12月14日からNetflixにて世界独占配信がスタートした実写ドラマ「幽☆遊☆白書」。主人公、浦飯幽助(北村匠海)たちの前に立ちはだかる最強の敵戸愚呂兄弟の弟役演じる綾野剛と兄役を演じる滝藤賢一

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制作期間は5年。大ヒット中の実写ドラマ版「ONE PIECE」と同じく日米グローバルワンチームで制作された本作は、月川翔監督を中心としたスタッフ陣に、数々のハリウッド大作を手掛けるScanline VFXによる、戸愚呂兄弟ならではの形態変化にも注目が集まっている。ハリウッドに足を運び、最先端の技術を取り入れた貴重な撮影を経験した綾野と滝藤に、本作の撮影を経て感じた役者として“演じること”、日本から世界に届けたいエンタテインメントへの想いなどを語ってもらった。

■「最終的にはチームを信じる力がこの作品を完成させた」(綾野)

――映像化不可能とされてきた「幽☆遊☆白書」が映像化されると聞いた時、実際に映像のイメージは浮かびましたか?

綾野「青天の霹靂でした。連載がスタートしてから30年以上の時ををかけて映像技術が『幽☆遊☆白書』の描く世界観に追いついたと考えると、これまで数々の作り手、クリエイターがチャレンジしてきた30年はとても意味のある時間だったと、感慨深い気持ちになりました」

――映像化のお話は衝撃的だったということですね。

綾野「圧倒的な挑戦ではありましたが、(本作を映像化するために)旗を持って走ろうとしている方々と一緒に走りたい、作品を通して皆様の日々を少しでも彩れたらという想いで、頑張らせていただきますとお返事しました」

滝藤「僕はもう、“戸愚呂兄をやるために役者をやってきた”と言っても過言ではないから、実写化、戸愚呂兄役と聞いて即答です。それ以外ないんだから(笑)。あれ?笑っていらっしゃいます?本当ですよ」

――滝藤さんがそこまで戸愚呂兄に思い入れがあったと伺い、戸愚呂兄弟に会えるのが俄然楽しみになりました。

滝藤「ありがとうございます(笑)。戸愚呂兄は体が自由に変化する上に、身長120センチという設定ですからね。正直映像はあまり想像できなかったです。現場に行ったら身長120センチの小学生がいて、座ったり足を組んでもらったりして見え方の確認をするところから始まりました」

綾野「手探りでしたね」

滝藤「そうですよね」

綾野「(質量などを確認するために)抱っこしたりして」

滝藤「やってたね(笑)」

綾野「でも、結局(戸愚呂弟の)肩に乗っているのとは違って、抱っこになっちゃうんで(笑)」

滝藤「そうだった(笑)」

綾野「初めから具体的にイメージできたわけではなく、この現場が生みだそうとしている“熱狂”を感じて。そこに自分を捧げるという思いで挑みました」

滝藤「僕も剛くんと一緒で、現場に行っていろいろと試しながら、どうなっていくんだろうという感じで撮影していました。ただ、現場に入る前に、同じ芝居を何回も繰り返し撮ることになると言われていて。その心づもりで臨みました。実際、本当に何度も何度もやって(笑)。でも、それが結構楽しかったんですよね」

綾野「スタートラインでイメージがカチッとはまらなくても、誰もがイメージすることを諦めませんでした。イメージすることは楽しい、豊かであるということを現場が伝え続けてくれたので、最終的にはチームを信じる力がこの作品を完成させた。それに尽きます」

■「共演者との芝居から得られるものにリアクションをとっていくことを大切にしていた」(滝藤)

――原作でもとても人気のキャラクターです。最先端の映像と役者さんの感情表現で役を作り上げていく作業をされたのかなと。キャラクターの魅力をどのように捉え、表現につなげたのでしょうか。

