師走のにぎわいのなか、歌舞伎座で好評上演中の「十二月歌舞伎」は、通常の二部制(昼の部・夜の部)ではなく三部制。第一部(11時開演)は『旅噂岡崎猫』と、歌舞伎座初登場の、超歌舞伎 Powered by NTT 『今昔饗宴千本桜(はなくらべせんぼんざくら』。第二部(14時45分開演)は、舞踊劇『爪王』と初演の『俵星玄蕃』。第三部(17時45分開演)は、舞踊『猩々』と名作『天守物語』。意欲作から名作まで歌舞伎ビギナーでも楽しめる多彩な演目が揃った。

第一部からは、超歌舞伎 Powered by NTT 『今昔饗宴千本桜』をピックアップ。中村獅童が『義経千本桜』と、バーチャル・シンガー初音ミクの代表曲「千本桜」の世界観を融合させて作り上げた本作は、「ニコニコ超会議2016」で初演。その後も“超歌舞伎”として親しまれ、ついに歌舞伎座初登場だ。冒頭では過去作のダイジェスト映像が流れ、獅童の解説と初音の“口上”も。幅広い層に歌舞伎の魅力を届けたいと公言している獅童の面目躍如だ。
芝居が始まると、獅童や中村勘九郎、中村七之助らが展開する歌舞伎の佇まいに最新のテクノロジーが小気味よく重なり、客席のボルテージも自然にアップ。獅童の長男・小川陽喜と初お目見得の次男・小川夏幹もしっかりと見得を切り、クライマックスは獅童と初音の宙乗り。客席がペンライトで埋め尽くされた様子は、歌舞伎のさらなる可能性を予感させた。

一方、第三部の『天守物語』は、坂東玉三郎が主役の富姫を演じながら演出を練り上げてきた名作。五月の平成中村座(姫路公演)では玉三郎が演出、七之助が富姫を演じた経験を踏まえ、今回も七之助が富姫を、玉三郎は初めて年下の友人・亀姫を演じている。姫路の白鷺城・天守閣を舞台に繰り広げられる美しくも妖(あやかし)の世界は、泉鏡花作品ならでは。物語の前半で富姫と亀姫が再会し、親しく頬を寄せ合う様子は、まさに七之助と玉三郎の“美”の共演。客席から思わずため息が漏れる。
後半は、富姫と、播磨守に仕える姫川図書之助の恋が描かれる。図書之助はこちらも平成中村座から続投の中村虎之介。誠実さがにじむ声とキビキビとした佇まいで、初めての恋に心を揺らめかせる富姫・七之助の表情とのバランスも良く、物語に引き込まれた。

その他の演目も、尾上松緑や中村勘九郎、坂東巳之助ら、実力派の底力をたっぷりと味わえる演目ばかり。「歌舞伎座新開場十周年」の掉尾を飾るにふさわしい充実ぶりを堪能して帰途についた。

取材・文:藤野さくら

歌舞伎座新開場十周年 十二月歌舞伎

公演期間:2023年12月3日(日)~26日(火)
会場:歌舞伎座
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2347825

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