世界150以上の国と地域で公開された『メアリと魔女の花(17)以来6年ぶりとなるスタジオポノックの長編最新作『屋根裏のラジャー』が、ついに本日12月15日より公開を迎えた。

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火垂るの墓』(88)や『もののけ姫』(97)、『かぐや姫の物語(13)などのスタジオジブリ作品で中核的な役割を担い、故・高畑勲監督が絶大な信頼を寄せていたアニメーション演出家の百瀬義行監督が、これまでのキャリアのすべてを懸けて挑んだ渾身の一本となる本作。スタジオポノックだからこそ実現できた美しい映像世界を堪能するならば、あらゆる面でハイクオリティな映画体験を提供するIMAXがうってつけ。そこで本稿では、本作の“IMAX推し”ポイントを紹介していこう。

手描きアニメーションの新境地!スタジオポノックの技術力に息を呑む

スタジオジブリ作品『かぐや姫の物語(13)と『思い出のマーニー』(14)でプロデューサーを務め、両作をアカデミー賞長編アニメーション賞ノミネートに導いた西村義明が、スタジオジブリ制作部門の解散を機に立ち上げたのが「スタジオポノック」。

スタジオ第1作となった『メアリと魔女の花』は日本国内で興行収入32.9億円と、新設スタジオの作品としては異例のヒットを記録。翌年には百瀬監督や米林宏昌監督、山下明彦監督の3人のクリエイターを迎えた短編プロジェクト『ちいさな英雄 -カニとタマゴ透明人間-』(18)を発表し大きな注目を集め、その後もオリンピック文化遺産財団との共同制作で短編映画『Tomorrow's Leaves』(21)を発表。新作のたびに日本のアニメーション界に新たな1ページを切り拓いてきた。

そんなスタジオポノック作品の最大の魅力と言えば、このうえなく美しく、観る者の想像力を駆り立ててくれる手描きアニメーションによる映像と、子どもにとってはワクワクするような、大人にとっては懐かしい記憶を呼び起こしてくれるような豊かなストーリーテリング。それらは長編第2作となる本作でもしっかりと守り抜かれている。

本作で描かれるのは、“想像の友だち(イマジナリ)”であるラジャーが仲間たちと大冒険へ繰りだす壮大なファンタジー。それを美しく、それでいてダイナミックに描くためにスタジオポノックは、新たなデジタル技術を得意とするフランスのクリエイターたちとコラボレーション。手描きアニメーションならではの温かみを残しながら、手描きだけでは実現できない質感表現と光と影の映像表現に挑んだ。

しかも百瀬監督を筆頭に、作画監督にはスタジオジブリ作品や今敏監督作品、『ドラえもん のび太の恐竜2006』(06)や『海獣の子供』(18)などに携わってきた小西賢一、背景美術にはスタジオジブリの美術スタッフが中心となって設立した“でほぎゃらりー”、美術監督には『この世界の片隅に』(16)の林孝輔と、日本の長編アニメーション映画を担う一流のスタッフも集結。彼らの技術力によって生き生きと躍動する登場人物たちの姿は、まさに伝統的な手描きアニメーションの手法のさらに一歩先をいく新境地。IMAXの大スクリーンで浴びるように体感するのにぴったりだ!

■普遍的なテーマと豪華声優陣の演技を、IMAXで堪能

少年ラジャーは、ひとりぼっちのアマンダが想像した、彼女にしか見えない想像の友だち“イマジナリ”だった。しかしある時、2人の前に謎の男ミスター・バンティングが現れ、いつも一緒だったアマンダとラジャーは離れ離れになってしまう。

失意のなかでジンザンという怪しげなネコに出会ったラジャーが知る、イマジナリの運命。それは人間に忘れられたらこの世界から消えてしまうということ。そしてラジャーがたどり着いたのは、人間に忘れ去られたイマジナリたちが身を寄せ合って暮らす“イマジナリの町”。ラジャーはそこで出会った仲間たちと共に、大切な人と家族の未来を賭けた冒険へと出発することに。

本作の原作は、イギリス文学協会賞を受賞し、カーネギー賞など数々の文学賞にノミネートされたA.F.ハロルドの「The Imaginary」(「ぼくが消えないうちに」こだまともこ訳・ポプラ社刊)。“イマジナリ”という空想の存在のキャラクターが繰り広げる冒険が描かれるファンタジーでありながらも、家族の関係や友情、身近な存在を尊ぶ気持ちなどリアルの世界にも通じるテーマが描かれ、同時に子どものころに誰もが持っていた“想像する”ことの無限の可能性を改めて気付かせてくれるエモーショナルなストーリーが展開。

