元気な企業には、どのような特徴、戦略、そしてビジネスモデルがあるのか。本連載では、特徴的なビジネスモデルを作り上げた7つの優れた企業事例を船井総合研究所が分析した『このビジネスモデルがすごい! 2』(船井総合研究所著/あさ出版)より、内容の一部を抜粋・再編集して紹介。コロナ禍をはじめとする環境変化に、各企業がどう対応し、ピンチをチャンスに変えて成長したかをひも解く。 

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 第5回目は、ハードロック工業の「ソリューションサイト」を活用したデータ経営と営業DXの秘密に迫る。

<連載ラインアップ>
第1回 「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」の物語コーポレーションは、なぜ強いのか?
第2回 真似できそうで真似できない、物語コーポレーションのこだわりとは?
第3回 物語コーポレーションの「業態改善会議」では、何が議論されているのか?
第4回 「ゆるまないナット」のハードロック工業がこだわる商品力に頼らない営業戦略
■第5回 問い合わせ数が4倍に、ハードロック工業のデータ経営と営業DXの威力とは?(本稿)

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持続的成長性 ――コロナ禍で営業DXを導入。問い合わせ数はかつての4倍に

 ハードロック工業は、技術志向とマーケティングが両立できている稀有な会社だが、コロナ禍を経て、営業力がさらに強化された。DXとデータ経営で、新規顧客を獲得する力、さらには受注プロセスがさらに改善されたのだ。

 実はコロナ以前から、顧客の購買行動は少しずつ変わり始めていた。今やスマートフォンひとつで、いろいろなことができる時代である。飲食店でも、事前にファストフードのアプリで注文をしておけば、店に行って待たずに受け取って決済できてしまえる。

 こうした購買行動は、ビジネスの世界にも少しずつ入り始めていた。となれば、顧客の購買行動に合わせたビジネスモデルやビジネスプロセスに変えていくのは当然のことだ。だが、対応できている会社は多くはなかった。

 そこにやってきたのが、コロナ禍だった。製造業などで調達担当者は、かつては仕入れ先を探すために展示会を活用していた。また、かつての人脈や出入り業者に話を聞くこともあった。ところが、コロナ禍でそういうことができなくなってしまったのである。

 一方で、スマートフォンで何でもできるようになり、当たり前のように仕入れ先もインターネットで検索され、調べられるようになった。そうすることで、正しい情報が得られることも増えていった。

 この状況に対策を打っていた会社と、打っていなかった会社には、大きな差が生まれた。

 もとより営業活動とマーケティングは違う。営業活動とは、目の前にいる人を共感させる技術である。マーケティングは、目の前にいない人に情報を伝えて共感してもらうことである。

 マーケティングは、相手の立場に立たないとできない。だからこそ、この領域では、自社でやろうとするのではなく、プロを活用したほうがメリットは大きい。

 ハードロック工業は、コロナ禍によって売り上げ減少を余儀なくされた。主要な取引先だった鉄道の利用者数が激減、鉄道用途のネジ需要が激減したのだ。また、新規開拓も困難になっていた。

 それまでの主なプロモーション手段は展示会だった。年間8本前後の展示会に出展していたが、コロナ禍で展示会は軒並み中止。営業面で大きな痛手を被った。

 そこで現社長の若林氏が船井総合研究所と手を組み、取り組みを進めたのが、Zoho(ウェブベースのオンラインアプリケーションサービス)だった。従来の営業担当者による対面営業メインの営業スタイルから、「オンライン営業」といわれる顧客周りDXを導入することを決断したのだ。

 もともと生産現場のDXについては、かなり早くから取り組みを進めていた。取得が最も難しいといわれるJISQ9100といった航空宇宙の品質マネジメントシステムを全社で導入することで、必然的に現場改革が始まり、「現場の見える化」を実現した。

 しかし、営業部門はDXが進んでおらず、Excel帳票、紙帳票がメインで、営業活動そのものも属人的なものになっていた。コロナ禍のもと、社長の若林氏は「ピンチはチャンス」とばかりに、Zohoによる顧客周りDXに取り組んだのである。

 まず進めたのは、「ソリューションサイト」の立ち上げだ。企業ホームページとは異なる、特定のソリューション専門のWebサイトだ。ねじに関連する情報を探している人たちを対象に「ねじ締結技術ナビ」をスタート。記事コンテンツや動画コンテンツ、ダウンロード資料などを用意した。

 ハードロックナットのような特殊なねじを使用する人がねじに関する情報を探そうとすると、ねじに関する情報が多々掲載された「ねじ締結技術ナビ」がヒットし、訪問することになる。

 このソリューションサイトによって、新規開拓を展示会に依存していた状態から、Webサイトからの新規開拓を行えるようになった。デジタルマーケティングの導入が、それを可能にしたのだ。しかも、展示会を上回る集客成果が得られるようになった。

 ハードロック工業のホームページは月間アクセス件数約2万、PV数約10万件、「ねじ締結技術ナビ」は、月間アクセス件数約2万、PV数約7万と、開始から3年で大幅に増加している。

 新規リード獲得件数も月間300〜400件に達し、展示会に出展していたときに比べ、20倍以上の新規件数を獲得できている。

 さらに、デジタルマーケティングでは、マーケティングオートメーションというテクノロジーによって、顧客の反応がわかる。

 ソリューションサイトをいつ、どのページをどのくらい見ているかなど、訪問者の行動が可視化できるようになったのだ。その行動からハードロックナットのニーズが発生していると思われる見込み客に対しては電話をかけるなど、直接営業を行った。ニーズが高まっているときなのでオンラインの商談に進みやすく、効果的な営業が行えるようになった。

 また、これまでは展示会、資料請求と、それぞれをExcel管理していたため、顧客情報を統合して把握することができなかった。

 Zohoで「カスタマー・リレーションシップ・マネジメント(CRM)」を導入、すべての顧客情報が一元化されたことにより、顧客ニーズや営業状況が一目でわかるようになった。

 さらに、これまではExcelベースでの日報が主な営業管理ツールだったが、Zohoによる「セールスフォース・オートメーション(SFA)」を全営業担当者に導入。

 スマートフォンからも簡単に入力ができるため、営業アプローチが効率化し、営業活動の見える化と営業生産性の向上を実現させた。

 一連の取り組みの成果として、Zoho導入6カ月で、問い合わせ数はかつての4倍に。また、従来の鉄道を中心とした産業に代わり、これからの成長産業と目される工作機械、ロボット産業からの多数の引き合いを獲得することに成功した。

 顧客のさまざまな関心事項、要求事項もソリューションサイトによってダイレクトに収集することができるため、新製品開発の貴重な情報源にもなっている。営業と技術部門との連携も強化できた。

 中でも大きな成果となったのが、顧客ニーズが手に取るようにわかるようになったこと。ポイントは、CAD図面ダウンロードサービスにあった。新しい図面のダウンロードは、顧客の新しいニーズの可能性につながっている。

 顧客がどんな図面をダウンロードするかによって、新たな、そして的確なアプローチが可能になったのである。   

<連載ラインアップ>
第1回 「焼肉きんぐ」「丸源ラーメン」の物語コーポレーションは、なぜ強いのか?
第2回 真似できそうで真似できない、物語コーポレーションのこだわりとは?
第3回 物語コーポレーションの「業態改善会議」では、何が議論されているのか?
第4回 「ゆるまないナット」のハードロック工業がこだわる商品力に頼らない営業戦略
■第5回 問い合わせ数が4倍に、ハードロック工業のデータ経営と営業DXの威力とは?(本稿)

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写真提供:ハードロック工業