まらしぃ×じん×堀江晶太kemu)による楽曲「新人類」が、全米最大規模の音楽授賞式『MTV Video Music Awards』の日本版『MTV VMAJ 2023』にて、『Daisy Bell Award』を受賞した。

【画像】まらしぃの演奏をバックにNORISTRYと「新人類」を熱唱する齊藤京子

 同楽曲は、ピアニストとしても活動するまらしぃと同年代のボカロP じんと堀江晶太kemu)がコラボし制作。3月に開催された『ボカコレ2023春』TOP100ランキングで1位となり、そのプライズでAdoが“歌ってみた”を投稿したほか、多くの2次創作を生み出している。

 そんな「新人類」の受賞にあたって、アワード当日には作曲者の一人であるまらしぃが、ゲストとともにライブパフォーマンスを披露。まらしぃ&原曲歌唱の鏡音リンの声と一緒にステージへ立ったのは、ニコニコ動画のシーンで長きにわたって活躍するNORISTRYと、以前の『MTV VMAJ 2021 -THE LIVE-』で同賞のパフォーマンス時に柊キライさんの「ラブカ?」を歌唱した日向坂46齊藤京子。実際に今回のステージでも圧巻のパフォーマンスを披露した三人に、オーバーグラウンドしたボーカロイドシーンの現在や、ボーカロイド楽曲を歌うこと、つくることの意義などについて、それぞれ話を聞いた。

――齊藤さんは『MTV VMAJ 2021 -THE LIVE-』にて、2021年のDaisy Bell Awardを受賞した柊キライさんの「ラブカ?」を歌われていました。その際ブログで「ボカロ曲を歌うのは初めてだった」と書いていましたが、一人のボーカリストとしてボーカロイド曲にどういった特徴を感じましたか?

齊藤:そのときがボーカロイドの楽曲に触れるのが初めてだったので、お話を頂いたときはすごく嬉しかったのと同時に、戸惑いもあったんです。今まで歌ったことのないジャンルの楽曲ですし、キーの高さも全然違ったので「大丈夫かな?」という不安があって。でも実際に歌っている映像を見たファンの方から反響をいただいて、ボーカロイドというジャンルに興味を持つようになりました。

 やっぱり生身の歌唱では表現できない世界観を見せてくれるのがボーカロイドなので、歌えないようなキーの高い楽曲もたくさんあってすごいなと思いますし、その楽曲を歌ってみた動画として投稿されている歌い手のみなさんも本当に素晴らしいですよね。尊敬の気持ちでいつも拝見しています。

――2021年の「ラブカ?」の歌唱から2年が経ち、またしてもDaisy Bell Awardの受賞曲を歌うステージに出演することになりました。お話を聞いての率直な気持ちはどうでしたか?

齊藤:まさかまた、VMAJのステージでボーカロイドの楽曲を歌えるとは思っていなかったので、驚きました。前回は「どうしよう」という不安が大きかったんですけど、この2年間で一人で歌唱させて頂く機会も増えて、その経験があって自信がついた分、今回は楽しみな気持ちが強かったです。それに今回は1人で歌うのではなく皆さんがいらっしゃると聞いて、楽しいステージにできたらいいなと思いました。

――まらしぃさんは楽曲の制作者として今回演奏にも参加しましたが、改めて「新人類」はどのように作られた楽曲なのかを聞かせてください。

まらしぃ:今回は僕が代表で出させてもらいましたが、この曲自体は僕と同世代の友人であるじんさんと堀江晶太(kemu)さんの3人で作った共作なんです。元々は僕が個人のアルバムを作る際に、せっかく3人集まるんだったら一緒に曲を作りたいという話になったのが発端で。最初はピアノをテーマにした楽曲にしようとか、3人それぞれキャリアも積んできたのでスタイリッシュな曲にしようと考えていたんです。ただ、僕のピアノのアイコンがお猿さんなんですけど、そういえば猿の曲ってあまりないかもねという話がポロっと出て。そんなときに、シャワーを浴びているタイミングで「ウッホウッホ」っていうのが浮かんできたんですよ。

NORISTRY:なるほど(笑)。

まらしぃ:「ウッホウッホ」でいいじゃんって思って急いで歌詞を書いたんですけど、じんさんとkemuさんには「猿は多分ウッホウッホじゃないし、歌詞にチンパンジーってあるし、どうなってんだ」って言われました(笑)。でも面白いからこれでいいかなということで作った、IQ2くらいの曲なので、深い意味はないです。

――そういった過程で作られた楽曲が、「ボカコレ」や今回のパフォーマンスなどを通して様々なところに届いているかと思います。それについてはどう感じていますか?

まらしぃ:ちょっと傍観しているようなところはありますね。ボーカロイドってどちらかというとサブカルチャーというか、インターネットに根づいた文化だと思うんですけど、今回は日本を代表するようなメインストリームで活躍されてる方に歌っていただいて。そしてインターネットで活躍されている方とも一緒にこの場所でパフォーマンスさせていただいたので、自分にとってもすごく刺激的な時間でした。あの場にいらっしゃった人たちは日本の音楽シーンを熟知してる人たちばかりだと思うので、そういった人たちが「新人類」のライブを見て楽しんでもらえていたらいいなと思います。

――「新人類」は歌ってみた動画の投稿も活発に行われていたりと多くの方に歌われていますが、人間が歌うとなったとき、どんなポイントが大変そうだと感じていましたか?

まらしぃ:そもそも高すぎて、「出るんですかね?」っていう。リハーサルのときは「すみません……」と思いながらやっていました(笑)。でも、本当にかっこよく歌ってくださって。もちろん自分もステージでパフォーマンスはしていましたし、自分の作った曲ではありますが、いちファンとしてすごく楽しい時間でした。

――NORISTRYさんは今回こういった形でパフォーマンスすることについて、どのように感じていましたか?

