ディズニー・アニメーション・スタジオの最新作『ウィッシュ』が15日(金)から公開になる。今年はディズニーが100周年を迎えるアニバーサリー・イヤーだが、フィルムメイカーたちはあえて“完全オリジナル”の長編映画をつくることにこだわった。

いま、彼らはどんな物語を綴り、観客に何を伝えようとしているのか? 本作の脚本を手がけ、スタジオの創作面を束ねるCCO(チーフ・クリエイティブ・オフィサー)も務めるジェニファー・リーに話を聞いた。

アナと雪の女王2』に続いて新作の脚本を手がけることになったリーはまず、本作の監督を務めるクリス・バックがスタジオの廊下に貼りだした歴代のディズニー作品の画像を眺めるところから構想を練ったという。そこで出てきたキーワードは“ウィッシュ=願い”だ。

本作の主人公アーシャが暮らす魔法の王国ロサスでは、どんな願いも叶うという。しかし、アーシャは王国の恐ろしい秘密を知ってしまう。みんなの願いを取り戻すため、彼女はひとりで行動を開始し、王国をおさめるマグニフィコ王に立ち向かう。

これまでに数々のディズニー作品でキャラクターが何かに願う場面が描かれてきたが、彼女は時間をかけて“願い”について考え、仲間と話し合いを繰り返した。

「これまでのディズニー作品を振り返ってみると、登場人物が星に願ったり、自分の願っていることを映画の冒頭で歌にして表現していて私たちはワクワクするわけですが、それは願いが、そのキャラクターの“生命分”のようなものとして表現されているから私たちはワクワクするわけです。つまり、願いは“目的”なのではなく、そこにいたるまでの“道のり”が大事だと思うのです。

おとぎ話では星に願いをかけて、それが叶ったりするわけですが、人生はそうじゃないですよね。自分自身で夢を追っていく。それは人生でできるパワフルなことのひとつだと思います。夢を見て、世界を変えていく。いま、この世界に存在する多くのものは、かつて誰かが“ウィッシュ=願い”を抱いたことで生まれてきたわけです。ですから、この映画では“願い”というアクション=行動を祝福する映画にしたいと思いました」

本作は魔法や、空から落ちてきた“スター”が登場するミュージカル・ファンタジーだ。しかし、本作では願いは簡単には叶わない。

「私は幼いころから、ディズニーアニメーターになりたいと思っていました。でも、ここまで来るのに本当に紆余曲折があったんですよ」と彼女は笑みを見せる。

「当時の私は自分が脚本を書いたり、監督したりする“ストーリーテラー”だと気づいていませんでした。アニメーターになりたいと願い続けたのですが、結果的に私はディズニーアニメーターとしてではなく脚本家として仕事を始めることになりました。でもそこまでにいろんな道のりを経たからこそ、いろんな経験をして、それまでとは違う自分になり、違う夢を追うようになったわけです。

私たちは『いま夢を持たなければ! いまの夢を叶えなければ』と思いがちです。でも、大事なのは最初の一歩を踏み出すこと。そして歩き続けること。それこそが大事で“ウィッシュ”という言葉のシンプルな部分だけを描いてしまうと、ウィッシュの持っているパワフルな部分がたくさんあるのにそれが描けないと思ったのです」

そのため、アーシャの前に立ちふさがる悪役マグニフィコ王も、古典的なディズニーの悪役の要素を引き継ぎながら、現代の観客のハートに響く造形になった。世界中のあらゆる魔法を学んだ彼は、18歳になった国民から“願い”を預かり、王国に都合の良い願いだけを叶えている。王国に平和をもたらすために、王は“良かれ”と思って、自分が選んだ願いだけを叶えているのだ。結果として、王国は表向きは平穏だ。彼を“悪役”と呼んで良いのだろうか?

「マグニフィコは現代的なキャラクターにしたいと思いました。彼の良い部分を理解して描く必要があると思いましたし、彼がそのような選択をする理由がちゃんとなければならないと思っていました。この物語をつくる上で考えたのは、“リーダーの真価が問われるのは、挑戦に対峙した時だ”ということです。

詳しくは映画を観ていただきたいのですが、本作の冒頭では主人公のアーシャ、マグニフィコ王、王妃のアマヤの哲学は同じです。そこから様々な展開を経て、3人はそれぞれが違う選択を重ねて、違う道のりを歩んでいきます。そこを重視しました。私たちの社会でも同じことですよね。結果はひとつではないんです。権力をもった時、人はどんな選択するのか? あるいは選択をしないのか? そしてどんな道のりを歩むのか? を描きたいと思いました」

小さいかもしれないですが光は必ずある

誰もが“願い”を抱いている。しかし、願いはそんな簡単には叶わない。空の星が叶えてくれるわけではない。本作は、見せかけの甘い言葉は語らない。しかし、願いが叶うまでの道のりを歩いていくことの魅力や、そこで生まれるエネルギーに光をあてるのだ。

「いまの時代はどんなアイデアがあったとしても、すぐにアイデアが粉々にされてしまうような意見が出てきます」とリーは静かに語りはじめる。

「ですから、若い方を見ていると、夢を抱いたり、良い考えが浮かんでもすぐに潰されてしまうことあるんじゃないかと心配になりますし、ツラい気持ちになります。私も過去にイジメられた経験がありますから、そういう場面を見たり、経験すると悲しくなりますし、そのような状況に対してモロい部分があると自覚しています。

しかし、物語を語る上で私は、そこにある問題がとても複雑なものであったとしても、みんなに共通している部分を見つけ出し、人を“分断”するのではなく、みんなで“つながっていく”ストーリーを語り続けたいと思っています。イジメられていた私にとって『シンデレラ』がそういう存在でした。イジメられて、不当に扱われていたシンデレラが立ち上がるのを見て、私はすごく助けられたんです。ストーリーの先には光がある。私はそう信じています。

確かに、今の世界は厳しいことが多いですが、それでも“願いなんて持たなくていい”と思わないで良いと思います。願っていいんです。それを叶えようとする道のりは険しいかもしれないですが、助けてくれる人がいるはずです。そこには小さいかもしれないですが光は必ずあると思います」

ジェニファー・リー

『ウィッシュ』
12月15日(金)公開
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『ウィッシュ』