滝藤「原作からいろいろな要素を拾い、なぜ戸愚呂兄は妖怪になり弟と共に最強の強さを目指しているのか。そもそも、なぜ弟の肩に乗っているのかなどいろいろ考えました。肩に乗っていることについて、すごく考えて納得できたはずなんだけど、納得した理由はなんだったっけ…(笑)」

綾野「すごく気になります」

滝藤「弟の肩に乗って登場するわけだから、そこから考えるよね。多分、それが一番強く見えるとか、相手に恐怖を与えるとかそういうことに落ち着いたと記憶しています。いろいろ考えて納得したはずなんだけど、現場に入ったら、僕が120センチの設定だから、距離を測ったり遠近を調整したりと本当に地道な作業の積み重ねで。芝居はリアクションだと思っているから、あれこれ考えたことは一旦自分の中に入れちゃって、剛くんをはじめ、共演者との芝居から得られるものにリアクションをとっていくことを大切にしていたと思います」

綾野「僕はなぜ戸愚呂弟がサングラスをしているのかを考えました」

滝藤「気になるよね」

綾野「冨樫先生は、キャラクター構築のなかで最終的に読者がなにを感じるかということをとても大切にされていると思うんです。だから実際に彼を生きるとなった時に、自分のなかで一つ腑に落ちる部分がないといけないなと。そこで導きだしたのが、“眼だけは妖怪になれなかった”ということ。本作において、浦飯幽助戸愚呂弟の闘いとは、守るものがある強さと失うものがない強さの闘いで、戸愚呂弟は失うものがない強さを持っている立場。彼の一縷の人間力がサングラスというフィルターを一つ挟むことで100%妖怪の状態になる。妖怪として生きていくことの覚悟と、揺らぎがサングラスに現れていると感じました」

――どんなオーダーが来るか想像がつかない撮影は、経験があるお二人だからこそワクワクしたのではないでしょうか。

滝藤「やったことのないことをやる。そこがおもしろくて。撮影の時は剛くんの後ろをちょこちょことくっついていくんだけど、これがどうなるんだろうって、ね?(笑)」

綾野「はい(笑)」

滝藤「ちょっと恥ずかしかったね。だって、大の大人だし、剛くんは日本を代表する俳優で、僕もそこそこ出ているほうですからね。その2人がこういうところから始まる撮影をしているんだって」

綾野「最先端の技術を使っているけれど、撮影はとてもアナログで」

滝藤「ちょっとでもズレたらもう一度って。だけどそれが本当に苦じゃなかったんだよね」

綾野「ノーストレスでした。今回のスキャンライン(アイライン)での撮影は顔だけの芝居を求められました。普段役によっては爪先まで意識して演じる役もありますので、表情だけに集中できるのは、なんて贅沢なんだろうと。最先端の技術と聞くとテクニカルな感じがしますが、想像を具現化、可視化して届けたいと願った人たちの情熱が、本作の証だと捉えています。ストレスなく撮影できたのは、これまでの『幽☆遊☆白書』の現場を踏んできた経験が生み出したもの。アナログと徹底的に向き合い受け入れられるように、脳内が筋トレされたお陰です」

滝藤「経験が活きた感じはあるよね。だから今度は1センチずらして演じようみたいに、いろいろと考えて調整しながら繰り返すのは、苦というよりも楽しかったです」

――お互いが兄弟役で良かったと感じることも多かったのではないでしょうか。

滝藤「そりゃそうですよ。剛くんのように作品や自分の役に責任を持って、真摯に向き合っている俳優さんってそうそういないと思います。『幽☆遊☆白書』だ、戸愚呂兄弟だ、祭りだ、みたいな雰囲気を締めてくれるというのかな。剛くんと一緒の現場だと、ただただ楽しいだけではいられない。自分のなかでもどこか気を引き締めて頑張らないと失礼になっちゃうって思える方だし、なにより、剛くんのこの作品にかけるとてつもない思いは、現場で初日の前日に行われたリハーサルから感じていました。監督と役について話す姿を遠目で見て、こちらの身が引き締まる。とても稀有な俳優さんだと思います」