NORISTRY:最初、嘘かと思いました(笑)。お二方のことはもちろん存じ上げていましたし、そんなお二方と同じステージに立つなんて嘘かなと。やっぱりずっとインターネットを中心に活動してきたので、誰もが知っているような方と一緒に歌わせてもらえるのかという喜びが大きかったですね。

――そしてこの取材はまさにパフォーマンス後に行なっています。実際に披露してみて、いかがでしたか?

齊藤:リハーサルのときは本当にガチガチで。歌詞も間違えちゃいけないし、自分のことで精一杯だったんですけど、本番は歌いながらみなさんと目が合う瞬間もあって、本当にただただ楽しかったなと思います。今もまだ余韻に浸っている状態です。

まらしぃ:一言一句、全部一緒です(笑)。元々そんなに長い曲ではないんですけど、それでもあっという間でした。僕も始まる直前は心地のいい緊張感があったんですけど、いざステージに立ってお2人がすごくかっこよくパフォーマンスされてるのを見ながら自分もピアノを弾かせてもらって、お客さんがサイリウムを振って盛り上がってくださってるのを見ると、やっぱりすごく楽しいなあと思いましたね。

NORISTRY:僕も同じく、楽しかったです。リハーサルのときは僕も緊張していたので、2人の顔を見てもいいのかということすら分からなかったんですけど、本番になってぱっと見たら目が合ったりする瞬間があって。目の前を見たらキラキラしていましたし。楽しかったです。

――パフォーマンスを拝見していましたが、特に齊藤さんの原曲と同じキーでの歌唱が見事でした。

齊藤:挑戦したこともないキーでしたね。いつもより1オクターブ高いところでも結構限界なのに、いつもより2オクターブ高いところだったので、不可能だなと思っていました(笑)。直前までスタッフさんと「出るか出ないか一か八かですね」みたいな話をしていたんですよね。

NORISTRY:めっちゃかっこよかったです。

まらしぃ:流石ですよ。

齊藤:ありがとうございます。歌えた瞬間は安心しました。

――今の話とも繋がる部分があるかと思いますが、齊藤さん、NORISTRYさんそれぞれから見た「新人類」の解釈や歌いやすさ、歌いにくさなどを教えてください。

NORISTRY:僕はサビは1オクターブ下で歌っているんですけど、そうするとめちゃくちゃ歌いやすいんですよね。それ以外の部分で言うと、「ウッホウッホ」の連続が意外とめちゃくちゃ難しかったです。

齊藤:本当にそうですよね、分かります

NORISTRY:〈ホ〉で空気がすごく出ていくので、意外と息が続かないっていう。でもまらしぃさんもおっしゃっていたように、IQが低いのにすごく格好いい曲なんですよね。最初に聴いたときから、何も考えずに楽しめる楽曲でいいなと思っていました。

齊藤:「ウッホウッホ」のところもそうですし、キーが高い部分もですが、もうどうにでもなれという気持ちで歌っているんです(笑)。でもその一方でAメロとかは結構感情を入れやすくて。怒ってるように歌ったり、いろんな表現ができたのですごく楽しかったです。私もこの曲を聴いたとき、すごく歌いたいと思ったんですよね。ずっと聴いている大好きな曲です。

まらしぃ:嬉しい。ありがとうございます。

――ニコニコ動画の音楽シーンを長くみてきたまらしぃさん、NORISTRYさんに伺います。「ボカコレ」や「Daisy Bell Award」のように、ボカロ曲がこれまでにない注目を浴びていることやポップスのシーンで市民権を得ていることについて、どのように受け止めていますか?

NORISTRY:本当に数年前までは考えられなかったですよね。

まらしぃ:そうですね。

NORISTRY:地下の地下の地下のサブカルチャーという感じだったので、嬉しいです。これは歌い手側の意見ですけど、以前は歌い手が「インターネットカラオケマン」と馬鹿にされるような時代もあったので、そういう時期を越えて認知していただき始めているというのはすごく嬉しいです。今回もまさかこんなイベントで、楽曲を作られた方と齊藤さんと共演できる日が来るんだと思って感慨深かったですね。まらしぃさんはどうですか?

まらしぃ:たしかにボカロシーンはいま、すごく盛り上がっていますよね。それこそ今日のアワードに出られていた方の中でも、たとえばYOASOBIのコンポーザーのAyaseさんもボカロPとして曲を発表していますし、メジャーのバンドや曲を作ってらっしゃる方でボーカロイドから出てきている方も多くなっているなと思います。なのでボーカロイドに触れるきっかけや間口は広がっていると思いますし、こういう形でボーカロイドを知ってもらうのも嬉しいなと思いますね。

――それこそ今日のイベントは色々なアーティストのファンが集まっていますし、「新人類」が初めて聴いたボーカロイド楽曲であるという方もいたと思います。

まらしぃ:そうですね。自分も活動させてもらってる者としてこういう場でやらせてもらえてすごく光栄ですし、自分たちの普段のフィールドとは全然違うところで大活躍されている方との接点を作ってくれたという意味でも本当に嬉しいです。

齊藤:私もこういう機会をいただいて、ボーカロイドのシーンをもっと早く知っておきたかったなと思ったんです。ファンのみなさんにもボーカロイド楽曲に興味を持って頂けるように、少しでもいいので、これからも貢献できたらいいなと思いますね。

(文・取材=村上麗奈)

まらしぃ×NORISTRY×日向坂46 齊藤京子(トロフィー受賞写真撮影=田中聖太郎)