実家は遠く、帰るのは年に1、2度程度。でもたまに会うくらいが、親子の距離感としては理想的。そう考えている人は多いのではないでしょうか。しかし親が高齢となり、さらに一人暮らしだと、不安は募るばかり。そのような場合、「老人ホーム」もひとつの選択肢になりますが、施設に入居したら安心かといえば、そうとは言い切れないようです。みていきましょう。

離れて暮らす親子…理想の距離は?

――今年のお正月は、実家に帰りますか?

そもそも休みではないという人もいるでしょうが、長期的な休みを取りやすい年末年始は、家族みんなで実家に帰省という人も多いのではないでしょうか。

株式会社AlbaLinkが実家から離れて暮らしている人を対象に行った調査によると、実家に帰る頻度で最も多かったのが「年2回」で18.6%。僅差となったのが「年1回」で18.2%。そのタイミングで多かったのが「年末年始」で50.6%、「夏休み・お盆休み」が41.6%でした。

そもそも実家に帰りたいか、それとも帰りたくないか、というと、「帰りたいと思う」が64.4%、「帰りたいと思わない」が35.6%。帰りたい理由、1位は「家族に会いたい・話したい」。僅差で「家族が心配」。そして帰りたくない理由、1位は「実家が遠い」。こちらも僅差が「家族とそりが合わない」でした。

多くは実家を出た後も、良好な関係を築いているようですが、なかには残念な関係にある人もいるようです。

実家とちょうどいい理想的な距離とは――少々古い統計データになりますが、国土交通省平成30年住生活総合調査』によると、年老いた親と子の住まい方(距離)の希望を尋ねたところ、「子どもと1時間以内の近距離に住みたい」という高齢者が約4割を占めました。

【高齢期の親と子の理想の距離】

・子と同居する(二世帯住宅を含む):11.6%

・子と同じ敷地内の別の住宅に住む、または同じ住棟内の別の住戸に住む:7.0%

・徒歩5分程度の場所に住む:6.6%

・片道15分未満の場所に住む:8.1%

・片道1時間未満の場所に住む:6.6%

・特にこだわらない:33.5%

・その他:22.4%

経年でその推移をみていくと、同居を含めて近距離に住みたいという高齢者は減少傾向(図表)にあります。年々「親は親、子は子」という意識が強くなっているのでしょうか。親としては「1年に1~2度会えるくらい」が程よい距離なのかもしれません。

息子の説得で入った「老人ホーム」だったが

とはいえ、「親子は程よい距離がいい」といえるのは、お互いが元気なときだけかもしれません。要支援・要介護認定者の割合は、70代前半で5.8%ですが、70代後半で12.1%、80代前半で25.8%、80代後半で59.8%と、年齢と共に倍々ゲームのように増えていきます。

要介護認定となる理由のトップは「認知症」で23.6%、続いて「脳血管疾患(脳卒中)」で19.0%、「骨折・転倒」が13.0%。要介護3までのトップは「認知症」ですが、日常生活を1人で送ることは困難で、自力での移動や起き上がりもできない要介護4以上になると、脳血管疾患(脳卒中)がトップになります。

高齢の親が要支援・要介護に……実家からあまりに多いと子どもとしては心配をするだけで、歯がゆい思いをすることになりそうです。

――先日、もうすぐ90になる母が亡くなりました

そう投稿した60代の男性。母親は亡くなる5年前に自宅で転倒し、骨折。入院をきっかけに足腰が弱くなり、寝たきりになったそうです。男性の住まいと実家は飛行機での移動も含めて片道5時間。頻繁に通うことはできず、外部の介護サービスを利用しながら、しばらくは生活していたとか。

しかし介護を必要とする高齢の母親が1人暮らし……毎日不安が募るばかり。ケアマネージャーと相談し、施設への入居を検討することになったといいます。しかし、頑として住み慣れた自宅を離れようとしない母親。

――お願いだ、老人ホームに入ってくれ

男性とケアマネージャーの説得の末、最終的には介護付き有料老人ホームへの入居が決まりました。あくまでも自宅での生活を望んでいた母親に対し、申し訳ない気持ちが強かったそうですが「介護スタッフが24時間近くにいる」という安心感は大きかったといいます。

しばらくすると、世の中はコロナ禍に。それまで1ヵ月に1度、面会に通っていましたが感染予防のため禁止に。その後「1ヵ月に1度、テレビ電話での面会」が施設との約束となったといいます。そして初めのテレビ電話での面会で、思わぬ事態に。

――母が「家に帰りたい」とボロボロと泣き出したんです

話を聞くと、その施設は認知症患者が多く、コミュニケーションの取れる入居者がいないのだとか。行動が制限される前は、車椅子での毎日の散歩が気分転換になっていましたが今はそれも禁止。毎日テレビを観るだけ。話し相手もいない、孤独で仕方がない、というのです。

一応、施設は見学して決めたものの、入居者は自室にいて、認知症患者ばかりということは気づかなかったと男性。だからといって状況が状況なだけに、涙する母親を慰めるしかなかったとか。

孤独に耐える母親も次第に慣れたのか、ボロボロと泣くことはその1回だったといいます。ただ認知症患者が多い施設を選んでしまったことに、男性はずっと後悔の念を引きずっていたといいます。

老人ホームを見学する際、たとえば昼食を済ませた後などは、入居者は自室でゆっくり休んでいることが多く、本当の施設での生活を計り知れないことが多いとか。お勧めは、入居者の雰囲気や介助の様子なども見られる「ランチタイム」。昼食時は忙しいと見学を断られることもあるため、その場合は「レクリエーションの時間帯」でも。入居者の雰囲気もしっかりと見極めて、馴染めるかどうか判断することが、施設選びで後悔しないための鉄則です。

(※写真はイメージです/PIXTA)