西村プロデューサーは本作の企画意図として、こんな言葉を寄せている。「子どもたちの手の中に、明日は用意されている。その手から明日を奪い取ろうとするあらゆるものに、映画の作り手は、いつまでも戦いを挑む必要がある」。作り手たちが想像力を駆使して生みだした世界でもって、いまの時代に投げかけるメッセージ性の強さは、大人たちにもストレートに刺さるものがあり、いつのまにか心を奪われ童心に還っていることだろう。もちろん子どもたちにとっても、一生忘れがたい映画体験になること請け合いだ。

主人公のラジャーの声を担当したのは現在15歳の寺田心アニメーション映画初挑戦でありながら初主演を見事に務めあげ、いまこの年齢でしかできない少年期の複雑な感情を声の演技で体現していく。また、アマンダ役は『ちいさな英雄』の一編「カニーニとカニーノ」に続いてのスタジオポノック作品への参加となる鈴木梨央。2014年のテレビドラマ明日、ママがいない」でも共演した寺田と鈴木。成長した“天才子役”2人の表現力を、細やかな息づかいひとつまで逃さずに聞き取ることができるIMAXで味わってほしい。

さらにアマンダの母親リジーの声は、『怪物』(23)での迫真の演技も記憶に新しい安藤サクラ。ラジャーがイマジナリの町で出会う少女エミリの声は仲里依紗、ラジャーの前に現れる怪しげな猫・ジンザンの声を山田孝之、アマンダの祖母のダウンビートおばあちゃんの声を高畑淳子、イマジナリの町に住む老犬の声を寺尾聰ミスター・バンティングの声をイッセー尾形と、実力派俳優たちが脇を固める。そして『メアリと魔女の花』で主人公メアリの声を務めた杉咲花も“オーロラ役”として参加。どのようなかたちで登場するのかは、映画を観てのお楽しみだ。

■まるで3Dで観ているような没入感!美しいイマジナリの世界に全身で飛び込もう

ここからは、本作の核心に触れないようにIMAXの魅力にたっぷりと浸れるシーンをピックアップしていこう。

まずは映画の冒頭シーン。スクリーンに映しだされるのは、スタジオポノックの技術力の高さをまざまざと感じさせる美しい景色。ラジャーのモノローグに乗せて広がる想像力と活力に満ちた世界で、一気に作品のなかへ引き込まれていく。また、映画序盤に見られる少し窮屈そうな屋根裏部屋でアマンダとラジャーが一緒に遊ぶシーンも、アマンダの想像力が作りだした世界へと一気に解き放たれる感覚がたまらない。

なんといっても注目すべきは、ラジャーがジンザンに導かれてたどり着く“イマジナリの町”。どこの町にもあるような広い図書館の壁一面に並ぶ無数の書籍、そこに集う普通の人々と、彼らからは見ることができない“イマジナリ”たちが入り混じる。それだけで、きっと現実世界のどこかにもこのような“イマジナリ”が集まる空間が存在しているのではないかとついつい想像したくなる。

そして図書館が閉館すると、毎晩異なる場所へと様変わりしていく。ヨーロッパであったり日本であったり、一本の映画のなかでこれだけ多種多様な景色を見ることができる点もスタジオポノックならでは。IMAXの没入感も相まって、イマジナリたちと一緒に旅している気分が味わえることだろう。

さらには登場人物やイマジナリたちが織りなす物語の背景にある空のディテールにも注目してほしい。2Dなのに3Dを見ているような、あるいは本物の星空を見ているかのような立体感で、作品全体を包み込んでくれる。こうしたクリエイターたちの細部にわたるこだわりが貫かれた映像を確認できるのもIMAXの強み。もちろんそれは音響効果の部分でも存分に発揮され、観客のいる現実と映画のなかの現実、そこに存在するファンタジーの世界との結びつきをより強固なものにしてくれる。

耳からイマジナリの世界を堪能するならば、音楽プロデューサーの玉井健二(agehasprings)が手掛けた音楽、さらにイタリアの歌曲や『2001年宇宙の旅』(68)でも有名な交響詩「ツァラトゥストラはかく語りき」などを取り入れた音楽の数々も外せない。エンディングには「Say Something」でグラミー賞を受賞したア・グレイトビッグ・ワールドと、エミー賞受賞のシンガーソングライターのレイチェル・プラッテンのタッグによる「Nothing's Impossible」が流れ、クライマックスの余韻にしばらく浸れることまちがいなしだ。

IMAXの至高の上映環境で全身をもって“イマジナリの世界”を感じたら、きっと映画館を出たあとの景色がこれまでとはまるで違って見えるはずだ。寒い冬の季節を心の芯から暖かくしてくれる珠玉の映画体験を味わいに、大切な人と一緒に映画館へ足を運ぼう!

文/久保田 和馬

スタジオポノック6年ぶりの長編最新作『屋根裏のラジャー』のIMAXでの見どころをチェック!/[c]2023 Ponoc