日本で年収1,000万円を超える給与所得者は、わずか5%といわれています(令和3年分民間給与実態統計調査)。もっとも、この「上位5%」の勝ち組たちも、年金について正しい知識を持っていなければ老後の資金計画が危ぶまれる可能性があると、CFPの伊藤貴徳氏はいいます。本記事では、Aさん(59歳)の事例とともに、日本の年金制度について解説します。

ねんきん定期便の「年金見込受給額」に愕然

大手上場企業に勤める営業部長のAさんは59歳。都内で暮らしています。定年退職の年齢が近づき、そろそろセカンドライフの計画を立てようとしていたところ、59歳の誕生日となる月に封書で、ある郵便物が届きました。

――中身は「ねんきん定期便」。

Aさんは、いつもこんな封書で届いてたかな?と不思議に思いながらも、そういえば、年金はいくらもらえるのだろう?と気になり、開いてみました。そこでねんきん定期便に書かれている年金見込受給額に愕然とします。

「え、年金って、こんなに少ないの!? これじゃあ、困るよ……」

記載されていた年金見込額は、Aさんが想像していたよりもはるかに少ないものでした。Aさんの年金額はいくらで、一体なぜ少ないと感じたのでしょうか。Aさんの事例をもとに正しい知識を身につけ、ねんきん定期便の見方をおさらいしましょう。

「ねんきん定期便」とは?

ねんきん定期便は、年金制度を運営している日本年金機構定期的に発行しています。

保険料の納付額や、加入期間、これまでの加入実績に応じた年金額などが記載されており、通常はハガキで届きますが、35歳・45歳・59歳の年には全期間の加入履歴が載った封書が届きます。将来の年金額を確認することができますので、届いたら確認してみましょう。

日本の年金制度

Aさんは、なぜ年金を少ないと感じたのでしょうか?

Aさんと同様にサラリーマンなど、厚生年金に加入している方であれば、将来受け取ることのできる年金はこれまでの給料に比例して支払った年金保険料に比例します。この給料のことを「標準報酬月額」といいます。厚生年金の標準報酬月額は、全部で32の等級にわかれており、最高等級は65万円です。

最高等級は65万円ということは、つまり、給料が65万円を超えた分は年金に反映されないのです。

毎月の年金受給額が「23万円」でも足りないワケ

Aさんの年収は1,500万円で、1ヵ月の給料に換算するとおよそ90万円なので、厚生年金の一番上の等級をすでに超えてしまっています。そのため、年金額の増加が頭打ちとなっている状態なのでした。

ちなみに、Aさんの見込年金受取額は約270万円となっていました。1ヵ月に換算すると約23万円です。「1ヵ月23万円ももらえれば、余裕で生活できるのでは?」そう感じる方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、Aさんはこう話します。

「1ヵ月の生活費がだいたい50万円くらいかかっているので、年金だけでの生活はかなり厳しいです。なんだかんだいって、いままでの給料の6割くらいはもらえるんじゃないかなと思っていたんですが、それが、たった23万円ぽっちだなんて! 1/5ですよ! 1/5! 優雅な老後を送るつもりが……こんなの人生初めての挫折です。必死で働いてきてやっと毎日が日曜日生活になるっていうのに、生活水準を抑えて我慢しないといけないなんて!」

生活水準は人それぞれですが、一般的に高収入の方ほど生活費は高くなる傾向にあります。しかし、前述のとおり高収入になればなるほど年金額が増加するというわけではありません。

生活水準を支えられずに、高収入の方が老後破綻を迎えるケースはよくみられますので、セカンドライフを迎える前に将来の収支バランスを計算しましょう。不足が出る場合は必要資金を準備したり、支出の見直しを図ったりする必要があります。

一通りの説明を終えたあと、Aさんからはこんな言葉が。

「実は退職金を見込んで、いまのうちに長野に別荘を買おうと思っていました。でも一旦思いとどまって老後の生活に向けて、マネープランをいまから練り直します」

伊藤 貴徳

伊藤FPオフィス

代表

(※写真はイメージです/PIXTA)