会社員などが副業を行っている場合、確定申告を行う必要があります。主な所得が給与所得である場合、副業で得た所得は「雑所得」とみなされることがほとんどですが、なかには税制上で有利になる「事業所得」として計上できるケースもあると、税理士の伊藤俊一氏はいいます。本記事では、同氏による著書『税務署を納得させるエビデンス 決定的証拠の集め方』シリーズ(ぎょうせい)から、副業が事業所得として認められるケースについて解説します。

雑所得でなく事業所得とみなされるためのエビデンス

Q 

事業所得と雑所得について、雑所得ではなく事業所得とみなされるエビデンスを教えてください。

A

唯一解、最適解とされる決定打となる証拠の作成は不可能です。雑所得か事業所得かの分類は事実認定に着地します。

副業を事業所得とみなす方法

【解説】

まずは、「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)(https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kihon/shotoku/kaisei/221007/pdf/02.pdf)を確認します。ここでは、このうち事業所得について検証します。

(参考)事業所と業務に係る雑所得等の区分(イメージ)

これについて「その所得を得る活動に営利性が認められない場合」とは営利性を常に追及するという意味で、数年度にわたり赤字であれば問題になり得ます。「その所得の収入金額が僅少と認められる場合」は、反証が非常に難しいためです。

例えば給与所得者が副業として雑所得を事業所得として申告している場合に、当局調査でもよくありますが「あなた(納税者)は他人から何をして生計を立てていますか」といわれ、「サラリーマンです」と回答したとします。これでメインが給与所得、副業は給与所得に比較して少額であればあるほど雑所得認定されやすくなります。

この時の対応として副業としての名刺を作成し、それを調査官に見せるという古典的対応方法もありますが、申告書での所得の多寡の検証と現状の当該納税者の生活水準を照合すれば、どちらで生計を立てているかすぐにわかります。したがって、これをもって今は金額僅少でも、これはあくまで開業準備行為であり事業所得であるという主張は極めて通りにくいといえます。

また、これも古典的な実務通説ですが、おおむね3年以上、主要所得の10%以下が連続していればそれも問題になり得ます。

上掲のいずれも古典的な実務通説のため、そして、改正通達が発出されたため、将来的には「従来」通説になりうる可能性は十分にあります。

下記の裁判例は参考になります。

WEBサイト運営による副業が事業として認められた事例

重要情報

○所得の帰属/インターネット上のウェブサイト収入

東京地方裁判所平成19年(行ウ)第1号所得税更正処分取消請求事件 平成21年7月31日判決TAINSコードZ259-11255

判示事項

1.原告(大学教師・評論家)は、給与所得及び雑所得(原稿料・講演料等)を申告していたが、税務署長から、平成13年分から同15年分までの所得税について、インターネット上のウェブサイト収入は原告に帰属し、原稿料等と併せて事業所得に該当するとして更正処分等を受けた。本件は、原告が、本件サイトの運営主体は人格のない社団等Oであり、その収入はOに帰属すると主張して、各処分の取消しを求めた事案である。

2.本件サイトは、平成13年から同15年当時、原告の名を冠したサイト名が付けられるとともに原告の顔写真やプロフィール等が掲載され、

また、その内容も、原告の著書の紹介及び販売並びに原告が行った講演会の模様を録画したビデオの販売を行うとともに、有料ページ補論雑所得でなく事業所得とみなされるためのエビデンスにおいて、広く一般から購読会員を募り、原告が選別した特別な情報等を有料で提供するというものであったということができるのであるから、

原告が主宰者となって、自らの著作物を販売し、また、政治経済等に関する情報の発信等をすることを目的として開設されたウェブサイトとして位置付けるのが相当である。

3.原告は、本件サイトの運営等の方針を決定するとともに、対外的にも本件サイトの運営主体として行動していたということができ、本件サイトの運営の拠点であった賃借物件の賃料及び共益費を自分自身の経費として計上していたのである。そして、本件サイト収入は、原告名義の預貯金口座に振り込まれ、少なくともその一部については、引き出されて原告が取得するところとなっているのである。

以上によれば、本件サイトの運営主体は原告であったと認めるのが相当であり、したがって、本件サイト収入は原告に帰属するものというべきである。

4.人格のない社団等の意義については、私法におけるものと同義に解すべきところ、私法上、ある団体が、その各構成員とは別の独立した社会的存在とされる人格のない社団等と認められるためには、①団体としての組織を備え、②多数決の原則が行われ、③構成員が変更しても団体そのものが存続し、④その組織によって代表の方法、総会の運営、財産の管理その他団体としての主要な点が確定していることを要するものである。

5.Oは、構成員となるための要件が不明確であり、多数決の原則が行われていたともいえないこと等から、Oは人格のない社団等の要件を満たすには至っていなかったものといわざるを得ない。したがって、Oが本件サイト収入の帰属主体となることはない。

6.原告は、大学教師としての給与収入を上回る原稿料等収入を得ていたこと、著書の奥書には、原告について、A大学教授であることと並んで文筆、講演等の活動を行っている者であることにも相当の力点が置いた紹介がされていること、自らが運営主体となっている本件サイトにおいて、著書の紹介及び販売並びに講演会のビデオの販売に努めていたこと等から、原稿料等収入による所得は、社会通念上事業所得に該当する。

7.原告は、本件サイトを運営して、給与収入の額にほぼ匹敵するかそれを上回る収入を得ていること、融資を受けるに当たり、開業計画書の事業内容として「インターネットによる言論・情報提供業」を掲げていたのみならず、開業後の利益金額の見通しを立てていたこと等が認められ、本件サイト収入による所得は、社会通念上事業所得に該当するものと認めるのが相当である。

伊藤 俊一

税理士