綾野「滝藤さんが兄者(戸愚呂兄の呼び名)役と聞いた時には、とても嬉しくて。兄者は劇場型。自分の気持ちを全部言葉に乗せ相手を支配していく。それでいて地に足がついている感じがあって。言葉を巧みに操りながら、相手の深層心理に踏み込み、恐怖として刷り込んでいく。滝藤さんでなければできません。圧倒的な安心感がありましたし、尊敬する役者さんでもありますので、ご一緒できることが喜びでした」

■「いまこそ日本のことをもっと知り学び、そして届けたい」(綾野)

――高度な技術を取り入れた映像作りの機会も増えてきたかと。技術の進歩との向き合い方をどのように捉えていますか?

綾野「まず、本作のようなスケールの作品を作ろうとしている方々がいることに感謝ですし、勇気をもらっています。表現することを諦めず『幽☆遊☆白書』を映像化しようと挑戦し、そこに辿り着いていることに感銘を受けます。役者としてそれに応えられる自分でありたいとも思っています。僕が本作の撮影を通して思ったのはCGを豊かにするのは現場だということ。表情はCGではなく役者でとなったのは、人間にしかないニュアンスという表情があるから。アナログな作業をしっかり積み重ねなけらば、この完成形には辿り着けないという確信が持てました。フルCGの世界では僕たち役者は必要ないかもしれません。でもそれも一つの作品性です。ですが、本作には人が握手をして感じる体温と同じように、CGを超えた“体温”があります。CGと共存できた瞬間といいますか。それが礎になってほしいと願っています」

――主人公である浦飯幽助役の北村匠海さんが「日本のエンタテインメントがさらに広がりますように」とコメントされていましたが、お二人は日本から世界に発信できるエンタテイメントに必要なこと、やるべきことをどのように考えていらっしゃいますか?

綾野「日本語を知って頂けたら幸いです。耳慣れといいますか、日本語の響きや鳴り方、情感がより伝わったらいいなと思っています。日本語にしかない語感が俳優の生体を通して、レンズを通して伝わっていく。僕は母国語で世界へ発信できる喜びをとても大切にしています。もちろん他国の言語でもコミュニケーションしていきたい思いはありますが、今回の現場では僕が上手に(英語を)話せなくても受け止めてくださいましたし、つい日本語で話していても表情で伝わっていて。言葉の壁を超えて伝わるものが必ずあります。映像にはそれが映ると思うので、日本語の作品で日本の魅力を知ってもらいたいです」

滝藤「漫画やアニメは世界中で楽しまれているもの。今回の『幽☆遊☆白書』もそうだし、Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』での相撲とか、時代劇とか。やっぱり日本人がやるからしっくりくるものってありますよね。日本独自の社会問題もたくさんあります。日本発にするなら、日本の文化、日本の良さ、日本社会における問題など、世界に通じるもので戦っていかなけばならないのかなって感じています」

綾野「配信サービスの広がりもあり、どの国もドメスティックをもう一度見直せるチャンスが来ていると思います。今回は漫画があって世界中の方々が作品を知ってくださっていることがすごく大きくて、背中を押していただいたと思います。Netflixシリーズ『サンクチュアリ -聖域-』で圧倒的なドメスティックを描いた作品を世界に届けるイメージが生まれたとも感じています。知り合いに海外の方がいるのですが、僕よりも日本のことを知っていたりするんです。そんな時、もっと身近なことを知っていく姿勢が大切だと気づかされます。だから、いまこそ日本のことをもっと知り学び、そして届けたい。まだまだここからです」

取材・文/タナカシノブ

Netflixシリーズ「幽☆遊☆白書」で戸愚呂兄弟を演じた綾野剛、滝藤賢一にインタビュー!/[c]Y.T.90-94