今月17日、ブンデスリーガは大一番を迎える。2位バイエルンと3位シュトゥットガルトが相まみえるのだ。前人未到の12連覇を目指す“絶対王者”と今季の“サプライズパッケージ”がぶつかる注目の一戦だ。そして、今季ブンデスリーガの最強ストライカー対決でもある。得点ランク1位を走る“騎士”ハリー・ケインと2位の“怪物”セール・ギラシの競演だ!

 それでは18ゴールのケインと、16ゴールのギラシによる、注目のストライカー対決をプレビューしよう。ちなみに、両選手とも既に昨季の得点王(ニクラス・フュルクルク&クリストファー・エンクンク)の15ゴールを超えており、どこまでゴール数を伸ばすか注目を集めている。

[写真]=Getty Images

◆■二人の記録

 今夏トッテナムからブンデスリーガ記録となる移籍金1億ユーロ(約159億円)でバイエルンに加入したイングランド代表FWハリー・ケイン(30歳)は、すぐに新天地で結果を残している。今季ここまで公式戦20試合に出場して22ゴール。ブンデスリーガでは13試合で18ゴールを叩き出している。

 既に様々な記録を塗り替えている。ブンデスリーガ開幕11節の時点で17ゴールを叩き出したが、これは2019-20シーズンのロベルト・レヴァンドフスキ(16ゴール)を抜いてブンデスリーガ記録となっている。さらに、ブンデスリーガでのデビュー戦から最初の12試合で18ゴールを決めたが、これも60年以上の歴史を誇る同リーグの最多記録だ。そしてブンデスリーガにおけるイングランド人選手のシーズン最多ゴール記録も既に塗り替えた。ジェイドン・サンチョ(17ゴール、2019-20)、ケヴィン・キーガン(17ゴール、1978-79)の記録をわずか12試合で更新したのだ。

 ここまでブンデスリーガで3度のハットトリックを達成しているが、ブンデスリーガのデビューシーズンでは史上4人目の快挙だという。55年ぶりに記録に並んでおり、残り試合数を考えると記録更新も時間の問題か。ちなみに、そのうちの1回が敵地で4-0と快勝した11月4日ドルトムント戦であり、ブンデスリーガの“デア・クラシカー”に初出場でハットトリックという史上初の快挙を成し遂げた。

 シュトゥットガルトのギラシも負けていない。昨季レンヌからローン契約で加入して今オフに完全移籍に移行したストライカーは、今季ケインよりも好スタートを切った。開幕から5試合連続ゴール。ケインは開幕11節での最多ゴール記録を打ち立てたが、ギラシは開幕8試合で14ゴールという、これまたブンデスリーガの最多記録を樹立したのだ。ちなみに欧州5大リーグを見渡しても、21世紀に入り開幕8試合でこれ以上のゴール数を決めたのは2014-15シーズンのレアル・マドリード時代のFWクリスティアーノ・ロナウド(15ゴール)だけだ。

 それから、開幕7試合のうち5試合で複数ゴールというのもブンデスリーガの記録だった。驚異的な決定力を誇っており、信じがたい話なのだが、開幕から4試合連続で枠内シュートを全てゴールにつなげたそうだ。開幕から8本連続で枠内シュートを全て決めたのはクラブ記録となっている。

 ギラシは第8節のウニオン・ベルリン戦でハムストリングを痛め、その後2試合を欠場しており、怪我がなければもっとゴールを奪えていたはずだ。ちなみに、ギラシを欠いた2試合ともシュトゥットガルトは敗れている…。

◆■長所

「彼が凄いことは知っていたけど、これほど凄いなんてね」と、バイエルンフランス代表FWキングスレイ・コマンは『Sky Sports』のインタビューでケインについて語ったという。そして、他のストライカーとは一線を画すと説明する。バイエルンでFWレヴァンドフスキフランス代表でFWカリム・ベンゼマユヴェントスではFWカルロス・テベスと一緒にプレーした経験を持つコマンだが「他とは違う」とケインを称える。「大半のストライカーはゴールを決めるために“自己中”なんだけど、ケインは違う。僕らチームメイトに驚くほどの素晴らしいパスをくれる。ケインは、僕がこれまでプレーしてきた他のストライカーよりも“チームプレーヤー”なんだ」

 確かにケインは圧倒的なキック技術でトッテナム時代にもチャンスを演出してきた。2020-21シーズンにはプレミアで「23ゴール・14アシスト」をマークして、プレミアの得点王とアシスト王を同時に受賞した。バイエルンに来てからもチャンスを演出しており、ここまでリーグ6位タイの5アシストをマークしている。そのうち3本がFWレロイ・サネへのアシストだ。おかげでサネは今季8ゴールを決めており、既にブンデスリーガのシーズン自己ベストに並んでいるのだ。

 ギラシだって「自分のプレーをするだけ。ゴールでもアシストでも、どちらだって構わない」と語るが、ゴールを量産できるようになったのはケインのおかげかもしれない。ギラシは2016年、20歳の頃にケルンに引き抜かれて初めてブンデスリーガに挑戦したが、その時は結果を残せなかった。その後、フランスに戻って2部リーグでもプレーした。そして2020年に加入したレンヌでようやくブレークしたのだ。

「若い頃はピッチ上を走り回っていた」とギラシは『The Guardian』に語った。「徐々に学ぶようになったんだ。たくさんTVでサッカーを見ており、レヴァンドフスキケインハーランドといった選手の動きを分析するのが好きなんだ。今はタイミングよく正しい場所にいることを心掛けている。昨季も、ボールがどこにこぼれてくるか考えてポジショニングをとって簡単なゴールをいくつか決めることができた。僕はボールを持つのが好きだけど、最も重要なのはボックス内でチャンスに備えることなんだ」

 そこに自慢の身体能力がかみ合い、ゴールを量産できているようだ。シュトゥットガルトを率いるセバスティアン・ヘーネス監督も「フィジカルが強く、アスリート能力が高い。良いプレーをしながらゴールを奪える。そういったクオリティを持つのだから、我々にとって重要な選手だ」とギニア代表ストライカーを称えている。

◆■得点王争い

 チーム力を考えると、得点王の本命はハリー・ケインだろう。今季バイエルンリーグ最多の44ゴールを叩き出しており、ゴール期待値もリーグ1位だ。チャンスが多いのだから、試合に出続ければケインはゴール数を伸ばすだろう。2020-21シーズンにレヴァンドフスキが打ち立てた「41ゴール」というブンデスリーガのシーズン最多ゴール記録だって狙えるはずだ。

 一方で、ギラシの得点王の夢はよっぽどのことがない限り叶わないだろう。というのも、ギニア代表のギラシは来年1月に開幕するアフリカネイションズカップに出場予定のため、ブンデスリーガ後半戦の最初の数試合を欠場するのだ。それだけではない。ギラシは今季最後までシュトゥットガルトプレーするかさえ分からないのだ。

 ゴールを量産するストライカーには移籍の噂が尽きない。現在の移籍市場では格安の1750万ユーロ(約27億円)という契約解除金のため、欧州の複数のクラブが同選手に興味を示しているという。プレミアリーグ勢だけで少なくとも4チームが争奪戦に臨むと言われている。さらにミランローマなども目を光らせており、1月の移籍市場でブンデスリーガを離れる可能性があるのだ。

 ギラシは「ワールドクラスケインと競い合えるのは凄いこと。彼がブンデスリーガの多くのストライカーの刺激になり、基準を高めていると思う」と語っていたが、ブンデスリーガで彼らが対戦するのは、今週末が最初で最後かもしれない!?

(記事/Footmedia)