少、医療の環境負荷とコスト軽減を目指し、Primary careの強化や創造的な環境提供、協力的なコミュニティの形成を重視して持続可能ヘルスケアを実現する。

【調査概要】

調査対象:全国の20-40代男女 合計1,200人(除外業種:調査業・広告代理業)

調査対象

調査対象

調査方法:インターネット定量調査

調査期間:2023年9月29日(金)~10月4日(水)

【「医師たちの気候変動啓発プロジェクト」について】

日本国内の現役医師や医療関係者など有志による、セミナーやプレスブリーフィングを通じて、気候変動による健康被害に関して啓発活動を行うプロジェクトです。

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