子育て本著者・講演家の私には、知的障害を伴う自閉症の息子がいます。自閉症は、「自閉症スペクトラム(連続体)」という言葉が使われているように、軽度から重度までさまざまな人がいます。外見では自閉症とは分からないですが、見ているようで目が相手に合わなかったり、言葉を発することができなかったりする重度の場合、数秒接していれば、普段、障害のある人と関わりのない人でも分かります

 しかし、軽度の場合や、知的障害が伴わなかった場合、状況によっては「逮捕」されるケースもあると聞いたことがあります。

 例えば、逮捕されたときに取調室で、刑事に「君がやったんだね?」と聞かれ、本人が「君がやったんだね」のように完璧な“おうむ返し”をした場合、知識がある刑事は「あれ、おかしな日本語だな、もしかしてこの人は自閉症かな」と分かってくれるかもしれません。

 子どもの頃だけでなく、大人になってもこの状態であれば、知的障害もあり、自閉症としては軽度ではないと思われます。そのため、親が早い段階で障害に気付き、幼児期から療育手帳を取得しているかもしれません。療育手帳があれば、障害者であることが証明されます。

 しかし、知的障害がごく軽度である場合は手帳が交付されません(自治体によって異なりますが、IQがおおむね70~75以下でなければ療育手帳は交付されない)。先述の刑事から、言葉の後半部分の「ね」を省略して「君がやったんだ」と詰め寄られ、条件反射で「僕がやりました」と反応した場合、そして手帳も持っていない場合、もしかしたら誤認逮捕されるかもしれません。

痴漢扱いされ、逮捕される可能性は「ある」

 次に挙げるのは、障害者の悪気のない行動が誤解を招いてしまい、誤認逮捕されかねないケースとして、私が見聞きしてきたことです。

【毛玉】

自閉症の息子が学生の頃、特別支援学校で、保護者と地元警察署との勉強会が開催されました。ある保護者が次のような質問をしました。

「息子は毛玉にこだわりがあり、隣に座っている女性のセーターに毛玉が付いていたら、おそらくそれをちぎろうとすると思うのですが、この場合も痴漢扱いされ、逮捕される可能性はあるのでしょうか」

警察は、こう答えました。

「あくまでも『相手が嫌な思いをした』ら、障害児であっても逮捕される可能性は十分あります。犯意があったかどうかが焦点となるので、釈放はされると思いますが、絶対に逮捕されないという保証はありません」

【ボール】

知り合いにいる、25歳の自閉症の青年の話です。あるとき公園で、足元にボールが転がってきたので、拾って幼い子どもに渡しました。「人に会ったらあいさつしましょう」としつけられていた彼は、「遊びたい」という気持ちでボールを渡した後、笑いながら幼児に言葉をかけました。幼児の母親は不審者だと思い、警察へ通報。その都度、彼の母親はハンコを持って警察に息子を引き取りに行っていたそうです。

【バスの座席】

特別支援学校のスクールバスで、「奥から順番に座りましょう」「座席は詰めて座りましょう」と教えられていた子。ある日、公共のバスに乗ると、乗客はたった3人でした。

しかし、学校で教えられてきたルールを順守して、乗客の女性の横にピタッと座りました。空席はたくさんあるというのに、見知らぬ男性がすぐ横に座ってきたので、女性は運転手に助けを求めたそうです。

【チャックが開いている】

ある自閉症の青年が、見知らぬ女性のかばんのチャックが開いているのが気になって仕方がない様子でした。青年は女性に「チャックを閉めてください」と命令し、驚いた女性はチャックを閉めましたが、まだ1センチほど開いた状態でした。すると、それを見た青年は「チャックを閉めてください」とさらに命令。女性は「警察を呼びます」と携帯を出したそうです。

【気になるロゴ】

私の息子は幼い頃、「コーチ(COACH)」のバッグのロゴに執着していました。私はバッグを持っていなかったのですが、ロゴにこだわっていたようです。

息子は、電車内でコーチのバッグを持っている女性を見ると、ペタッと触りに行きました。当時は幼かったので許されていたのでしょう。幸い、今はそのこだわりは消えましたが、成人した今もこうした行動が続いていたら、スリと思われ、通報されていたかもしれません。

 日本の福祉は自己申告制です。療育手帳を取ったり、障害基礎年金を受給したり……といった福祉サービスを受けるとき、障害のある本人がこうした手続きを行うことは困難です。

 知的障害がない、あるいは軽度などで療育手帳の交付対象者とならなくても、医師の意見書(精神科医でなくても小児科医でも可能、診断書とは別物)があれば、「障害福祉サービス受給者証」が発行されます。これを取得すると、障害者総合支援法や児童福祉法に基づいて提供されている福祉サービスを、行政の給付金を受けながら利用できるようになります。

 親が一人で「この子を何とか育てよう」とせず、福祉サービスを利用して行政とつながっていることが、誤認逮捕の防止なども含め、将来子どもを救うことになるのではないでしょうか。

子育て本著者・講演家 立石美津子

わが子を犯罪者にしないために…